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戦線に向かう前夜

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バスタブにお湯を溜めながら蛇口に寄り掛かるようにしてへなへなと座り込む。溜まり始めた水面に、愛の真っ赤な顔が映って更に気恥ずかしさが増してしまった。

(いやぁぁぁぁぁ! こんな風になったの初めて……もう、ダグラスが好きすぎてどうしたらいいのかわからないぃ! 私、恋したときっていままでどうしてたっけ。全然思い出せない!)

そんなとき、鍵が締まっているはずのバスルームの扉が開いたので驚く。そこにはダグラスが仁王立ちで立っていた。彼の手には鍵がある。そういえばここはもともとダグラスが使っていた部屋だった。

「お前なぁ、いくら照れくさいからって俺を締め出すのはどうかと思うぞ。まぁ、そんなところも可愛いんだけどな。本当に素直じゃない女だ」

そうしてバスルームの床にへにゃりと座り込んでいる愛を見て、彼はさらに頬を赤くして手で顔を抑えた。

「……くっ! お前、そんな顔をしてるなんて反則だ。アイ」

「わ、私、そんな変な顔して……るっ! んっ!」

ダグラスが床に膝をついて愛の首を引き寄せた。そうして熱いキスを落とす。それは今までにないほどに激しくて、何度も何度も食べられているかのように唇を……舌を……頬の裏を……余すところなく貪っていく。

(あっ……なに、これ。すごく気持ちがいい……)

いつの間にか愛もそれにこたえていた。ダグラスの舌に舌を絡ませて彼を求める。互いの唾液と絡まり合う舌がくちゅくちゅと音をたてた。

蛇口から流れ出るお湯の水音がなおいっそう興奮を掻き立てる。二人の間に言葉はなかった。ダグラスと愛は熱いキスをかわしながら互いの服を脱がし合う。

すでに愛は生まれた時の姿なのに、愛はまだダグラスの服を脱がせるのに手間取っていた。ダグラスはもたもたする愛の指がもどかしいといわんばかりに体を離してその手を握りしめる。

ダグラスの顔を見上げると、そこには欲情がありありと見て取れる。頬は上気しきっていて、その青い瞳は熱を孕んでいた。

思わず心臓が跳ねてドキドキが止まらなくなる。愛はため息をつきそうなほど、男らしい体格のダグラスを眺めた。

(なんて素敵なのかしら……ダグラス、大好き……)

「アイ……明日は何があっても俺から離れるな! 分かったな!」

彼は愛の身を心配しているのだろう。帝国の騎士ですら命を奪われかねないほどの凄惨な戦場。医療テントで大勢の怪我人を見てきた愛には、その惨憺たる現場が容易に想像できた。

恐らく刑事の仕事とは比較にならないほどの現場になるに違いない。怖くないと言ったら嘘になるが、ダグラスが傍にいてくれると思うだけで安心できた。

「ずっと一緒にいる。ダグラス、私もあなたとずっと一緒にいたい……」

愛はそう呟くと、ダグラスの頬にキスをした。そうして首筋に唇を這わせる。金色の髪が頬をくすぐり、愛が熱い息を吐くとそれはダグラスの肩にさらりと落ちていった。

ダグラスは愛の体を抱き上げると、すでに縁すれすれにまでお湯が入っているバスタブに一緒に浸かった。お湯が溢れて床の上を勢いよく流れていく。

愛の秘所は彼を迎え入れるためにすでに熟しきっている。ダグラスは指でそれを確認すると、愛の片足を挙げさせ勢いよく自分自身を突き立てた。

「あぁぁーーーあっ!」

もう何度か抱かれているのに、これほど快感を覚えたのは初めて。愛は悦楽の叫びを漏らすと、びくびくっと腰を揺らしながらダグラスに抱き着く。

「お前の中はいつもきついな。全部搾り取られてしまいそうだ。アイ」

そういうとダグラスは中のものを一気に引き抜いた。おうとつのある部分が余すところなく膣壁を刺激する。そうしてすべては抜かずにしばらく愛を眺めていると、ダグラスはまたそれを即座に突き立てた。

子宮の奥を突かれて、愛は目の前に星が散ったような感覚を覚えた。思わず背中をのけぞらせると、ダグラスが愛の頭を手で支える。

「はぁぁっ!」

「アイ……! 愛してる! アイ……」

愛の言葉をささやきながらダグラスは何度も抽挿を繰り返す。時には緩慢に……時には激しく繰り返されるそれはまるで音楽のようだった。水面が揺れて水音がそれに重なる。

(こんなの……おかしくなるっ! こんなのセックスじゃない。まるで食べられてるみたい……!)

「あ……ダグラス! はぁっ、だめっ! 私、イっちゃう! あぁっ」

「あぁ、俺もだ! 同時にイこう! アイ」

目の前が真っ白になったかと思ったら、全身の細胞が一斉に浮足立った。腰が何度か上下したとき、体内でダグラスの剛直が動くのを感じる。

(あぁ、ダグラスもイってるんだ。すごい、なんて幸福感なの……)

バスタブの中。愛はダグラスに組み敷かれるように湯船に浸かっている。しばらくしてようやく沸き立っていた水面が落ち着いた。

湿った空気の浴室には、わずかな水滴が垂れる音と二人の激しい息しか聞こえない。

愛はダグラスの顔をじっと見つめているし、彼も同じだ。何も言わずに見つめ合う。それだけなのにこの瞬間だけは魂まで混じり合ったような気がする。

(セックスってすごい……誰かをこんなに近くに感じるなんて)

ダグラスがずるりと自身を引き抜く。すると白濁液が湯の中に散って消えていった。その様子を見ながら、ダグラスが本当に残念そうにつぶやく。

「お前を抱きつぶしてしまいたいところだが、明日のこともあるからな。アイ。続きは聖女を倒してからだ。だから二人とも絶対に生きて帰るぞ」

「ふ……ふふっ」

思わず愛は笑みをこぼしてしまう。そうして言葉はないが愛は未来を予感する。

(もし私が戦場で死んだら、きっとダグラスも一緒に死んでしまうわね)

愛は長い間ずっと一人で生きてきて、そこまで死に抵抗感はなかった。でもいまは不思議と絶対に死ねないと思っている。

(これが誰かを愛するということなんだ。私、ダグラスと一緒に生きていたい! 絶対に死にたくない!)

「ダグラス、お湯を入れなおさなきゃね。私が体を洗ってあげるわ」

そうしてその夜は二人で向き合って眠った。これはいままでで初めてのこと。いつもはダグラスに背を向けて、彼が愛の乳房に手を当てて眠るのが通常。

(明日、新宮 塔子に会うんだ。拳銃の弾は三発しかない。絶対に失敗は許されないわ)

愛はダグラスの匂いに包まれながら、明日への覚悟を決めた。


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