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ダグラスはセクハラ男

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愛は苦笑いしながらトーマスの手つきを眺めていた。いまは森の中でテントを張って寝ているので、食事は薪を集めて火を焚いて作る。彼は豪快な手つきでどんどんと作っていく。

「あの、ほかの騎士さんたちはどこなんですか?」

普段なら我先に朝食にありつこうと、焚火の周りでうろついているはずの騎士たちがいない。

「あぁ、またテムズが馬鹿を言い出してさ、朝一番から川で泳ぐって言ってみんなと行っちゃったんだよ。誰が一番大きな魚を捕まえるか競争なんだって。俺だって朝食作らなくていいなら一緒に行きたかったな」

「はは、そうなんですね。でも今の時刻はまだ水は冷たいでしょうに。じゃあ僕、彼らが帰ってきたときのためにタオルと火を用意しておきましょうか」

「おお、ありがとう。アイ、余った肉はお前に分けてやるからな。アイはもっと育たないといい騎士になれないぞ。あ、それと食事が終わったら少しだけなら稽古の時間とれそうだ」

「ありがとうございます。トーマスさん。あ、今日も片付け手伝いますね」

愛は深々と頭を下げた。トーマスはこんなふうに時間が空けば剣の稽古をつけてくれたりするし、ほかの騎士達もいろんなものを愛に分けてくれた。剣道を嗜んでいた愛の剣筋はとてもいいと褒めてもらった。

石鹸やらカミソリ(本当は必要ないのだが、一応礼を言ってもらっておいた)。タオルに寝巻まで生活に必要なものは特に買わなくても、みんなから渡されてすぐに揃った。

犯人を追跡中に召喚され、持ち物といえば銃とイヤカム、手錠くらいしかなかった愛にはとてもありがたいこと。

彼らはみな愛を十五歳の少年だと思っていて、まるで自分の弟のように可愛がってくれている。

というのもこちらの世界では女性は必ずスカートをはくものらしい。しかも髪は長ければ長いほど美しいとされていて、貴族の令嬢は子供の時から一度も切らないのが一般的。

とはいえ庶民は生活するうえで不便なので、腰までの髪というのが最低ラインなのだそう。肩までのボブヘアーの彼女は女とすら見られていなかったのだ。少し残念な気持ちもするが、結果としては良かった。

(おかげで世話係として潜り込めたんだからよしとしなきゃ。ただダグラスの世話係っていうのが困ったものだけど)

さっさと仕事を終えた愛は、トーマスの隣で野菜を切ったり分けたりするのを手伝う。あまり料理は得意ではないのだが、彼ら騎士の料理は男の料理でとても大雑把。

卵だって大きなフライパンに一気に割り入れる。その適当さが彼女には心地よかった。少しくらい黄身が割れても誰も文句は言わない。

朝食が出来上がったとき、ちょうど彼らが帰ってきた。声をかけようと彼らの姿を見た愛は、思わず噴きだす。

「ぶっ! ちょっと皆さん、服ぐらい羽織って帰ってきてくださいよ!」

騎士達は上半身裸で下は下着のまま。この世界の下着はボクサータイプではなく、体にぴったりするトランクスタイプらしい。刑事という仕事柄慣れているとはいえ、体格のいい騎士たちの筋肉美に鼻血がでそうになる。

(確かに刑事は体力が資本だけど、こんなに立派な筋肉の男性ってそうそういなかったわ。しかもそれが何人もっ!)

中でも一番背が低い騎士、ガイルが頬を膨らませて怒っている。それでも愛の感覚からすれば高い方なのだが、にぎやかで楽しいことが大好きなガイルは大体において騒ぎの中心。

「服なんか着れたもんじゃないんだよ。モリスがエグバートを川の中に突き落としたもんだからエグバートが怒っちゃって。そうしたらあいつスペルまで唱えて、間違えてモリスじゃなくて僕に水をかぶせたんだ。もう魚を採るどころじゃないよ」

「よくいうな、お前だってそのあと他のみんなを川に突き落としてたじゃないか」

「だって僕だけずぶぬれなんてずるい。一蓮托生だよ。僕たちは仲間だからね」

「ガイル、お前はそういうときだけ仲間面するんだよ。お前がモリスをけしかけてたの知ってるんだからな。俺は泳ぐつもりなかったんだぞ。うわっ、寒みぃ」

ヒルズがずぶぬれの体でガイルの後ろから羽交い絞めをする。もちろんこれは喧嘩をしているわけではなく、男同士のスキンシップだ。本気でやっているわけではない。ほかのほとんど全裸の騎士達も笑いながら見ている。

彼らは大体においていつもこうだ。昨日なんかは余った肉を争い、誰が一番長く逆立ちできるか大真面目に競っていた。顔を真っ赤にしてフラフラになっている彼らはまるで小さな子供のよう。

