親切なミザリー

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ピューリッツの回想 ミザリーとの思い出②

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ピューリッツは一週間後、ミザリーとの約束通り学園へやって来ました。

忙しいスケジュールを調整したり、図書館でミザリーの知りたがっていた植物について調べたりと忙しい日々を過ごしましたが‥あの日泣いていたミザリーの顔が、ずっと頭から離れなかったのです。だからミザリーが喜ぶ事をしてやって、彼女を少しでも笑顔にしたかったのです。‥それに、若い女の子の前で物知りで仕事ができる格好いいところを見せたい、という気持ちもありました。

「‥それにしてもミザリーさんは、あの日何故泣いてたんだろう?男に振られたのか、他の生徒に虐められていたのか‥。」

ピューリッツがミザリーの事を考えていると、ちょうどそこへ作業着を着たミザリーが小走りにやってきました。

「お兄さーん!約束通り来てくれてありがとう。」

「ああ、約束したからな。あと‥名乗るのが遅れて申し訳ないが、僕は庭師のピューリッツだ。皆んな僕を呼び捨てで呼んでるから、ミザリーさんにもそうして欲しい。」

「うん、分かった。」

「ところでここに来るまでに学園の植物の状態をチェックしてきたんだけど‥。」

「‥どうでした?」

「完璧だったよ!僕の助手にしたいぐらいだ。」

「本当!?」

ミザリーはピューリッツの褒め言葉に満面の笑みを浮かべました。そして、両手で顔を覆うと‥涙を流して泣き出してしまいました。

「うっ、うう‥。」

「ミザリーさん、泣いてるのか?」

「嬉しくて‥。私なんて誰からも必要とされてなかったから‥。」

「そんな大袈裟な‥。」

「ピューリッツ、私を弟子にしてくれませんか?手に職をつけておきたいんです。」

「手に職って‥えっ?」

「‥ピューリッツ、私学園をやめて遠くの街へ行く!‥誰も私の事を知らない街に‥。だから、お願い!」

「‥学園をやめて遠くへ行く事には素直に賛成はできないが‥手に職をつけたいだとか、植物に興味があるというのなら‥僕が君に色々教えてあげるよ。君は真面目で向学心があるから、教えがいもあるしね。‥とはいえ、君に園芸の事を教えてあげられる時間はそんなにとれないんだ。とれたとしても、週に一回この時間ぐらいだけど‥‥それでもいいかい?」

「ありがとう!ピューリッツ先生、これから宜しくお願いします!」

「あっ、ああ分かった。‥ところで、例の花なんだけど、ちゃんと調べてきたよ。」

「‥‥本当に調べてきてくれたんですね。ありがとう、ピューリッツ。‥で、何という名前の花なのですか?」

「カピエラという国の「ファントム」という木の花だよ。花や茎は高級な砂糖の原料にもなっているんだ。」

「‥だからあんなにも甘い匂いがしたんだ‥。」

「あっでも、「ファントム」はただ甘くて可愛い花を咲かせるだけの木じゃないんだ。‥根には協力な毒を持っているんだよ。」

「毒!?‥なんでそんな危険な木が学園にあるの?」

「いやいや、毒を持つ木や花なんて珍しくないからね。‥ほら、そこの夾竹桃だって、茎を串や箸代わりに使った人が亡くなった例だってあるんだ。」

「‥知らなかった。そうなの?毒って結構身近に沢山あるのね。」

「そうなんだよ。どう、勉強になったかい?」

ピューリッツの話に終始驚きっぱなしのミザリーに対して、彼はそうやって得意げにたずねました。

「‥ええ、とても勉強になりました。ところでピューリッツ先生、質問を良いですか?」

「なんだい?」

「「ファントム」の毒って苦いのですか?花や茎が甘くても‥毒と言うからには、やはり苦いのですよね?」

「それが‥あまり大きな声では言えないんだが、「ファントム」の毒は甘いんだ。‥根を乾燥させて粉にしてやれば砂糖と変わらないんだよ。」

「‥それは危険ですね。暗殺とかに使われたら、毒を入れられても気づかないうちに食べて死んでしまいますね。」

「‥ああ、だから近年はカピエラでも「ファントム」の国外への持ち出しを禁止するようになったそうだ。」

「‥そうなんですね。」

ミザリーは「ファントム」に手を伸ばし、もう一度その可愛らしいピンクの花に顔を近づけました。

「こんなにも可愛くて甘い匂いがするのに‥毒があるのね。」

「ああ、だから無闇に触れない事だ。」

ピューリッツはミザリーにそう言って、改めて注意を促しました。

ですがミザリーは、この時すっかり「ファントム」に魅了されていました。


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