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クライブ様の気持ちの変化
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結局クライブ様の前にある机の一つに腰を下ろし、目の前のサルテイン語で書かれた資料の翻訳を開始した。フレオさんが私に感謝していると言わんばかりのキラキラした目で見てきたので笑顔で返しておいた。
思ったより単純な言葉ばかりの翻訳だったので、ほんの一時間も立たないうちに翻訳が終わった。そうして鬼のような形相で報告書をまとめている最中のクライブ様に手渡した。
「まさか・・そんな早くできるなんて信じられん。誤魔化して適当に書いてやしないんだろうな?」
あまりの仕事の速さに驚いたのか、もの凄い目つきをして完成させた書類と原本を何度も繰り返し見て確認している。この頃には私にもだいぶ彼の人となりが分かってきた。
クライブ様は物凄く目つきと口が悪いだけの、頑強で屈強かつ人の感情に無頓着で・・・いかにもテンプレの脳筋騎士隊長なのだ。そうして救いようがないくらいに整理整頓ができない・・・。
「クライブ騎士隊長様。これじゃあ、仕事にならないのではありませんか?だってこの資料なんて十年以上も前のものが去年のと混ざっているし、全く違う内容の表がごちゃ混ぜになっていますわ」
「・・・・そうか?俺は全く気にならんが、欲しい資料の位置は大体把握できているしな」
相変わらず安定の目つきの悪さで私を睨みながら話しているクライブ隊長と、その様子をハラハラした様子で見ているフレオさんを交互に見て、私は何も言わずに部屋の片づけを始めることにした。黒縁メガネが邪魔をして文字が読みにくいが仕方がない。
本棚に放り込まれているだけの本は内容別にまとめて並べ、資料は年代の古いものは上の方の棚に・・・後は項目ごとにアルファベット順にまとめて紐で止め、箱に入れて並べた。
突然許可なく片づけを始めた私を止めもせずに、しばらくクライブ様はじっと私の行動を食い入るように見ていた。そうして何も言わずに自分の報告書の作成に戻った。常人離れした手の大きさなので、彼の持つペンが紙の上で、まるで小さな枝がちょこちょこ動いているように見えるのがあまりにも可愛らしくて、思わず含み笑いをしてしまう。
まあ勝手なことをしている私を止めないのだから、これでも彼は私のすることに賛成しているのだろう。不器用な男だ・・・。
整理整頓が終わり、やっと高級なオークの組み木された床が見えた時にはもう時刻は三時を回っていた。あまりにも夢中になっていたらしく、十一時ごろからほぼ四時間を片づけのみに費やしたことになる。しかも昼ご飯さえ食べていなかった事を思い出して急にお腹がすきだした。いつの間にいなくなったのか、フレオさんの姿も見えない。
部屋の中に熊男と二人きりでいたのか・・・という事はクライブ様も昼食を食べていないに違いない。
「・・・・終わったのか。凄いな、この部屋がこんなに綺麗なのを見たのは何年ぶりだかわからん」
「床を磨けばもっと素敵になりますよ。でもお掃除までする気力は無いので、そこは他の方に頼んでくださいませ」
「本当にお前は貴族の令嬢なのか疑わしいな。床磨きまでするつもりだったのか」
さすがの私も床磨きまでは経験はない。相変わらず目つきの悪くて愛想のない熊男を冷ややかな目で一瞥してから、私は貴族の令嬢らしい流れるような所作で礼の形を取った。
「私ここに長居しすぎたようですわ。ではノーグローブ騎士隊長様、お仕事頑張ってください。私は少しだけ訓練を見学してから屋敷に戻りますね」
