異世界恋愛短編集

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鏡の中 後編

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アイリス姫は不思議な鏡に映った映像が、誰かの未来を映しているのだろうと確信しました。なんの根拠もありませんが、そう思わないとこの不思議な体験の説明がつかないと思ったのです。

「本当に不思議な鏡ね。魔法の鏡かしら?‥もしあれが本当に誰かの未来を映しているんだとしたら‥‥私はせっかく作ったこのドレスを誰かにあげてしまったのね。‥‥もったいないけど、それであの女性が幸せになるんなら、まあ良いわ。」

アイリスはそう言って、もう一着ドレスを作り始めました。何日もかけて、やっと仕上げたドレスは最初に作ったドレスよりも満足のいく出来栄えでした。

ドレスの出来に満足したアイリス姫は、再び鏡の前に立ってみました。

すると、鏡はまた前回と同じ女性を映し出しました。その女性はアイリスの作ったばかりのドレスを身につけていました。

鏡の中でその女性は何か思い悩んでいるようでした。

すると女性の背後から、王妃様とサフラン姫がやってきて、女性の首元にある豪華なネックレスをいきなり奪ってきました。そして、王妃様によってそのネックレスはサフラン姫の首にかけられました。

強引に引っ張られたせいか、その女性の首元は赤くなり、傷付いて出血していました。

王妃様とサフラン姫の立ち去った後、女性はその場で座り込んで泣いてしまいました。

アイリス姫はそんな可哀想な女性に向かって、思わず声をかけてしまいました。

「‥何て可哀想なの‥あなたは誰?私があなたを助けてあげるわ。」

アイリス姫がそう言った瞬間、鏡の中の女性は泣き止み、アイリス姫の真ん前に立つと、まるでアイリス姫の姿が見えてるかのように話しかけてきました。

「‥私はアイリス。美しく賢くて心の優しいアイリス姫、あなたよ。」

鏡の中の女性はそう言ったきり、鏡の中から姿を消してしまいました。

そして‥不思議な鏡の鏡面はバキバキと音をたててひび割れ始め、やがて粉々に砕け散ってしまいました。そして、その砕け散った粉は光の粒子となってアイリス姫のまわりを漂い始めました。

光の粒子はアイリスが最初に作ったドレスをいつのまにかアイリスに着せて、綺麗な靴を履かせ、化粧や髪のアップもしてしまいました。

「アイリス、この部屋から出なさい。そして運命の相手を見つけなさい。」

光の粒子は、いつの間にか人型になっており、アイリス姫にそう言うと消えて無くなってしまいました。

アイリス姫は、この時無性にあの鏡の中の男性に会いたい衝動に駆られました。そして、部屋を出て今晩行われているはずの夜会会場へと向かいました。

会場に入るや否や、人々の視線がアイリス姫に集中しました。

アイリス姫は自分が醜いせいなのだと思い、恥ずかしくて泣き出しそうになり、俯いてしまいました。

ですが、そんなアイリス姫にダンスを申し込む者がいました。

「‥美しい方、どうか私と踊って頂けませんか。」

アイリス姫がその声の主を見上げると、そこに立っていたのは、なんと鏡の中で見た美しい男性でした。

「‥喜んで。」

アイリス姫とその男性はダンスを踊った後もお話をしたり、とても楽しい時間を過ごしました。

アイリス姫は自分がこのお城の姫である事、自分を醜いと思い込んでいて、ずっと部屋に閉じこもっていた事を告白しました。

男性も自分がこの国の者でない事、高貴な身分である事を明かしてくれました。

男性は帰り際に、アイリス姫にネックレスを差し出してプロポーズをしました。

「‥いつか心惹かれる女性に出会えたら、このネックレスを渡してプロポーズするつもりだったんだ。‥アイリス、結婚して欲しい。」

「‥はい。喜んでお受けします。‥デイビッド様。」

その日、二人は結婚を約束して別れました。

そしてその翌日、アイリスが部屋に閉じこもる事をやめて庭で風に当たっていると、王妃様とサフラン姫がやってきました。

アイリス姫は、首元のネックレスを王妃様に無理やり奪われてしまいました。王妃様は奪ったネックレスをサフラン姫につけてやると、満足そうな様子でその場を去って行きました。

アイリス姫が首元を手で触ると、手には血がついていました。

アイリス姫はその血をハンカチで拭くと、部屋に戻り机の引き出しから本物のネックレスを取り出しました。

「‥良かった。あの鏡の中の映像通りになってたから、用心して本物をここへ隠しておいたのよね。お母様達、あれが私の作った偽物と知ったら怒るかしら。」

アイリス姫は本物のネックレスを付けてお城を飛び出しました。

お城の外にはデイビッド様の馬車が、アイリス姫の事を待っていました。

そしてその馬車の後ろには、アイリス姫の花嫁道具をたくさん載せた荷馬車もひかえていました。この花嫁道具、なんとアイリス姫の父親である王様が用意したものでした。

‥‥実は王様は、お城の奥の部屋に閉じこもりっぱなしのアイリス姫を心配しながらも、下手にアイリス姫を可愛がると、王妃様やサフラン姫が裏でアイリス姫を虐める事を恐れていたのです。

その為、アイリス姫にあえて新しい服を買い与えなかったりして可愛がってないふりをしていましたが、実はアイリス姫の為に沢山の金貨や花嫁道具を隠して用意していたのでした。


「アイリス、王様の許可は貰ったよ。今日から君は私の国の王太子妃となるんだ。‥さあ、行こうか。私達のお城へ。」

「ええ、行きましょう。」

こうしてアイリス姫とデイビッド王子は、デイビッド王子の住む大国へと向かいました。

そしてその大国で、アイリス姫は王太子妃となり、末長く幸せに暮らしたそうです。

一方王妃様とサフラン姫は、奪ったネックレスが偽物だと気付き、怒り心頭でした。おまけにアイリス姫が大きな国の王太子妃になった事を知って、たいそう悔しがったそうです。

実はアイリス姫は、王様が前の妃との間に産んだ子で、その妃がアイリス姫を産んですぐに亡くなった為、再婚したのが今の王妃様だったのだそうです。

王妃様とサフラン姫は、アイリス姫の存在を疎ましく思い、アイリス姫が自分を醜いと思い込むように洗脳し続けていたのです。

王妃様とサフラン姫は、王様にアイリス姫の嫁いだ国よりも大きな国の王子との婚姻をせがみましたが、王様はサフラン姫のわがままな性格が国同士の友好関係に影響する事を恐れて、隣国の小さな国の第三王子をサフラン姫の婿に迎えて、自分の跡継ぎにしました。

ですが‥‥王様の退位後、国は徐々に衰退していきました。それをみかねたアイリス王妃のいる大国が援助を申し出てくれたようです。

ですが、サフラン王妃は自分のプライドから、その申し出を一旦断ってしまいました。

王様は、大国に対して無礼な態度をとった事と、つまらないプライドで国の未来を潰そうとしたサフラン王妃の事を、こっぴどく叱ったそうです。

そして、大国へ謝罪と援助のお願いの手紙を書かせたそうです。

それを受けて大国のアイリス王妃は、夫である王様に母国への援助を頼みました。

おかげでサフラン王妃と王様は国の衰退を免れました。

そしてこの心優しいアイリス王妃と心の狭いサフラン王妃の名前は、この美談と共に世界中に広まっていったそうです。

end.
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