34 / 100
第三十四夜 ポスト
しおりを挟むポトンッ。
「お母さん、郵便屋さんが来たよ。」
「はーい。今取りに行くから。」
我が家には、赤い郵便ポストがあります。おじいちゃんが私の為に作った木製のポストです。
このポストが家の玄関に設置されてからは、私は毎日のように郵便物がポストに入れられるのを待っていたのです。
「お母さん、何が入ってた?」
「チラシだよ。風香に勉強しませんかっていうチラシ。どうする?」
「私がもらう。」
「風香、お母さんは買い物へ行ってくるからお留守番頼むわね。誰が来ても開けちゃ駄目よ。」
「うん、気を付ける。行ってらっしゃい。」
ボトンッ。
あっ、また郵便だ。私はすぐに取りに行きました。封を開けます。
「ふうか、おまえの あかあさんはくるってる。はやくにげろ!」
またこの手紙です。いつもお母さんが買い物へ行く時間を狙ったかのように、私宛てに届くのです。
私はお母さんに見つからないように、ビリビリに破って捨てました。
昼過ぎに出かけたお母さんが、夕方になって戻ってきました。
「風香、ただいま。」
「お母さんお帰りなさい。」
「お母さん疲れちゃった。もう寝るね。」
「うん、おやすみ。」
次の日、お母さんはお昼過ぎからまた出ていきました。
ピンポーン、ピンポーン
誰かが来ましたが、危ないから誰が来ても開けなくていいと言われてたので、扉は開けませんでした。
ボトンッ。
それでも、ポストの手紙は別です。私はすぐに取りに行きました。
また見慣れた封書が入っていました。
「ふうか、にげろ。はやく、きょうでもいいからにげろ!」
また同じような手紙でした。だれがどうしてこんな手紙を入れるのか分からないけど、逃げてみたくなりました。
私は裸足で外へ出ました。
眩しい。でも、外はとても明るくて空気が美味しい。私は体力がないので、日陰で横になって休みました。
しばらくすると、近所の人の通報で私は警察に保護されました。その後、児童施設に預けられました。
お母さんは、おじいちゃんとお金の事で揉めて殺してしまった罪と、私を殺して保険金を取ろうとした罪で捕まってしまいました。
お母さんが毎日お昼に出かけていたのは、好きな男の人がいたからだそうです。
私はおじいちゃんがいなくなってから、ご飯を食べたり、お風呂を入ることをあまりしていませんでした。お母さんが育児放棄をしていたからだそうです。
私はもうすぐ小学校へ入学するそうです。施設の人が、入学用品を揃えてくれました。
私のポストへ手紙はまだ届いているのでしょうか。
手紙の主は誰なのでしょうか。毎日お母さんのいない時間を狙って手紙が入れられていた事、私がポストへ手紙が入るとすぐに見に行く事を知ってる人だとは思います。
私のお父さんでしょうか?お母さんとおじいちゃんと暮らすようになってからは全く会えていませんでしたが、時々様子を見に来てくれてたのかもしれません。
お母さんには、誰が来ても絶対に扉を開けないように言われてましたが、私が家を逃げ出した日に、来客のチャイムが鳴った後すぐにポストの手紙を取りに行くと、何となくお父さんらしき後姿を見ました。
お父さんは、新しい家族と暮らしてると聞きました。それでも、時々私を気にかけてくれてたんだとしたら、こんなに嬉しい事はないです。
お父さん、ありがとう。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
JOLENEジョリーン・鬼屋は人を許さない 『こわい』です。気を緩めると巻き込まれます。
尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)
ホラー
ホラー・ミステリー+ファンタジー作品です。残酷描写ありです。苦手な方は御注意ください。
完全フィクション作品です。
実在する個人・団体等とは一切関係ありません。
あらすじ
趣味で怪談を集めていた主人公は、ある取材で怪しい物件での出来事を知る。
そして、その建物について探り始める。
あぁそうさ下らねぇ文章で何が小説だ的なダラダラした展開が
要所要所の事件の連続で主人公は性格が変わって行くわ
だんだーん強くうぅううー・・・大変なことになりすすぅーあうあうっうー
めちゃくちゃなラストに向かって、是非よんでくだせぇ・・・・え、あうあう
読みやすいように、わざと行間を開けて執筆しています。
もしよければお気に入り登録・イイネ・感想など、よろしくお願いいたします。
大変励みになります。
ありがとうございます。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
【本当にあった怖い話】
ねこぽて
ホラー
※実話怪談や本当にあった怖い話など、
取材や実体験を元に構成されております。
【ご朗読について】
申請などは特に必要ありませんが、
引用元への記載をお願い致します。
神送りの夜
千石杏香
ホラー
由緒正しい神社のある港町。そこでは、海から来た神が祀られていた。神は、春分の夜に呼び寄せられ、冬至の夜に送り返された。しかしこの二つの夜、町民は決して外へ出なかった。もし外へ出たら、祟りがあるからだ。
父が亡くなったため、彼女はその町へ帰ってきた。幼い頃に、三年間だけ住んでいた町だった。記憶の中では、町には古くて大きな神社があった。しかし誰に訊いても、そんな神社などないという。
町で暮らしてゆくうち、彼女は不可解な事件に巻き込まれてゆく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる