令和百物語

みるみる

文字の大きさ
上 下
88 / 100

第八十八夜 無くし物

しおりを挟む

「ない、ない‥どうしよう。確かにさっきまで手に持っていたのに‥。」

「何だ、また無くしたのか‥。」

俺の妻は、よく物を無くす女だった。‥今だって、ついさっき俺が渡した駐車券を、もう無くしてしまっていたのだった。

「財布を取り出す為に、ちょっとお前に持ってて貰おうと思って渡しただけなのになぁ‥。」

「ごめんなさい。‥‥本当にどうしてかしら?さっきまでちゃんと手に持っていたのに‥‥。」

「車のシートの隙間に入ってないか?」

「‥‥探してみるね。」

全く‥妻には本当に何も持たせられないな‥。

俺は妻に呆れ果ててしまった。

‥妻は一生懸命探していたが、きっとまた今回も見つかる事はないだろう。

スーパーの駐車場の出口は、運良く開放されていた為、車は駐車券なしでも無事に出る事ができた。



カサッ。

「‥ったく、誰だ!また俺のドアポストに何か入れてったな!」

高橋直樹は、このアパートに越して来てから三年間ずっと嫌がらせを受けていた。

毎日のように、誰かが玄関のドアポストに訳の分からない物を入れていくのだった。

そして、今もまた誰かが何かを入れていったようだ。

彼は、今日こそ犯人を捕まえようと思い、急いで玄関の扉を開いて、外に出た。

彼の部屋はアパートの二階にあったが、誰かが階段を降りて行く音もしなかったし、辺りを見回しても誰もいなかった。

「‥‥ったく、一体誰なんだよ。」

彼は自分の玄関のドアポストから、誰かが入れていった小さな紙を手に取った。

「‥‥なんで他県のスーパーの駐車券が入ってんだよ‥。」

彼はそう言うと、その駐車券をゴミ箱へ捨てた。

捨てた駐車券の日付けと時間帯が、今日の今頃のものだった事には気付かなかったようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

真夜中血界

未羊
ホラー
 襟峰(えりみね)市には奇妙な噂があった。  日の暮れた夜9時から朝4時の間に外に出ていると、血に飢えた魔物に食い殺されるというものだ。  この不思議な現象に、襟峰市の夜から光が消え失せた。  ある夏の日、この怪現象に向かうために、地元襟峰中学校のオカルト研究会の学生たちが立ち上がったのだった。 ※更新は不定期ですが、時間は21:50固定とします

ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する

黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。 だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。 どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど?? ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に── 家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。 何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。 しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。 友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。 ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。 表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、 ©2020黄札

傘華 -黒き糸-

時谷 創
ホラー
これまでも人のSOSを感じ取り、怪異を祓ってきたが、 友人宅を訪れる際も近くの別荘でSOSを感じ取った。 そこで出会ったのは「執事服の少年」と「着物姿の少女」。 2人が抱える仄暗い「秘密」を今回も祓う事はできるだろうか?

吸血鬼は唇に紅を差す

駄犬
ホラー
 九州のとある地域にて、浄化作戦が行われた。午前零時過ぎという闇も味方につけたその作戦には、特殊作戦執行部隊の「アルファ」が、参加した。「入間智」「田所海士」「近藤ハヤル」遺体が発見された上記の者以外にも、行方不明者を数えると、十人にも上る死者がでた。包括的な死者数は計三十名。のちの社会的影響や目下の成果から鑑みるに、浄化作戦は成功といえるだろう。そして、死者を弔う意味を込めて「アルファ・マンティス作戦」と名付けられ、浄化作戦は完遂された。

脱獄

高橋希空
ホラー
主人公は唯一の家族である母を殺人犯に殺された。そんな彼はその殺人犯がいるという最も危険な牢獄の看守に就職したが、そこにいる囚人が何者かによって開け放たれ看守だからと追われる羽目に……。一緒に船に向かっていた囚人アルマに救われ、難を逃れるが…… ※元にした原作小説はノベルアップ+と野いちごで読めます。ただ設定が全く違います。 ※NOVERDAYSと小説家になろうにて公開中

「阿藤零士の心霊事件ファイル ~名探偵は美少女助手と除霊を頑張る~」

AAKI
ホラー
ホラーチックな展開で実は人怖系なんてミステリーはいくらもあるが、その逆はほぼ見ない。果たして真に恐ろしいのは人が【妖かし】か。名探偵と噂された男“阿藤零士”が、美少女助手兼副所長“双葉・エルサリーヌ”と心霊事件を解決していくホラー作品。ある日、阿藤探偵事務所に高校教師の九十九 明可が依頼人としてやってくる。依頼内容は「学校の生徒が痴漢加害に関わっている可能性がある」ということでその調査を。しかし、あれやこれやと零士達が彼女の学校へと赴いたところ、幽霊騒動に巻き込まれることとなるのだった。零士と双葉は、痴漢事件と幽霊騒動を収める戦いへと挑む。

【完結】わたしの娘を返してっ!

月白ヤトヒコ
ホラー
妻と離縁した。 学生時代に一目惚れをして、自ら望んだ妻だった。 病弱だった、妹のように可愛がっていたイトコが亡くなったりと不幸なことはあったが、彼女と結婚できた。 しかし、妻は子供が生まれると、段々おかしくなって行った。 妻も娘を可愛がっていた筈なのに―――― 病弱な娘を育てるうち、育児ノイローゼになったのか、段々と娘に当たり散らすようになった。そんな妻に耐え切れず、俺は妻と別れることにした。 それから何年も経ち、妻の残した日記を読むと―――― 俺が悪かったっ!? だから、頼むからっ…… 俺の娘を返してくれっ!?

いじめ殺し~いじめられっ子からの復讐~

野うさぎ
ホラー
 いじめ殺しという職業が異世界にあって、人間世界でいじめを行ったら、殺されてしまう。    どこの世界にも、いじめはある。  いじめは永遠に存在すると言っていいくらい。  いじめっ子を殺していいかと聞かれれば人間世界では絶対否定されるけど、この世界では絶対肯定される。  それが復讐なんだ。  なぜ、復讐してはならないのか証明しなければいじめ殺しは終わらない。 いじめ殺しは、なろう、カクヨム、ベリーズカフェ、野いちご、エブリスタ、魔法のアイランドでも投稿しています。

処理中です...