かわいそうな旦那様‥

みるみる

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16、リリアの行方

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リリアが遠い距離を歩いて、やっとの思いでテオの両親の屋敷を訪ねると、お義父様とお義母様がリリアのボロボロの姿を見るなり、すぐに屋敷へ入れて保護してくれました。

妖精達はリリアが無事に保護されたのを確認すると、公爵邸へ帰って行ったり、屋敷の庭の土に潜ったりと、一旦解散して各自好きなように過ごす事にしました。

リリアは、温かいお風呂へ入れてもらい、温かい寝具を用意して貰って眠りにつきました。

疲れていたせいでしょうか‥‥それともランのラベンダーの香りを嗅いだせいでしょうか‥とても深い眠りについたのでした。


翌朝、テオの両親に昨日の誘拐事件について全てを話しました。

話を聞いたお義母さんは震えながら、言いました。

「ゴブリン達は人間の女の人を見つけると‥巣穴に連れ込んで、死ぬまで犯し続けると言うわ。‥‥そんな危険なゴブリン達の巣穴の前に、リリアちゃんを拐って置いて行くなんて‥‥なんて酷いの!」

「‥リリアさんに嘘をついて誘拐した奴の名前は恐らく偽名だろう。‥誰の仕業か分からない間は、公爵邸へ戻らない方が良い。ここに居なさい。」

「‥すみません。ご迷惑をお掛けします。」

「‥何を言うんだ、君は我々の可愛い娘なんだから、遠慮なんてしなくていいんだよ。」

「‥ありがとうございます。」

リリアはお二人の優しさに触れ、知らないうちに涙を流していました。

「‥あらまあ、リリアちゃん。怖かったのね、でももう大丈夫、大丈夫。」

お義母さんはそう言って、リリアを優しく抱きしめてくれました。

リリアはお二人の言葉に甘えて、しばらく滞在させてもらう事にしました。


その後リリアは、お二人に部屋も用意してもらい、至れり尽くせりの日々を過ごすのでした。




一方、公爵邸ではリリアとテオが帰って来ない事で、屋敷中が大騒ぎになっていました。


「‥何かあったのでしょうか。お二人共大丈夫ですよね?」

侍女達は泣きそうな顔をして、執事に詰め寄りました。

「‥とりあえず、ご主人様達の帰りを待ちましょう。」

執事は、そう言って侍女や屋敷の者達を宥めると、覚悟を決めてベラ様のお屋敷へ向かう事にしました。彼には何だか嫌な予感がしていたのです‥‥。


執事がベラ様の屋敷を訪ねると、公爵家の家紋の入った馬車がありました。

「‥やはりそうだったのか‥。」

執事は自分の嫌な予感が当たっていた事に、心からがっかりしました。

ベラの侍女が、ベラに公爵家の執事の訪問を知らせました。

「‥執事ごときが何の用よ‥。」

ベラは夜遊びが盛んな為、朝は毎日お昼近くまで眠っていたのです。‥それを執事が邪魔をして起こされたものですから、とても機嫌を悪くしていました。

「‥何の用なのか聞いておいて。‥私は出ないわ。あと、テオ様はまだ眠っているから、起こさないであげてって伝えておいて。‥それと、奥様の事は私に聞いても何も知らないから、と伝えておいてちょうだい!」

ベラはそう言うと、またベッドに戻ってしまいました。

そのベッドには‥本来なら起きてお城へ出勤していなければならないはずのテオが、まだスヤスヤと眠っていました。

「‥分かりました。」

ベラの侍女は申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、公爵家の執事にベラに言われたままを伝えました。

「‥なんと、ご主人様はまだ出勤されていないのですか?しかもまだ眠ると言うのですか‥‥。なんと無責任な‥。

‥しかも、奥様の事‥って、何の事ですか!?何も知らないって‥‥、まるで奥様が公爵邸へ帰って来ない事を知っているかのような口ぶりじゃないですか!」

執事が声を荒げると、ベラの侍女がぶるぶると震えだしました。

「‥すみません。ですが、どうか今日はもうお引き取り頂けますか?‥私がベラ様に叱られてしまうのです。」

震える声でそう言った侍女の手の甲には、鞭で打たれたような痕がありました。

執事は色々と察して、すぐにベラの屋敷を出て行く事にしました。


「‥‥ご主人様、最近はあんなにも奥様と仲良くなっていたではないですか。なのに何故またベラ様のもとに戻ってしまうのですか。それに、奥様はどうしたのですか。」


執事はテオにとても失望していました。テオはベラ様に入れ込みつつも、仕事だけは真面目で優秀な方でしたのに‥‥今日初めて無断で仕事を休んだのです。


「‥私はもうご主人様を尊敬する事ができない‥‥。」


それに執事には、今何よりも気がかりな事がありました。


「‥奥様‥、どこにいるのですか?ご無事ですか?‥まさかご主人様とベラ様の事を気に病んで、亡くなられたりしていませんよね?」


執事は、途方に暮れていました。どうやってリリアの生存を確認すれば良いのか、どこにリリアがいるのかを調べる術がなかったからです。


「‥‥奥様、公爵邸へ帰るのが辛いのならもう帰って来なくても良いですから、お願いですから、どうか生きていて下さい!」


執事はただそれだけを必死で願っていました。
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