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第一章~始まり~

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 俺は自分のコミュ力の無さに打ち非がれていた。
 家族相手にすらまともに話せないなんて……。

「お兄ちゃんは会話には何が必要かわかる? って聞くまでも無いか」

 再び言葉のナイフが俺を切り刻む。

「何気ない会話にも相手や周りの事を考える必要があるの。相手が興味の無い話題を振っても相手は食いつかないし、その周りの人も同調出来ない。だから先ずは相手や流行りについて知る必要があるんだよ。流行りの話題だったらリア充なら当然把握してるしね。」

 という柚希からの有り難いお言葉を頂いた。

「でもどうやって相手が興味が有るか無いか見分けるんだ?」
「ん~、お兄ちゃんの場合は観察から入った方がいいかな。クラス内を観察して誰と誰が仲がいいのか、クラスでどんな話題が流行ってるのかを観察するの」

 観察なら得意だ。
 伊達にいつも休み時間一人で過ごしてないからな。
 あれ? なんだか悲しくなってきた。

「あと、喋る時はキチンと自信を持って喋る事! 携帯ショップの店員の話ししたでしょ? 自信なさげに喋ってもスルーされるか笑いものになるだけだからね!」
「はい。肝に銘じます」

 とは言っても喋り慣れてないから自信がもてないんだよなぁ。
 自信持って喋った事がスベッたらどうしようとか考えてしまう。

「その事を踏まえてもう一回やてみよう!」

 
 それから何回も挑戦した。
 柚希の学校の事や部活の事、友人や高校でやりたい事などを話題に出して、何度も繰り返し、何度もダメ出しを食らう。それを何度も何度も繰り返した。

「う~ん、及第点ってところかな」
「やったー!ってか疲れた~。」

 やっと柚希からオッケーを貰えた。

「お兄ちゃんにしては頑張ったね」
「まぁな。リア充になる為だしな」

 俺がそう言うと、柚希は少し沈んだトーンで

「私が虐められない為に……だよね?」

 俺は一瞬言葉に詰まるが

「まぁ、そうだな」

 と返す。
 すると

「それは嬉しいんだけど、せっかくリア充目指してるなら、『彼女を作る!』っていう目標があったほうがいいんじゃない?」
「か、彼女?」
「そう! 彼女が居てこそ真のリア充でしょ!」

 彼女かぁ。
 俺には一生出来ないと思ってたけど、リア充になれば出来るのだろうか?

「よし!お兄ちゃんの最終目標は『彼女と作る!』ってことで!」
「あ、あぁ。頑張るよ」
「もっと自信持って!」
「リア充になって彼女を作ってやるぜ!」
「頑張ってね!」

 柚希を不安にさせない為に力強く宣言する。
 
「そうすると女子との会話はもっとスムーズに話せた方がいいかぁ……。とすると……。」

 何やら柚希がブツブツ独り言を言い出した。
 心配になって「どうかしたか?」と声を掛けると

「ちょっと待ってて!」

 と言い、スマホを持って自分の部屋に行ってしまった。
 
 中々戻って来ないので自主トレをする事にした。
 表情筋を鍛えるトレーニングだ。
 このトレーニングは『あいうえお』を口を大きく開いて動かすというトレーニングだ。
 『あいうえお』を大げさにやる事で顔の筋肉全体を鍛える事ができるらしい。
 1日3回20分やれと言われているので、今のうちにやっておこう。


 俺がトレーニングを開始してから10分経った頃だろうか、階段を勢いよく降りる音が聞こえ、リビングのドアが勢いよく開かれた。

「お待たせー!」

 何だか機嫌が良さそうだ。

「どうした?テンション高くない?」

 と尋ねると

「会話のトレーニングって私としかしてないじゃない?」
「そうだな」
「だ・か・ら! 助っ人を呼ぶことに成功しましたー!パチパチ」

 なんだ、それでテンション高かったのか。

 って今何て言った?助っ人?

「助っ人ってどういう意味?」

 柚希はキョトンと小首を傾げ

「助っ人は助っ人だよ。私の親友にお兄ちゃんの話し相手になって貰いました!」

 ………。

「ええええぇぇぇぇ?!」
「お兄ちゃんうるさい!」
「うっ!」

 いやいや、柚希以外の女子と会話するだって?
 流石にまだ早いようなきがするんですけど……。

「それで、会話に必要な物覚えてる?」
「えーっと、相手の情報だよな。後は流行りものとかだっけ?」
「そうだね。あとは話す際の言葉の抑揚と姿勢に口角を上げる事。つまり、今までやって来たもの全てが必要なのです!練習にはうってつけでしょ?」

 確かに今までやって来た特訓全てが必要だろう。
 だとすると重大な事が欠けている。

「その親友の子の情報が一切ないんだけど……。名前すら知らない」

 俺のその言葉を受けて柚希は「ちっちっち!」と、人差し指を振る。

「今からその子の情報を教えるから明日までに全部暗記すること! 明日の午後に家に来てもらう事になってるから!」
「明日!急すぎるだろ。それに午後から来るならそれまでに覚えればいいんじゃないか?」

 俺が至極真っ当な意見を言うと、またしても「ちっちっち!」と指を振り

「午前中は出かけなければならないから今日中に覚えてね」
「それって柚希の都合だろ?俺は関係ないじゃん!」
「何言ってるの?お兄ちゃんと私とで出かけるんだよ」
「ど、何処に行くんだ?」

 俺の問いかけにニヤリと笑って

「それは明日のお楽しみ♪」

 と、嗜虐的な笑みを見せるのだった。


 明日は長い一日になりそうだ。
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