上 下
116 / 167
第9章~ I wanna be with you ~

お見舞い④

しおりを挟む
「はぁ、やっと下がったか」

 一昨日、熱が下がったからと暴れ過ぎた所為で、沙月が帰った後にまた熱が上がってしまった。
 昨日から土日に入り、学校が休みで助かった。

 熱もやっと平熱まで下がっているので明日には学校へ行けるだろう。
 前回の様にぶり返さない様に、今日は安静にしていよう。

 両親は休日出勤だが、幸い柚希が部活休みなので何かあった時は頼るしかない。
 柚希に借りを作るのは望ましくないが仕方ない。


「暇だな……」

 やはりただ寝ているだけだと退屈だ。
 横になっていればテレビを見る位なら大丈夫だろう。

 録画してあるアニメを見ているとインターホンが鳴った。
 しかし今日は柚希がいるので安心してアニメが見れる。

 
 1時間程経った頃、部屋のドアがノックと共に開いた

「お兄ちゃーん、元気になったー?」
「あのな? ノックと同時にドア開けたらノックの意味ないだろ?」
「元気そうだね。良かった良かった」
「人の話を聞け」
「友達にランチ誘われたからちょっと出かけてくるね」
「え? じゃあ俺の昼飯は?」
「大丈夫、もう用意したから。ささ、どうぞ」

 と言って柚希は横にずれる。
 すると部屋に入ってきたのは……

「友華さん? え? なんで」
「ごめんなさい、お邪魔してます」
「いえ、それは大丈夫ですけど……」

 いつから居たんだろう? アニメに夢中で俺が気づかなかっただけか?
 それに友華さんが持っているお盆の上にはお粥らしき物が乗っている。

 俺が疑問に思っていると、柚希が何故か得意げに

「どう? 驚いたでしょ?」
「ああ、っていうか友華さんは何時の間に来てたんだ?」
「ん~、1時間位前かな」

 1時間前という事は、あのインターホンは友華さんだったのか!
 だとすると今まで柚希と二人で何をしていたのだろう。

 俺が混乱していると

「友華さんと女子トークしてましたー! 気になっちゃう?」
「まぁな。でも聞いても教えてくれないんだろ?」
「それはどうかなー。友華さんに直接聞けば? 私はもう行くねー」

 と言って立ち去る。
 残された友華さんは

「えっと、お粥作ったので食べてください」

 と遠慮気味に部屋に入りテーブルの上に器を置く。
 そしてそのままちょこんと座る。

「柚希の勝手の所為ですみません、ありがたく頂きます」
「いえいえ、大した事ではないですから。それより大丈夫ですか? 起き上がれますか?」
「はい、大丈夫です」
「無理はしないでくださ……い」

 友華さんは一点を見つめたまま固まってしまった。
 視線の先には先程まで見ていたアニメが流れている。

「友也さん!」
「は、はい!」

 しまった! 友華さんヲタクスイッチが入った!
 と思っていると

「ちゃんと安静にしてないとダメじゃないですか!」

 あれ? ヲタクスイッチが入ってない?

「友也さん、聞いてますか?」
「は、はい! スミマセン」
「風邪は治りかけが大事なんですからね」

 どうやらヲタクスイッチではなく、違うスイッチが入ってしまったらしい。

「それではお昼にしましょうか」
「そうですね」

 と言ってベッドから降りようとすると

「友也さんはそのままで大丈夫ですよ」
「それだと食べづらいんですけど」
「私が食べさせてあげます」

「ふぅー、ふぅー。はい、どうぞ」

 パクッ、もぐもぐ。

「はい、これで最後です」

 パクッ、もぐもぐ。

「ご馳走さまでした」
「はい、お粗末様でした。洗い物してきますのでちゃんと横になっててくださいね」

 と言って部屋から出て行った。

 ヤバイヤバイヤバイ!
 お粥ふぅーふぅーなんて2次元だけかと思ってたらまさか友華さんにされるなんて!