もう朝からずっと騎士団で馬車を待たせてある。御者に悪いという気持ちと、あまり長く屋敷を開けるのもどうかとも思ったのだ。するとクライブ様がそうかと一言だけ呟いて突然席を立った。さっきは緊張して気づかなかったが、恐らく身長は優に二メートルを超えているに違いない。寡黙な大男が私の横に立ったので、正面玄関までエスコートするつもりなのだと解釈した。
未だに私のスパイ容疑は晴れていないのかと複雑な気持ちを抱きながら、私のすぐ右斜め前を歩くクライブ様の後をまるでアヒルの雛のようについていく。廊下や階段をすれ違う騎士たちが彼を見る度に緊張して敬礼をするのを見て、よほどクライブ様は騎士たちにとって恐ろしい存在なのだと思った。
そんなに悪い人には見えないけどな・・・確かに目つきは悪いし一切笑わないけど・・・。
彼は私の様な不審者にも紳士的?に対応してくれる。本来なら馬車の出入りを調べて、私の身元を明らかにするぐらいの事はするべきだろうと思うのにだ。
どうやって設置したのか不思議になるほどに、見上げる程に高くて太い柱が乱立する騎士団の正面入り口を抜けると、白い塗り壁と煉瓦で造られた回廊がある。そこをどこまでも自分のペースでどんどん歩いていこうとするクライブ様に、何とか速足で後を追いかけていきながら声をかけた。
「あの・・・どこまで行かれるおつもりなのですか?私、半刻だけでも訓練を見学しに行きたいのですが」
「ああ、だから訓練場に連れて行ってやる。ついでにオルグレンに紹介してやろう。片づけの礼だ」
ちょ・・・ちょっと!それは困る。ダニエルに会うつもりで来たのではないのだ。いくらウィッグとメガネがあったとしても話せば声でバレる可能性もある!
「あのっ!クライブ様。礼には及びませんわ。それに私、オルグレン伯爵のファンというわけではなくて、どちらかといえばその反対というか・・・」
「隠さなくてもいい、女は皆あいつのファンだ。あいつの隊の訓練中は馬車留めが一杯になって、あぶれた馬車を止める為に中庭まで解放されている」
そういって無理やり私の腕を掴むと、クライブ様は相変わらずの仏頂面でどんどんと先を進んでいく。歩幅も考えずに歩くので、半ば引きずられるようにして抵抗する間もなくあっという間に訓練場についた。
思ったより単純な言葉ばかりの翻訳だったので、ほんの一時間も立たないうちに翻訳が終わった。そうして鬼のような形相で報告書をまとめている最中のクライブ様に手渡した。
「まさか・・そんな早くできるなんて信じられん。誤魔化して適当に書いてやしないんだろうな?」
あまりの仕事の速さに驚いたのか、もの凄い目つきをして完成させた書類と原本を何度も繰り返し見て確認している。この頃には私にもだいぶ彼の人となりが分かってきた。
クライブ様は物凄く目つきと口が悪いだけの、頑強で屈強かつ人の感情に無頓着で・・・いかにもテンプレの脳筋騎士隊長なのだ。そうして救いようがないくらいに整理整頓ができない・・・。
「クライブ騎士隊長様。これじゃあ、仕事にならないのではありませんか?だってこの資料なんて十年以上も前のものが去年のと混ざっているし、全く違う内容の表がごちゃ混ぜになっていますわ」
「・・・・そうか?俺は全く気にならんが、欲しい資料の位置は大体把握できているしな」
相変わらず安定の目つきの悪さで私を睨みながら話しているクライブ隊長と、その様子をハラハラした様子で見ているフレオさんを交互に見て、私は何も言わずに部屋の片づけを始めることにした。黒縁メガネが邪魔をして文字が読みにくいが仕方がない。
本棚に放り込まれているだけの本は内容別にまとめて並べ、資料は年代の古いものは上の方の棚に・・・後は項目ごとにアルファベット順にまとめて紐で止め、箱に入れて並べた。
突然許可なく片づけを始めた私を止めもせずに、しばらくクライブ様はじっと私の行動を食い入るように見ていた。そうして何も言わずに自分の報告書の作成に戻った。常人離れした手の大きさなので、彼の持つペンが紙の上で、まるで小さな枝がちょこちょこ動いているように見えるのがあまりにも可愛らしくて、思わず含み笑いをしてしまう。
