異世界恋愛短編集

みるみる

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優柔不断な男 3

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 マリアンはローラとノキアのいる調理場から離れると、何もする事がなかったのでとりあえず川に向かう事にしました。

 川の水で顔や足を洗えば昨日からずっとモヤモヤしていた気持ちも晴れるのではないか‥と思ったのです。

 マリアンが川にそっと足を下ろした瞬間、いきなり何者かに背中を押されてしまいました。

「きゃっ‥。」

 バシャーンッ!

 マリアンは頭から川へと落ちてしまいました。

「痛っ‥。」

 マリアンは川へ落ちたせいで、顔や手を川底の石で切ってしまったようです。


「‥誰がこんな‥。」

 マリアンは辺りを見回しましたが、自分を川へ突き落とした人物の姿はもうありませんでした。

「あっ、ブロウからもらったネックレス!」

 慌てて首元を触ってネックレスの所在を確かめますが、ネックレスはそこにありませんでした。

 マリアンが唯一ブロウにねだって買ってもらったお気に入りのネックレスだったのに‥。

 毎日首につけてそれを触るたびに、ブロウと両思いになれた実感を味わっていたというのに‥。

 ネックレスがなくなってしまう事が、ブロウとの別れを暗示しているようで‥マリアンはとてつもない不安にかられました。

「嫌、ブロウに振られたくない!ネックレスも諦めないわ!」

 そう言ってマリアンはネックレスを探し始めました。

 ふと、川の流れていく方を見ると‥鎖のちぎれたネックレスが流されて沈んでいく様子が見えました。

 マリアンは流されていったネックレスを取ろうとして川の中央まで泳いで行きました。

「待って‥。」

 両手で水をかき分けて必死に手を伸ばしましたが、ネックレスはとうとう川底へと沈んでいってしまいました。

 そして‥マリアンも川の深みにはまり足場を失って溺れてしまいました。

 

 マリアンが川へ行ってから数時間後‥

 ようやく皆がマリアンが行方不明になった事で慌て始めました。

「マリアンはまだ帰って来ないじゃないか。もうこんなに暗くなっているというのに‥。何かあったんじゃないか?」

 ユリシスがそう言うと、バレンティンが立ち上がって外套を羽織り歩き出しました。それを見たローラはすかさずバレンティンをとめようとしました。

「バレンティン、どこに行くの。まさか一人でマリアンを探しに行くつもり?危ないからやめて!」

「仲間が一人行方不明になっているんだ。探しに行くのは当然だろ!それよりもなぜ今まで誰もマリアンを心配しなかったんだ?‥俺はブロウをさしおいて勝手な事ができないから我慢してたけど‥もう限界だ!俺は一人でもマリアンを探す!」

 バレンティンはそう言うと、ブロウをひと睨みしてから入り口の松明を一つ取ると、暗闇の中を走っていきました。

「‥‥。」

 ブロウはそれでも黙ったまま‥立ち上がる事もなく、ただ座って俯いているだけでした。

 そして時折、ユリシスと肩を寄せ合うノキアをチラチラと見つめるのでした。

 そんなブロウの態度を不審に思ったユリシスは、ブロウに強い口調で話しかけました。

「‥ブロウ、君はなぜ恋人のマリアンを探さないんだ。恋人がいなくなったら普通は心配をするものじゃないか?」


「‥‥どうせどこかに隠れて、俺が探しに来るのを待っているんだろ?あいつはそんな女なんだ。だからすぐに探しに行くだなんて‥甘やかしちゃダメだ!そんな事をしたら、味をしめてまたこんな事をしでかしてしまうからな!」

「‥ブロウ、マリアンを呼ばわりするなんて‥君は正気か?僕には彼女がそんな悪い子には‥とても思えないが‥。それにこんなに暗くなってるんだ、どんな理由だろうと放っておく訳にはいかない!‥僕も探しに行く!」

 ユリシスもそう言うとすぐにバレンティンの後を追って暗闇の中に入っていきました。

 その為小屋の中にはブロウとノキアとローラの3人だけが取り残されました。

 3人の間にしばらく沈黙が続きましたが、ローズが一番最初に口を開きました。

「‥ブロウ、あんたマリアンを探しに行かなくて本当にいいの?マリアンが事故にあってたらどうするの?」

「‥ありえないよ。それに‥俺はやっぱりマリアンとはもう付き合えない。」

「‥ちょっと、ブロウ!その話はまだ駄目‥。」

「‥‥いや、もう自分の心を誤魔化すなんてできない!ノキアが俺の事をまだ好きだと知ってしまったからには、マリアンにはすぐにでも別れを告げるつもりだ!‥だからマリアンの事を心配するのはもう俺の役割ではない!」

「‥ブロウ!今はその話をするのは‥。」

「ノキア、もう隠すのはやめよう!」

「‥ああ、もう!ブロウ‥ってば‥タイミングが‥。」

 
 しばらくブロウとノキアのこのやりとりを黙ってみていたローラでしたが、段々と苛々が募り、とうとう大声で怒鳴ってしまいました。

「ブロウ!あんたって最低!ノキアと両思いになったから、マリアンはもう用無しって事?酷すぎ!‥‥それにノキアも何?ブロウの事がまだ好きって何なの?それならどうしてノキアはブロウを振ったの?なぜユリシスと付き合ったの?」

「‥‥ローラ、あまり大声を出さないで!落ち着いて!」

「‥大声を出すなですって?誰かに聞かれちゃまずいの?なぜ?」

「‥‥。」

「ノキア、あなた‥もしかしてユリシスとブロウを天秤にかけてる?」

「‥‥。」

「ノキア、あなた本当にユリシスを振ってブロウと結婚するつもり?」

「ローラ、ノキアを責めるな!この件は、俺がユリシスにちゃんと話をつけて解決するから‥もういいだろ?誰にも迷惑かけてないじゃないか。」

「‥‥マリアンの気持ちはどうなるのよ。」
 
「マリアンの気持ちも何も‥彼女にはもう俺の事は諦めてもらうしかないな。」

「‥‥最低。あんた達汚い!汚すぎる!‥私もマリアンを探しに行くわ。あんた達と同じ空気を吸っていたくないから!」

 ローラはそう言って、暗闇の中に浮かぶ松明の灯りを目指して走って行きました。

 
「ブロウ‥。」

「ノキア!」

 ローラもいなくなった小屋の中で、ブロウとノキアは抱き合いました。

 互いの口を貪り合い、激しく絡み合いました。

 ノキアは、ユリシスとは違うブロウとの荒々しい交わりにすっかり夢中になっていました。

「‥凄い、気持ちいいの‥、何度でもイッちゃう。」

「‥ああ、いくらでも気持ちよくさせてやるよ。」

「‥マリアンともこんな事した‥の?」

「‥してない、あいつにはこんな事してない。」

「‥嬉し‥い‥。あっ、また‥気持ち良い‥。」


 2人は誰もいなくなった小屋の中で、すっかり快楽に溺れてしまっていました。

 マリアンが行方不明だというのに全く心配する事もなく、二人は思いがけなく手にしたチャンスを無駄にする事なく、幸せな時間を過ごしたのでした。

 





 

 


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