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最終章~自己顕示欲~

動機

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 『任せたし、任せた!』

 二人にそう声を掛け体育倉庫に入る。
 すると、手足を縛られている少女たちが居た。

「柚希! 沙月!」

 ケガをしている様子はないが、ぐったりとしている二人に声をかける。
 俺の姿を見て安堵した表情をしたが、すぐに表情が変わり何やら叫んでいる。

「もう大丈夫だ。さぁ今のうちに」
「んん、んんん!」

 猿ぐつわを解こうとすると二人が抵抗する。
 なにしてるんだよ! 今は一刻も早くここから……


 ガンッ
 

 突然、後頭部に衝撃が走り、俺はそのまま前のめりに倒れた。
  めまいと激痛に耐え、殴った相手を睨む。

 柚希が持っていた写真。
 ファミレスに客としてやってきた時。
 繁華街で柚希を無理やりホテルへ連れ込もうとした時。

 そして今、そいつは最も狂気に満ちた表情で立っていた。
 まるで虫の足を一本一本ちぎって悦に浸る様な、そんな印象を受けた。


「ぐ……か、景山……」
「ひゃは! ざまぁみろ! お前はそこで大人しく見学しとくんだなぁ」


 こいつ、隠れてやがったのか。
 柚希たちはそれを教えようとしてたんだ。
  

「なんだぁその目はぁ? まだ痛めつけ足りないってか!?」
「うぐぁ!」

 今度は背中を鉄パイプで殴られる。
 こんな痛み生まれて始めてだ。
 だけどここで弱音を吐く訳にはいかない。
 どれだけ痛めつけられても俺が諦める訳にはいかないんだ!


「はぁはぁ、ちったぁ懲りたかよクソッたれが」
「ゴホッ……ゴホッ」

 頭や背中を何度も殴られ、頭からは出血し意識が朦朧とする。
 景山も息を切らしている。
 
「はぁはぁ。あーあ、全くよぉ。クソガキ共が散々手こずらせやがって」
「景山……なんで誘拐なんて、ゴホッゴホッ……」 
 
 痛みで思考が回らなくなった俺は、単純な質問をぶつける。
 景山も殴り疲れたようだ。
 ふらりとしながらも語り始めた。 

「最初は俺と柚希は似た物同士で上手くいくと思ったんだけどなぁ。自分の価値を高く見せる為に他人を利用する部分とかさぁ」

 フラフラと語っていたと思えば、突然声を荒げて鉄パイプをねじ込んでくる景山。
 
「だけど蓋を開けてみればどうだ!? 柚希は俺をフリやがった! 誰もがうらやむ完璧な俺をだぞクソが! あぁ全く、俺の人生で最大の屈辱だ!」
「うぐぁっ!」

 脇腹にねじ込まれる鉄パイプに徐々に力が入っていった。
 痛みに思わず叫ぶ。
  
「今までの女はちょいと金をチラつかせれば喜んで着いてきたし、それでも首を縦に振らない奴は少し部屋に監禁したら無抵抗で俺を受け入れてたってのによぉ」
 
 部屋に監禁って、もしかしてニュースになってた事件の事か?
 周囲に迷惑をかけてまでして自分を高く見せたいのか?
 そんなの自己中すぎるだろ!
 それに柚希を利用しようとしたのが気に食わない。
 
 それと柚希が『似た者同士』だと?
 
  ふざけるな!
 俺はぐりぐりと押し当てられる鉄パイプを掴んだ。
  

「ゆず……きを、お前みたいな……クズと……一緒にするな!」
「まだ口答えする元気があったのか。なら、これで大人しく寝てろや!」

 景山の足が大きく振りかぶられる。
 咄嗟に避けようとした時、倉庫の入口が思い切り開けられる。

「そこまでだ景山! もうお前の思い通りにはいかせねぇ!」
「お前にはパンチングマシーンで鍛えた右ストレートをお見舞いしちゃうよ」

 外の二人を倒した水樹と田口が体育倉庫に入ってきた。
 やばい! それ以上入ってきたらダメだ!