「皆さん。早く体を拭いてください。濡れた服はどなたかまとめて乾かしていただけますか?」

愛は騎士たちにタオルを配りながら濡れた服を回収する。そうしてそれを一か所に山盛りすると、トーマスが剣を構えてスペルを唱えだした。

騎士たちはこんな風に剣とスペルを組み合わせて魔法を使う。でも扱い方を変えれば生活一般にも使えるのですごく便利。

あっという間に山盛りの服が宙を舞って、からからに乾いた。すると騎士が集まって自分の服を見つけては着替え始める。誰が誰のを間違って着たとかでまた揉めだしていて、愛は元の世界に戻ったような気がしてほっこりとした。

(なんかこういうのいいな。高校の剣道部じゃ男子部員はいっつも誰かが騒いでるって感じだったもんね。昔を思い出すわ)

丁度、朝食ができたので、愛は団長のテントにそれを届けることにする。まずは団長で次が副団長だ。他の騎士達はまたそのあと。もちろん愛はその最後だ。騎士団だけあって、序列はきっちりとしている。

声をかけてテントの入り口を開けると、ダグラスは副団長のエヴァンと作戦会議をしていたようだ。机の上には地図やらなにやら広がっている。

「アイ、もう朝食の時間か。エヴァンとの話は終わったから入ってきていいぞ」

ダグラスがにこやかに笑っている隣で、エヴァンが切れ長の目で愛を一瞥する。彼女が頭を下げて朝の挨拶をすると、彼は何も答えずに視線だけを残してテントの外に出て行った。

(何か怒らせちゃったのかしら。あまり話したこともないんだけど……)

ダグラスが彼女の腰を引っ張って椅子に座っている自分の膝に座らせた。手に持ったお盆が傾いて、食事がこぼれそうになる。

「ちょっ! ダグラス、いきなりなんて危ないでしょう! 火傷したらどうするの」

「気にするな、あいつはお前が俺に血を流させたから怒ってるんだ。なんせ今まで俺に怪我を負わせられたのは魔獣をのぞいて副団長のエヴァンだけだったからな。あいつは俺のことを誰よりも崇拝してるから扱いも難しい」

ダグラスは歴代の団長と比べてもかなり強い。とにかく戦えば連戦連勝で、帝国史上最年少で騎士団団長にまで上り詰めたのだと騎士達から聞いた。その間、一度だけ対戦したエヴァンに頬を切られたという。

そのあとすぐにエヴァンが副団長になり、団長の血を流すことができれば、彼の側近になれるという噂がなんとなく広まったのだそう。

(それで私が彼の肩を撃った時もあんなにみんな騒いでたんだ)

「魔力消費が激しいんで他の者は戦闘中だけだが、俺は常に自分の体に膜を張り巡らせている。通常の攻撃ならなんともないはずなんだが、お前にはやられた。ははっ」

頭の上の方で声がするが、とても嬉しそうに聞こえる。腰に回されていた両腕が、ぎゅうっと締め付けられた。けれども膝の上に乗せている食事がこぼれるのでいつものように反撃できない。

「どうだ? そろそろ俺に抱かれる気になったか? アイ」

「残念ながらならないわ。それより早く食べてちょうだい」

愛が冷たくあしらうが、ダグラスは一向に気にしない。騎士達や彼らの前では彼に敬語を使うが、二人きりの時は対等に話をするようになっている。

それはきっと彼が隙あれば愛の胸を揉もうとするから。本人もそんな愛の態度をちっとも気にしていなさそうだ。

「あぁ、俺は両手がふさがってるんでな。アイが食べさせてくれ」

「分かったわ。どうせ嫌だっていっても手を離してはくれないんでしょう」

三日一緒に過ごしただけで、すでに彼のことは十分すぎるほど理解してしまった。愛はため息交じりにナイフとフォークを手に取った。ダグラスは逆にすごく楽しそうで、鼻歌まで聞こえてくる。

適当に肉を切って自分の肩越しに差し出すと、ダグラスは体を大きくかがめてそれを口の中に入れた。彼の顎が愛の耳に触れている。肉を咀嚼する音とそれを飲み込む音が耳元で聞こえてきて背中のあたりが熱くなる。

(な、なんだかこういうの。すごく生々しいわね。ダグラスったら、わかってて誘ってるんだわ)

「この食事は最高にうまい。だがもう少しアイに肉が付いていればもっと良かったな」

いつの間にか愛のシャツのボタンが外されていたようだ。ダグラスはブラの下に手を入れ、愛の乳房を揉みしだきながら残念そうに語る。

(い、いつの間にっ! 私としたことがちっとも気が付かなかったわ!)

