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第二章~新しい生活~

放課後の教室で

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 放課後の静かな教室で二つの影だけがある。
 俺と、俺を教室に残る様に指示した水瀬南みなせみなみだ。
 話があると言われたが、水瀬が俺に何を話すのか見当もつかない。
 水瀬が近づくにつれて俺の鼓動も早くなる。
 顔も熱くなり、赤くなっている事が容易に想像できる。
 そんな俺をよそに、水瀬は一歩一歩近づいてくる。
 既にお互いの距離は手を伸ばせば届く距離までになっていた。
 これ以上近づかれたら心臓の音が聞こえてしまうんじゃないか?
 頭が熱でショートしかけている。
 何か話さないと。

「は、話ってなに?」

 俺は出来るだけ平静を装い本題に切り込む。
 すると今まで黙っていた水瀬が口を開く

「……た?」
「え?」
「…いた?」
「ごめん、聞こえない」
「聞いたの?って言ってるの!」
「うぉっ」

 声が小さくて聞き取れなかったので聞き返したら怒鳴られた。
 聞いたってなんのことだろう。

「えっと、何を?」
「今日、がっちゃ…小川さんと話したんでしょ?」
「う、うん話したけど」
「小川さんから聞いたの?」
「だから何を?」

 どうしたのだろう。何処か焦ってるように感じる。
 何か二人の間での秘密の様な物があったのだろうか。

「小川さんから何も聞いてないの?」
「昼に話した通りだよ。昨日俺が水瀬と何を話したか聞かれただけだよ」
「ホントに?」
「本当だよ、水瀬に嘘なんか吐かないよ」
「そ、そっかぁ~」

 と言い水瀬は力無く近くの椅子に座った。
 
「えっと、水瀬は何か誤解してて、その誤解が解けたって事でいいのかな?」
「そう……だね。うん、佐藤の事信じるよ!」

 よく分からないけど誤解が解けたならいいか。
 ってあれ? 話があるってこの事だったのか?

「水瀬が話があるってこの事だったの?」
「うん、そうなの。ごめんね」
「な~んだ、そう言う事か。俺はてっきり……」

 そこまで言って、しまった!と言葉を飲み込んだ。
 これじゃ俺が自意識過剰じゃないか!

「てっきり……なに?」
「い、いや何でもない!」
「ホント~に?」
「ほ、ホントホント」

 水瀬が顔を覗き込んできたので思わず顔を背けてしまう。
 ヤバイヤバイ! 今絶対顔赤い!
 すると水瀬は何かに気づいたのか

「あっ……」

 と言って水瀬まで顔を赤くしてしまった。
 これは完全にバレましたね。自意識過剰乙です。
 しかしこの状況をどうにかしないと。
 水瀬は耳まで赤くして俯いてしまってるしな。

「そ、そういえば部活は大丈夫なのか?」
「え? え~っと、今日は休むって伝えてある……」

 何故だろう、凄く気まずい。
 なんとかしないと。 何か他に話題は……あった!

「水瀬って陸上部ではミナって呼ばれてるんだな」
「ちょっ、え? ど、どうしてそれを?」
「小川がそう呼んでたからなん…だけ…ど」

 水瀬の動揺っぷりに触れてはいけない事に触れてしまったと思い段々と声が小さくなっていく。
 グループでも秘密にしてた位だから俺なんかに知られたくないよな。

「ごめん、そう呼ばれるの嫌なんだよな?」
「嫌って事はないんだけど……」

 手をモジモジさせながら顔を赤くしている。
 え? 元気キャラは何処行っちゃったの? なんかすごく乙女なんですけど!

「ミナの由来は聞いた?」
「う、うん」

 正直に答える。
 するとさっきまで俯いてた顔をバッ!と上げて興奮気味に喋り出した。

「そもそもミナの前がミナミナで呼びづらいからミナってどういう事? それに名前にミナが二つあるからミナミナって安直過ぎない?」
「お、おう」
「だから皆には内緒にしてるの」
「そ、そうだったのか」

 あだ名って難しいんだな。
 今日の課題はクリアできそうにないな。

「でもあれだな、ミナミナって水瀬の名前も含まれてるよな」
「え?」
「えっと、ミナミとミナミナだから最後のナを取ればミナミになるだろ?」

 俺が必死にフォローすると、水瀬がプッと噴出した。

「あはは、何それ~。凄いこじつけじゃん」
「は、はは」

 なんか凄い笑われたけど、こっちの方が水瀬らしくていいな。
 なんて思っていると

「じゃあさ、佐藤はミナミって呼んでよ」
「えっ? それって……」
「佐藤が発見したんだからちゃんと呼んでよ?」

 俺がいきなりの展開に固まっていると、イタズラな笑みを浮かべて

「佐藤だけの『ミナミ』だから♪」

 そう言って満面の笑顔を見せた。
 それはまるで太陽の様に眩しくてミナミの元気さが伝わってくるようだった。

 その後、ミナミは「やっぱり部活行ってくる!」と言って教室から出て行った。
 既に夕日が差していて、夕日に照らされた後姿を見届けた。
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