上 下
30 / 37

31、いつの間に婚約?

しおりを挟む
(十年前の約束???? 私とご主人様が結婚?!!!)

ここで私の思考は一時途絶えて真っ白になる。ご主人様の言葉に、エマーソン伯爵がうんうんと二回頷く。

「まさか本当にやってのけるとは思わなかった。分かった、結婚は許そう。だがわが息子ながらその執念には目を見張るものがあるね」

「リチャード、あぁ。おめでとう。エマ、リチャードをお願いしますわね」

ようやく意識が戻ったが、いまいち話が飲み込めない。けれどもこれだけは分かった。私はもうすでにご主人様と結婚することになっているということに。

でも爵位を継ぐ息子とメイドとの結婚を、伯爵夫妻はどうして反対なさらないのだろうか?

「あ、あのぅ……」

失礼のないようにお聞きしようと口を開いたとたん、父のテムズが満足そうに私の肩を抱く。

「お前は本当に果報者だ。リチャード様のような素晴らしい男性などそう簡単に見つからないぞ。良かったな、エマ」

どうやら父までもがそのつもりらしい。

(どうしてびっくりしたり驚いたり……反対したりしないのでしょうか!??!)

私があたふたしているうちに、屋敷中の使用人からも拍手が沸き上がって祝福を受けた。もう笑うことしかできない。

「おめでとうございます。リチャード様、エマ様」

ご主人様は私の肩を抱いて引き寄せると、爽やかに微笑んだ。切れ長の瞳が太陽の光に反射して、私の心臓をたたき起こす。やはりご主人様はいつも格好良くてずるい。

「あぁ、父上。爵位はまだ譲っていただかなくて結構ですよ。先にエマとゆっくり新婚生活を送りたいので。いろいろと用事を増やしたくはないのです。君もそう思うだろう、エマ」

「ふ……ふふふ」

どう反応したらいいのかわからないので、ご主人様にいわれたように黙って笑っておく。

すでに私の荷物もご主人様の向かいから隣へと移動させられているようだ。そこはご主人様の奥様となる人の部屋で、ご主人様の部屋とは洗面所とバスルームでつながっている。

いづれ高貴な女性がここに住むことになるとは思っていたが、それが私になるとは思いもよらなかった。

「あ、あの。私がヒッグス様のお屋敷にいる間のことですが……どうやって説明されたのですか?」

「侍女たちにベッドにいるところを見られたから、恥ずかしくて拗ねているんだと言っておいた。まだシャーロットの屋敷にいることになっていたから話を合わせておけ。それとあの辞職願の手紙だが、すでに処分しておいたからな」

その言い分では、もう屋敷のみんなが私とご主人様が一夜を過ごしたことを知っているのだ。その事実に恥ずかしくて顔を真っ赤にした。

(ベティさんに見られた時点で、どうせ伯爵夫妻には知られているとは思っていましたが……。すごく恥ずかしいです)

新しい私の部屋には、シャーロット様のお屋敷に置いてきてしまった荷物も運びこまれているよう。

そうしてレースの飾りのついたベッドの上には、私のお気に入りのぬいぐるみが鎮座している。これは私が幼いころから毎日一緒に眠っているウサギのぬいぐるみ。久しぶりに見て私は叫んだ。

「あっ! ミミーがいます! あぁ、ミミーがいなかったのでヒッグス様のところではよく眠れませんでした!」

感動にむせびながらミミーを抱きしめていると、ご主人様が冷たい目で私を見る。私はきょとんとした目でご主人様を見上げた。

「違うだろう、エマ。お前が眠れなかったのは俺が傍にいなかったせいだ。お前は俺が好きなんだ」

驚く私にご主人様が続ける。

「俺はこれから鈍感すぎるお前に毎回きっちり言っておくことにした。でないと知らないうちに逃げられる羽目になるかもしれないからな」

つっけんどんに言われたが、そういえばご主人様は私に意地悪ばかりしていたわけではない。

このミミーだってあの時にご主人様に捨てさせられたのは、庭を歩いていた時に毛虫の毛が付いたからだとずいぶんあとで気が付いた。

ご主人様はその翌日に、綺麗に洗濯したミミ―を私のベッドの上に置いておいてくれていた。まるで今日と同じように。

このしかめっ面のご主人様が、どんな顔でベッドの上にぬいぐるみを置いてくれたのだろうか。

(毛虫の毛は肌に湿疹が出るんですよね。あの時期は大量発生していましたから。あの時に、そういってくださったら良かったですのに……)

思い返すとご主人様は優しかったようにも感じる。

(ほんのすこーしだけですけど……これはあれなのでしょうか。善人に優しくされてもそうは思いませんが、悪人に少しでも優しくされるとその何倍も感動するとか???)