「水樹……は……ちゃ……めだ……」
「友也!」

 痛みと息苦しさで上手く喋れない。
 俺の姿を見た水樹と田口が駆け寄ろうと一歩踏み出した時

「なっ! 離せ!」
「くそ! 隠れてたんか!」

 俺も入ってから気づいたが、扉の両脇に外から見えない様に両サイドに一人ずつ隠れていた。
 俺が景山に殴られてる時にそいつ等が参加して来なかった事を不思議に思っていたが、景山から手を出すなと言われていたか、こういう場合の為の保険だったのだろう。
 いずれにしても俺の所為で水樹と田口が羽交い締めにされてしまった。

「はっは~ん、残念だったねぇ。お友達が痛ぶられるのを大人しく見てるんだね」
「くそ! 何て力してやがる!」
「これはマズイっしょ!」

 どうにか抜け出そうと足掻く二人だが、どうやら外に居る連中とは力の差が違う様だ。
 助けに入ろうとするが痛みで身体が言う事を利かない。
 そんな俺達を見て、景山は満足そうに笑っている。

「あははは、ざまぁないねぇ。どうせならもっと実用性のある友達を作れよ。先輩からのアドバイスだオラぁ!」

 言い終わると同時に景山の蹴りが水樹の腹に刺さる。

「グッ……ゲホッ!」
「水樹くん!」
「だ、大丈夫だ田口……なぁ景山センパイよぉ、沙月まで攫うなんて、欲張り過ぎじゃねぇのか?」
「へぇ、沙月っていうんだ。ソッチの女は折角この俺自らが誘ってやったってのに素敵な彼氏が居るから~とかぬかして断りやがったんだよ」

 今の話を聞いて水樹が激昂する。

「てめぇ! そんな事で沙月を攫いやがったのかぁ!!」
「うるさい虫だねぇ。でも、沙月ちゃんはアッチの方も生意気そうな感じだよなぁ。くひひ、沙月ちゃぁん、あとでたっっっっっぷり可愛がってあげるからねぇ~」
「んんっ! んんんんん~!」
「くひひひ、ソソるねぇ~」
「このクソ野郎! 沙月に手を出してみろ! 地獄まで追いかけてやるからな!」

 叫びながら必死にもがくが羽交い締めから抜け出せない。
 それにしても田口まで無力化するなんて、もしかしてプロでも雇ってんじゃないか?

「いやぁ~別に断られた位じゃ流石の俺もここまでしないさ。ただ、柚希にフラれた後、何か弱みを握ってやろうと尾行していたらソコの女二人してこの男に尻尾振ってやがったのが許せなかったのさ。金も権力も持たない顔だけのコイツになぁ!」
「ぐっはぁ!」
「友也!」
「佐藤君!」

 痛い痛い痛い! 顔面を蹴られ口の中が血の味でいっぱいになる。
 だけど俺は絶対に弱音は吐かない。
 俺が弱音を吐いたら柚希と沙月を不安にさせてしまう。

「それでよくよく調べてみたら柚希とコイツは兄妹だってのが分かってねぇ、納得したよ。道理で俺をイラつかせるのが上手いってねぇ。しかも俺の誘いを断った彼氏が俺を振った女の兄貴だっていうんだからなぁ! 思わず笑っちまったよ、これなら三人一片に痛めつけられるってなぁ!」

 下校中なんかに感じた付きまとわれてるような視線もコイツだったのか。
 コソコソと報復の準備した挙句、こんな卑劣な手まで使いやがって!
 
 痛みも忘れるほどの怒りがこみあげてくる。
 指先から足先までに血が滾ってくるような感じがした。

「ま、そういう訳でそろそろお楽しみタイムと行きますか」

 そう言って景山は柚希達の元へ歩いて行く。
 アイツを止めないと! 動けよ俺の身体!
 
 恐怖で泣きじゃくる二人に向かって、景山は下卑た笑いを漏らしながら近づいていった。
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