 恥ずかし過ぎて何も考えられなかった。
 でも、嫌じゃないかも。

 っていうかふぅーふぅーしてる姿に釘付けになってしまった。
 友華さんの吐息がお粥に掛かって、それを俺が食べて……。

 ってこれじゃまるで変態じゃないか!
 と、一人で悶絶していると友華さんが戻ってきた。

「戻りました。はい、お薬とお水です」
「何から何まですみません」
「いいえ、私がしたくてしてる事なので気にしないでください」

 渡された薬を飲み、横になる。
 すると友華さんはベッドのヘリに寄りかかり

「夕方までいますので何か困った事があったら言ってください」

 と言ってそのまま読書を始めた。


 気づけばもうすぐ4時近かった。
 あれから俺は読書をしている友華さんをずっと眺めていた。

 静かな空間にページのめくれる音と微かな呼吸音だけが聞こえる。
 とても落ち着く空間。
 本を読んでいる姿を見ているだけなのに退屈だとは全然思わない。
 むしろもっと眺めていたいとさえ思える。

 俺は自然と

「友華さん」

 と口にしていた。

「どうしましたか?」

 とこちらを振り返る。
 その動作だけでも愛おしく感じる。

 今伝えないと。
 自然とそう思った。

「実は友華さんに大事なお話があります」

 と言うと、友華さんは身体ごとこちらに向き直り姿勢を正す。

「はい、何でしょう?」

 友華さんは何かを察したのかいつもは見せない真剣な表情だ。


「友華さん、俺は……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

悪役令嬢の最強コーデ

ことのはおり
恋愛
◆コンプレックスを抱えるすべての乙女に捧げる、笑いあり涙ありの恋愛ファンタジー!◆  前世はまるで、日本社会という名の牢獄に無実の罪で投獄されたような不幸な人生だった。そこから一転、別世界の超絶美女貴族令嬢に生まれ変わったローズは、今度こそ「両想いの奇跡」を体験して幸福を手に入れようとしていた。ところが、社交界デビューのその日、ローズは気付いてしまう。この世界は前世でプレイしたことのある着せ替え&乙女ゲームの世界で、自分はあろうことか悪役令嬢だということに。 従僕男性との身分違いの恋に苦しみながら、ローズは破滅フラグを全力でへし折ってハッピーエンドを目指します。そうこうするうちに、なぜかヒロインの恋愛相手にモテまくってしまい…… ★この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く

miniko
恋愛
お茶会の参加中に魔獣に襲われたオフィーリアは前世を思い出し、自分が乙女ゲームの2番手悪役令嬢に転生してしまった事を悟った。 ゲームの結末によっては、断罪されて火あぶりの刑に処されてしまうかもしれない立場のキャラクターだ。 断罪を回避したい彼女は、攻略対象者である公爵令息との縁談を丁重に断ったのだが、何故か婚約する代わりに彼と友人になるはめに。 ゲームのキャラとは距離を取りたいのに、メインの悪役令嬢にも妙に懐かれてしまう。 更に、ヒロインや王子はなにかと因縁をつけてきて……。 平和的に悪役の座を降りたかっただけなのに、どうやらそれは無理みたいだ。 しかし、オフィーリアが人助けと自分の断罪回避の為に行っていた地道な根回しは、徐々に実を結び始める。 それがヒロインにとってのハッピーエンドを阻む結果になったとしても、仕方の無い事だよね? だって本来、悪役って主役を邪魔するものでしょう? ※主人公以外の視点が入る事があります。主人公視点は一人称、他者視点は三人称で書いています。 ※連載開始早々、タイトル変更しました。(なかなかピンと来ないので、また変わるかも……) ※感想欄は、ネタバレ有り/無しの分類を一切おこなっておりません。ご了承下さい。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~

遠雷
恋愛
「フローラ、すまない……。エミリーは戦地でずっと俺を支えてくれたんだ。俺はそんな彼女を愛してしまった......」 戦地から戻り、聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。エリオットの傍らには、可憐な容姿の女性が立っている。 周囲の者達も一様に、エリオットと共に数多の死地を抜け聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを称え、安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラを庇う者はごく僅かだった。 「……わかりました、旦那様」 反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。 その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。

日本

桜小径
エッセイ・ノンフィクション
我々が住む日本国、どんな国なのか?

ロンガニアの花 ー薬師ロンの奔走記ー

MIRICO
恋愛
薬師のロンは剣士セウと共に山奥で静かに暮らしていた。 庭先で怪我をしていた白豹を助けると、白豹を探す王国の兵士と銀髪の美しい男リングが訪れてきた。 尋ねられても知らんぷりを決め込むが、実はその男は天才的な力を持つ薬師で、恐ろしい怪異を操る男だと知る。その男にロンは目をつけられてしまったのだ。 性別を偽り自分の素性を隠してきたロンは白豹に変身していたシェインと言う男と、王都エンリルへ行動を共にすることを決めた。しかし、王都の兵士から追われているシェインも、王都の大聖騎士団に所属する剣士だった。 シェインに巻き込まれて数々の追っ手に追われ、そうして再び美貌の男リングに出会い、ロンは隠されていた事実を知る…。 小説家になろう様に掲載済みです。

処理中です...