「あの、私。本当にリチャード様と結婚するのでしょうか? それにリチャード様が伯爵様とされた十年前のお約束って何なのですか?」

「――エマが知る必要はない。――なんだ、まさかお前は俺と結婚したくはないのか?」

何だか怒っているようだ。でもそう聞かれても困る。

「あ、あの。えっと。正直あまりに驚きすぎてまだ何も考えられないというか……だってエマーソン伯爵家は王国でも有数の名門貴族ですし、私がまだ貴族だったとしても釣り合いません。しかもリチャード様は爵位を継がれる方。もっとふさわしい女性がいると思うんです」

「そうだな、実際何度か縁談が来たこともある。お前なんか足元にも及ばないほどの高貴な血筋の令嬢ばかりだ。俺はモテるからな」

「そ、そうですよね。私みたいな平凡以下の女なんてありえませんよね」

「…………」

するとご主人様は何も言い返さずに口を閉じた。しばらくして急に手が頬に伸びてきたかと思うと、なんの予告もなく私を引き寄せキスをする。いつもとは違う……初めから深い深いキス。

なんど繰り返しても慣れない。緊張すると息ができなくなって、ご主人様の背中を何度か叩いてようやく解放してもらえた。

「はぁっ……ふはっ……!」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

絶倫なオネェさんは好きですか?

饕餮
恋愛
オネェな美容師のコウと、スボラでめんどくさがりで色々枯れてる、ある意味女を捨ててる翻訳の仕事をしている薫との話。

消えた公爵令嬢~逆転移した世界で溺愛される

リョンコ
恋愛
☆R15作品として書いてましたが、内容が妖しくなってきたのでR18作品に変更します。 直接的ないやらしい擬音の表現はありませんが、性的な描写が増えそうなので、変更です。 お気に入りにしてくれてる方々、申し訳ありませんm(_ _)m ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『ジュリエッタ・メルセデス公爵令嬢!数々の非道な行い、王族として見過ごすわけにはいかない!』 学園祭の最終日、ダンスホールで壁の華になってたわたくしに、壇上から婚約者のアルファード第一王子殿下が意味不明な言葉を投げ掛けた。 (あの方が王子殿下だったのね。初めて知りましたわ) クラウン王国の国王がジュリエッタの叔父。父親は王弟。メルセデス公爵家はただの高位貴族ではない。歴とした王族である。 壇上で取り巻きに囲まれジュリエッタに吠えているのは、従兄弟であり婚約者でもある。ただ、一度も会ったことはない。 『貴様は、義姉である美しいアイリスに嫉妬し、暴虐の限りを尽くした!よって今此処で処分を言い渡す!』 ジュリエッタは冷たい眼差しで見据え、次の言葉に耳を疑った。彼女はそのまま捕らえられ…… ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ※異世界逆転移物語。 ※R18作品。残虐シーンは有りません。 ※ちょいエロです。ガッツリはたぶん有りません。 ※異世界の令嬢が、日本に転移して溺愛される話です。 ※気まぐれ更新(1日1回更新は目指す予定です)

二度目の人生は無難に引きこもりたい

恋愛
クリスティナ・ファンファーニ伯爵令嬢は7歳の誕生日を迎えその数ヶ月後、魔力測定の儀式をする為教会へ行った。 教会には同じ年頃の良家の子息子女が集まっていた。 この日集まった者達の中で最も身分の高い公爵家の嫡男を目にした瞬間…… あ、今日って私がマクシミリアン様に一目惚れした日だ! あれ?なんで私そんな事知ってるの? それに、誰?マクシミリアン様って?? 『お前の望みはなんだ?』 神様の言葉が脳内で再生される。 『マクシミリアン様と初めて出会ったあの日に戻って、出来るなら人生をやり直したいです』 そう返した女性の姿は16、17歳くらいだろうか。淡く色素の薄そうな金の髪は肩の長さでざんばらに切られ、覇気のない痩せこけた、けれど溢れそうに大きな紫色の瞳をした美しい顔。 薄汚れた牢に繋がれ涙を流す姿は悲壮感が漂う。 これは私だ。 そう思った瞬間に全身を悪寒が駆け巡る。 少し遠くに見える銀色の髪を視界に入れた瞬間に私の思考は停止する。恐怖を感じるのに目の裏を焼く程の憎しみを感じるのに。 一番感じたのは染み入る程の愛しさと悲しみだった。