まあ勝手なことをしている私を止めないのだから、これでも彼は私のすることに賛成しているのだろう。不器用な男だ・・・。
整理整頓が終わり、やっと高級なオークの組み木された床が見えた時にはもう時刻は三時を回っていた。あまりにも夢中になっていたらしく、十一時ごろからほぼ四時間を片づけのみに費やしたことになる。しかも昼ご飯さえ食べていなかった事を思い出して急にお腹がすきだした。いつの間にいなくなったのか、フレオさんの姿も見えない。
部屋の中に熊男と二人きりでいたのか・・・という事はクライブ様も昼食を食べていないに違いない。
「・・・・終わったのか。凄いな、この部屋がこんなに綺麗なのを見たのは何年ぶりだかわからん」
「床を磨けばもっと素敵になりますよ。でもお掃除までする気力は無いので、そこは他の方に頼んでくださいませ」
「本当にお前は貴族の令嬢なのか疑わしいな。床磨きまでするつもりだったのか」
さすがの私も床磨きまでは経験はない。相変わらず目つきの悪くて愛想のない熊男を冷ややかな目で一瞥してから、私は貴族の令嬢らしい流れるような所作で礼の形を取った。
「私ここに長居しすぎたようですわ。ではノーグローブ騎士隊長様、お仕事頑張ってください。私は少しだけ訓練を見学してから屋敷に戻りますね」
もう朝からずっと騎士団で馬車を待たせてある。御者に悪いという気持ちと、あまり長く屋敷を開けるのもどうかとも思ったのだ。するとクライブ様がそうかと一言だけ呟いて突然席を立った。さっきは緊張して気づかなかったが、恐らく身長は優に二メートルを超えているに違いない。寡黙な大男が私の横に立ったので、正面玄関までエスコートするつもりなのだと解釈した。
未だに私のスパイ容疑は晴れていないのかと複雑な気持ちを抱きながら、私のすぐ右斜め前を歩くクライブ様の後をまるでアヒルの雛のようについていく。廊下や階段をすれ違う騎士たちが彼を見る度に緊張して敬礼をするのを見て、よほどクライブ様は騎士たちにとって恐ろしい存在なのだと思った。
そんなに悪い人には見えないけどな・・・確かに目つきは悪いし一切笑わないけど・・・。
彼は私の様な不審者にも紳士的?に対応してくれる。本来なら馬車の出入りを調べて、私の身元を明らかにするぐらいの事はするべきだろうと思うのにだ。
どうやって設置したのか不思議になるほどに、見上げる程に高くて太い柱が乱立する騎士団の正面入り口を抜けると、白い塗り壁と煉瓦で造られた回廊がある。そこをどこまでも自分のペースでどんどん歩いていこうとするクライブ様に、何とか速足で後を追いかけていきながら声をかけた。
「あの・・・どこまで行かれるおつもりなのですか?私、半刻だけでも訓練を見学しに行きたいのですが」
「ああ、だから訓練場に連れて行ってやる。ついでにオルグレンに紹介してやろう。片づけの礼だ」
ちょ・・・ちょっと!それは困る。ダニエルに会うつもりで来たのではないのだ。いくらウィッグとメガネがあったとしても話せば声でバレる可能性もある!
「あのっ!クライブ様。礼には及びませんわ。それに私、オルグレン伯爵のファンというわけではなくて、どちらかといえばその反対というか・・・」
「隠さなくてもいい、女は皆あいつのファンだ。あいつの隊の訓練中は馬車留めが一杯になって、あぶれた馬車を止める為に中庭まで解放されている」
そういって無理やり私の腕を掴むと、クライブ様は相変わらずの仏頂面でどんどんと先を進んでいく。歩幅も考えずに歩くので、半ば引きずられるようにして抵抗する間もなくあっという間に訓練場についた。
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