愛は悲鳴を出そうかと思ったが、すぐに思いとどまった。いまはテント生活なのだ。悲鳴なんて上げたらすぐに他の騎士にも聞こえてしまって愛が女だとばれてしまう。

「早く次の肉をくれ。お腹がすいて倒れそうなんだ。このままだとアイを食べてしまいそうになるぞ」

「ひゃぁっ!」

ダグラスが彼女の耳の中に舌を入れて舐め始めた。ぐちゅりぐちゅりと淫靡な音が響いて、熱い舌の感覚に溺れそうになる。それと同時に彼の指は愛の敏感な胸の突起をいじっている。

まーるく円を描くように周囲を撫でたかと思えば、先端を指でくりくりといじる。いままで乳首で感じたことがないのに、それだけで腰がざわざわしてきた。

(あぁ、だめ。こんなの……快楽に流されてるだけ……)

「アイ、俺はお前が好きだ。お前に心底惚れてる。だからアイに触りたくて仕方がないんだ」

ダグラスの熱い吐息が愛の耳朶を温める。体が熱くなるのを愛は感じた。

男性の甘い囁きなんて、ずいぶん長く聞いたことがない。しかもダグラスは周りくどい駆け引きなど一切なし。直球で愛を求めてくる。それが思ったよりもずいぶん心地がいい。

「ふぁぁ、ん」

甘い吐息が愛の唇から漏れたとき、ダグラスは彼女の顎に手をかけて唇を重ねてきた。膝に置いてあっただけのお盆が急に宙を浮いたかと思ったら、いつの間にかミリリアがその下で支えているようだ。

まるでそれが合図とでもいうように、躊躇もなしに舌をねじ込まれた。これまで何度も舌を挿入しては愛に噛まれてきたのに、ダグラスは気にもしていない。

これだけ回数を重ねれば、キスにはそれほど抵抗感もなくなる。残るのは雲の上に浮いているようなふわふわした感覚。絡めとるように愛の舌を舐めては吸う。

くちゅりくちゅりと唾液の絡まる音が、恥ずかしさと欲情を掻き立てた。そうしてその淫靡な音の間にガチャリという金属音が挟まる。

そこでようやくダグラスは唇を離した。互いの唇から銀色の唾液の糸が長く伸びては千切れていく。

ダグラスは大きく目を見開いて自分の両手をあげて見せた。彼の両手首には銀色の二つの輪っかが光り輝いている。

愛は赤い顔で息をはきながらにっこりと笑って見せた。彼女も同じように興奮していることを悟られてはいけない。わざと突き放した冷たい声をだす。

「今度は本当に逮捕するって言ったでしょう。なのにどうしてこんなに朝から元気なの? さぁ、片付けを手伝うって約束したから、早く朝食を済ませてちょうだい。食べ終わったらその手錠を外してあげるわ」

ダグラスは本当に残念そうにため息をついた。そうして両手にはまった手錠を忌々しそうに見る。

「はぁ、俺を拒む女はお前くらいだ。本当にアイはつれないな。まあそこがたまらなくそそるんだが」

「他の女性がいいならどうぞ。お構いなく」

愛はむくれた顔でダグラスの膝から降りると、まずは服を直す。そうしてミリリアが持っているお盆を取って、両手が使えないダグラスに子供のように食べさせた。ダグラスは手錠をかけられたまま、素直に口をあけてもぐもぐと食べている。

そうして山盛りにあった食事はあっという間になくなった。

「はい、約束だったから手錠を外すわね」

ポケットから鍵を取り出し、椅子に座ったままのダグラスの前に立つ。鍵を差し込むとかがんだ瞬間、急にダグラスが立ちあがって、手錠のついたままの手を愛の頭の上からずぼっとかぶせた。突拍子もない彼の行動に愛はびっくりする。

「なっ、何するの!」

「今回の遠征は大正解だった。アイに出会えて俺は嬉しいぞ」

そういって自分の頬を愛の頭上にくっつけて、甘えるようにすりすりと擦り付けた。嫉妬したのか、ミリリアが足元で愛のズボンのすそを引っ張っている。

「おっ、相変わらずミリリアはお前が好きみたいだな。契約者以外には懐かん翼竜なんだが」

「そんな風に甘えても、私はあなたのお母さんでも彼女でも何もでないから」

冷たくそう言い放つと、愛はダグラスに背を向けた。そのとき愛の頭が顎に当たったらしく、ダグラスのうめき声が聞こえる。

その隙に手際よく手錠の鍵を外してすぐに彼の傍から離れる。嫌な予感がしたからだ。そうして自分の姿を確認して愛は驚いた。いつの間にかシャツのボタンがすべて外されていたのだ。

「もうダグラスったら、本当に強引で油断ならないんだから!」

愛が責めても、彼はにやにやといつも通り余裕の様子だ。愛は頬を膨らませながらテントを後にした。

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