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第八十八夜 無くし物
しおりを挟む「ない、ない‥どうしよう。確かにさっきまで手に持っていたのに‥。」
「何だ、また無くしたのか‥。」
俺の妻は、よく物を無くす女だった。‥今だって、ついさっき俺が渡した駐車券を、もう無くしてしまっていたのだった。
「財布を取り出す為に、ちょっとお前に持ってて貰おうと思って渡しただけなのになぁ‥。」
「ごめんなさい。‥‥本当にどうしてかしら?さっきまでちゃんと手に持っていたのに‥‥。」
「車のシートの隙間に入ってないか?」
「‥‥探してみるね。」
全く‥妻には本当に何も持たせられないな‥。
俺は妻に呆れ果ててしまった。
‥妻は一生懸命探していたが、きっとまた今回も見つかる事はないだろう。
スーパーの駐車場の出口は、運良く開放されていた為、車は駐車券なしでも無事に出る事ができた。
カサッ。
「‥ったく、誰だ!また俺のドアポストに何か入れてったな!」
高橋直樹は、このアパートに越して来てから三年間ずっと嫌がらせを受けていた。
毎日のように、誰かが玄関のドアポストに訳の分からない物を入れていくのだった。
そして、今もまた誰かが何かを入れていったようだ。
彼は、今日こそ犯人を捕まえようと思い、急いで玄関の扉を開いて、外に出た。
彼の部屋はアパートの二階にあったが、誰かが階段を降りて行く音もしなかったし、辺りを見回しても誰もいなかった。
「‥‥ったく、一体誰なんだよ。」
彼は自分の玄関のドアポストから、誰かが入れていった小さな紙を手に取った。
「‥‥なんで他県のスーパーの駐車券が入ってんだよ‥。」
彼はそう言うと、その駐車券をゴミ箱へ捨てた。
捨てた駐車券の日付けと時間帯が、今日の今頃のものだった事には気付かなかったようだった。
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