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婚約者は私と別れたいようです

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 婚約者のライフルと2人きりで会うようになって数ヶ月が経った頃のことです。

 彼と街のカフェでお茶をしていた時、彼と私のテーブルに1人の女性が近づいてきました。

 彼はその女性を抱き寄せると私に言いました。

「ドナ嬢。君は僕がこの数ヶ月間一生懸命に尽くしてきたにも関わらず、毎日冷たい態度で僕の心を傷つけていたよね。」

「…。」

 いきなり何のお話でしょう?それにその女性は一体誰なのでしょう?

 彼がまるで台本の台詞を読んでいるかのような話ぶりで何かを語ろうとしていますが…

 どうやら彼はこれから何かの茶番劇でも始めるようです。

 カフェにいる客もこれから始まるであろう3人の男女の修羅場を楽しみに待っている雰囲気です。

 ライフルが大袈裟な手振りを加えながら話を続けます。

「ドナ嬢、そんなに僕との婚約が嫌なら君からこの婚約をなかったことにしてくれないか。僕は君との婚約を受け入れて前向きに頑張っていたんだけど…仕方ないけど君の意向に従う事にするよ。

それと彼女はいつも傷心の僕を慰めてくれていたこのカフェの店員のランだ。今日君に婚約を無かったことにしてくれと伝えるのが怖いと言ったから、今もこうして僕に付き添ってくれているんだ。」

 彼がそう言った時、彼に抱き寄せられて俯いていた彼女がわざとらしく体を小刻みに震わせながらもギラギラと憎しみに満ちた目で私を睨んでいました。

 カフェの客達の冷たい視線が私に注がれていることにも気付きました。

 ああ、彼女もどうやらこの茶番の首謀者のようです。それにこのカフェにいる客達も彼女の味方のようです。

 彼らは私が彼の言葉通りに婚約の白紙を父に進言する事を期待しているようですが、おあいにく様。

『誰があんた達の思い通りに動いてやるもんですか!

 それに私がすんなりと彼の要望を受け入れてしまったら、カフェにいる観客達が退屈してしまうじゃない。』

 だから私は…

「ライフル、ひどいじゃないの。外では恥ずかしいからあなたにうまく甘えられなかったかもしれないけど、2人きりの時はあんなにも熱い時間を過ごしていたじゃないの!私はあなたを本気で好きだったのに!」

 そううそぶいて泣くふりをしてやりました。

 彼は予想外の私の反応にオロオロとしましたが、横にいた彼女に

「嘘つき!あの女と別れて私と結婚すると言ったのに!」

 と言ってビンタをされてハッと我にかえったようです。

「ドナ嬢…君と2人きりで熱い時間を過ごしただなんて嘘を言われても困るよ。ほら、彼女もカフェの客も誤解してしまうだろう?」

「彼女?カフェの客?それが何よ!なぜ私がその人達の反応を気にしないといけないの?あなた、どうして私達2人の問題に彼女やカフェのお客様達を巻き込むの?…まさか!みんなグルになって私とあなたを別れさせようとしているの?!」

 私がそう核心をついた途端、彼や彼の横の女、それからカフェの客達が一斉に動揺して俯いてしまいました。

 …とその時、彼の横の女がウッと嗚咽して口を押さえてうずくまってしまいました。

 まさか妊娠?

 私が彼女の妊娠を疑ったところ、案の定彼女がそれを肯定するような言葉を私にかけてきました。

「そうよ!私は彼の子を妊娠しているの。あんたが彼と会う前から私達は付き合っていたのよ。このお店のお客様も皆私達のことを応援してくれてるわ!だからあんたが彼のことを諦めてくれればそれで良いの!分かった!?」

「ラン…、そんなに興奮するんじゃない。それに妊娠してるだなんて嘘までつかなくていいんだ。」

「何よ!私の妊娠を一番喜んだのはあなたでしょう!それに私が妊娠したから、こうしてあの女に別れるようにこうして茶番を演じてるのよ!」

 あーあ、彼女は全てのネタバラシをしてしまいました。

 彼女も認めた通り、これはライフルと彼女が仕組んだ茶番劇。私だけを悪者にして、賠償責任もなくすんなりと私との婚約を無かったことにする為の茶番…。

 そんな馬鹿げた茶番、私が台無しにしてやる!

 だから私は…

「ひどい!最初から私を騙して優しい婚約者のふりをしてたのね!」

 そう言って泣くふりをしながらカフェを飛び出しました。

 背後でライフルが私を必死に呼び止めようとする声が聞こえましたが、彼女を気遣って私を追いかけて来ないとは…

 彼は最後まで私を馬鹿にしているようです!

 さて、家に帰ってこの事を父に伝えて彼の家にはそれなりの代償を払って貰うことにします。



 
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