【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話

もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。 詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。 え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか? え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか? え? 私、アースさん専用の聖女なんですか? 魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。 ※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。 ※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。 ※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。 R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。

義弟の卒業~過保護な義姉さん押し倒される~

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
真琴は小学生の頃に母が出て行ってしまい、以降父子家庭で育ったのだが、十四歳で父が子連れの女性と再婚し、五学年下の義理の弟・薫ができた。家族仲は良好で幸せだった。しかし、両親は三年後交通事故で揃って他界してしまう。 真琴は進学を断念して高卒で就職し、唯一残された家族である薫を育て、自分のことはすべて後回しに。とにかく薫の将来のためにと力を尽くしてきた。その甲斐あって薫は中学、高校ともに優秀な成績を収め、更に大学在学中に司法試験に合格し、卒業後は法曹界を目指すことに。 真琴はこれにてお役御免と一息ついていたのだが、なんと卒業パーティから帰宅した薫に、「義姉さんが……真琴が好きなんだ」と告白された。 「ちょ、ちょっと待って! 私たち姉弟でしょ!?」 「俺にとって真琴はずっと女でしかなかったよ」 姉弟関係まで卒業させられた真琴の受難の記録。ガッチガチのヤンデレ義弟もの。 ※タグの念入りなご確認をお願いします。 2020/05/07本編簡潔済み。そのうち番外編書くかも?

白き結婚という条件で新興国の王太子に嫁いだのですが、眠っている間に妊娠させられていました

天草つづみ
恋愛
神託を何よりも重んじるヒラソル帝国の皇女、エステファニア。 彼女にくだった神託は、新興国であるロブレ王国の王太子に嫁げというものだった。 しかし世界一の歴史と力を持つ帝国の皇女の自分が、できたばかりの王家の男に組み敷かれるなど受け入れられない。 そこで彼女は、ロブレ王太子シモンと婚姻こそ結ぶものの、体の関係は持たないという条件を突きつける。 王国はその条件を飲み、二人は結婚した。 エステファニアはシモンに心を開き始めると同時に夜な夜な淫らな夢を見るようになり、男を知らぬ体を疼かせていたのだが――ある日体調を崩したエステファニアは、医師に妊娠していることを告げられる。 高飛車皇女様が、一途だが倫理観がぶっ壊れている王太子に体から堕とされ分からされる(?)お話です。 *R18描写のあるお話には※がつきます。 *R18シーンは濃いめです。 本編完結済み。用意出来次第番外編投稿予定。

仇敵騎士団長と始める不本意な蜜月~子作りだけヤル気出されても困ります~

一ノ瀬千景
恋愛
【注意事項】 ◇事情があって非公開にしていた『運命の番と言われましても、私たち殺したいほど憎み合っている(ということのなっている)のですが』をタイトル変更&大幅加筆(3万字ほど加筆)して再公開しました。 完全新作ではありません。 ◇R18作品です。 「どんなに憎い女が相手でも、その気にはなるのね」 アデリナ・ミュラー(20) かつては【帝国の真珠】とうたわれ王太子の妃候補にまでなっていたが、実家が没落し現在は貧乏暮らしをしている。            × 「お前こそ。殺したいほど憎い男の手で、こんなふうになって……」 カイ・オーギュスト(20) アデリナの実家の仇であるオーギュスト家の息子で、騎士団長の地位にある優秀な軍人。 怜悧な美貌と俺様な性格をもつ。 家族の仇、憎み合うふたりが運命のいたずらにより夫婦となり、子どもを作るはめになってしまい……。 拒めば拒むほど、身体は甘く蕩けていく。嘘つきなのは、心か身体かーー。

粗チン早漏王子にマグロだと罵られ、婚約破棄……拾ってもらった草食騎士団長はベッドの上では野獣でした。

高橋冬夏
恋愛
 侯爵令嬢アーシャは王子ヘンリーと婚約し、何度も夜伽を迎えていたがヘンリーの余りの下手くそさに辟易していた。  苦痛とも思える時間にアーシャは心を閉ざし、身体も不感になってしまい、ヘンリーの不興を買い、皆の前で婚約破棄を宣告されしまう。  だが、全てはヘンリーが悪く粗チン早漏ではアーシャが満足できるはずもなかったのだ。  妻を亡くした騎士団長ヴェルナーは上司から頼み込まれる形でアーシャを引き受ける。  ショックで何も手に付かず、草食と噂されたヴェルナーに嫁いだアーシャは互いの境遇を儚み、やがて初夜を迎える。  ヴェルナーは噂とは違い、巨根絶倫でアーシャは望み通り、彼にイカされっぱなしになってしまっていた。

処理中です...