親切なミザリー

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ピューリッツの回想 ミザリーとの思い出①

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ピューリッツはこの国で唯一の「ガーデンマスター」でした。

「ガーデンマスター」とは、農民の農作物栽培の相談から、貴族や商人の個人的な植物栽培の相談にまでのる凄腕の庭師だけに国から贈られる、庭師の最高位の称号でした。

彼は個人的な相談にのる以外にも、造園会社を運営して国の建築物の庭の設計や施工まで行っていたので、とても多忙な毎日を過ごしていました。その為、学園に来るのは月に一度が精一杯でした。

「はぁ‥僕が来ない間、代わりに水やりだけでも誰かやってないかなぁ‥。」

その日ピューリッツは、学園内の花壇や樹木の水やりを急いで済ませると、大切な記念樹の剪定作業に入っていました。

彼は忙しさのあまり思わず呟いてしまった独り言を誰かに聞かれなかったか‥と辺りを見回しましたが、辺りには誰一人いませんでした。

学園内の記念樹のあるこの場所は樹木園となっており、華やかな薔薇園や花壇を好む生徒達がここを訪れる事などはよほどの事がない限りありません。

‥ですが、あえて人目を避けて逢引きをしたいカップルや薬物を隠れて吸うけしからん輩は、ここを好んで訪れる事があったのです。


ピューリッツは誰もいない事を目視で確認すると、再び剪定鋏を動かしました。

チョキチョキとリズミカルに木の枝を切っていき、三脚の下は切られた枝のゴミでいっぱいになりました。

チョキチョキ、

「‥うっ、うう‥。」

チョキチョキ、チョキチョキ、

「‥‥うっ。」

ピューリッツは鋏が枝を切る音に混じり人の呻き声が聞こえるような気がして、手をとめました。

「‥誰かいるのか?そこにいられると邪魔で作業が出来ないんだ!早く出てきてくれ。」

「‥‥ごめんなさいっ!」

ピューリッツの声かけに応じて樹木園の奥から出てきたのは、泣き顔の女子生徒でした。

「‥あっ、何だかこっちこそすまない‥。その‥大丈夫かい?」

「‥‥。」

女子生徒は何も言わずに、ピューリッツに頭を下げて急いでその場を去ろうとしました。

‥ですが、記念樹の中に甘い匂いを放つピンク色の花を見つけると、ピタリと立ち止まりました。

「‥これは何という花ですか?」

「‥えっ?ああ、これか。これは‥ラベルがついてないから分からないな。よし、次会う時までに調べておくよ。」

「‥次っていつですか。」 

「次って勿論来月‥‥、あっいや、来週の同じ時間に来るよ。」

「‥必ずですよ。」

「ああ、約束だ。」

「‥それと、水やりのやり方を教えて下さい。さっき言ってましたよね?誰かに水やりをやって欲しいのでしょう?あなたが次に来るまでの間、私が水かけをやっておきます。」

「あっ、いや貴族のお嬢さんにそんな事は‥。」

「‥やるからにはきちんと責任を持ってやりますから。」

「本当かい?‥っていやいや、駄目だ。」

「‥服が汚れるからと言って手を抜くような事はしませんから!私は‥ここにいる理由が欲しいんです。」

「‥あっああ、分かったよ。‥お嬢さん、名前は?」

「ミザリーです。」

「じゃあ、ミザリーさん。水やりを頼むよ。今からホースの場所とやり方を教えるから‥、とりあえず僕の予備の作業着を渡すからそれを羽織ってくれ。それから足元は‥‥、あれ?すでに濡れてるじゃないか。どうして‥。」

「‥あっ、大丈夫なんです。さっ、教えて下さい!」

「あっ、ああ‥。」

ピューリッツは自分の予備の作業着をミザリーに羽織らせて、ホースの扱いや植物ごとに水やりのタイミングや与える水の量を教えました。

「全て覚えました!」

「ハハハ、本当かい?じゃあ来週厳しくチェックさせてもらうよ。きちんとできているのかどうかね。」

「望むところです。」

ミザリーは本当に嬉しそうな顔をしてこたえました。

「あっ、それとその作業着はあげるよ。みっともないかもしれないけど制服を汚さない為にも、それは着た方がいい。それに‥水に濡れてもいい靴があれば履くといいよ。水やりは結構足元が濡れるからね。」

「はい!」

こうしてピューリッツはミザリーに学園の植物の水やりを任せる事にしたのでした。











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