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22話   急転直下

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      ◆◆◆真希side◆◆◆

 ああああああ! やっちゃったーーーー! せっかく美咲に頼んで誠一と二人きりにして貰ったのに!
 でも! 誠一も悪いのよ。私の気も知らないで、『好意を寄せられてる奴は鼻高々だな』とか言うから! そもそも好意が無い男にあんな相談しないわよ!

 ――って、ちょっと待って! 『?』

 これってやっぱり誠一のことが好きってこと? あんなモヤモヤした気持ちが?
 ううん、好きだからこそモヤモヤしてたんだ。やっと自分の気持がわかった。

 私は、誠一が好きなんだ――――

 意識した途端、顔が燃えるように熱くなる。
 ど、どうしよう……さっきの私の態度良くなかったわよね? もし、あれが切っ掛けで誠一に嫌われたら……。
 マイナスな思考の所為で、今度は顔から血の気が引く。

「どうした神宮寺、顔色悪いぞ。体調悪いなら保健室行ってこい」
「す、すみません。大丈夫です」
「そうか? あまり無理するなよ」
「はい」

 先生に呼ばれ、授業中だった事を思い出す。というか、そんなに体調悪く見えたのかしら。だとしたら、私の不安な気持ちに嘘はないって事よね。
 と、とりあえず今は授業に集中しよう。誠一の事は帰りに確かめればいいだけだし……不安だけど。

 すべての授業が終わり、放課後になってしまった。美咲が帰ろうと誘ってくる。

「やっとおわったネ~。マジつかれたよー」
「そうね、私もなんだか疲れたわ」

 授業中ずっと誠一の事を考えてしまって疲れた。
 誠一があの程度で人を見放す様な人じゃない! と思い込んでも、万が一を考えて不安になる。ずっとその繰り返しだった。

「やっぱ疲れたときは甘いモノ食べたいね。帰りどこか寄ってこうよ」
「そ、その事なんだけど、海原君達も一緒なの?」
「なに言ってんのー、いつメンで行くにきまってんじゃーん」
「う、うん。そうよね」

 甘い物は食べたいけど、やっぱり誠一に遭うのが不安だ。
 そんな私に関係無く、美咲はルンルンで教室を出ていく。「なにしてんの? おいてっちゃうよー」と呼ばれ、私も覚悟を決めて美咲の後に続いた。


「ヤッホー男共! 甘い物食べにいこー!」
「太るぞ?」
「は? アタシは太んないし!」
「いて! ちょ、叩くなって」
「乙女に太るとか言うからだ!」
「悪かったって。美咲は太ってないし、可愛いぞ」
「そんなこと知ってるし」

 相変わらず仲が良いわね。それにお互い遠慮が全く見られない。これが恋人って事なのかしら。
 じゃあ、私と誠一ではどうなんだろう? と考え、チラッと誠一の方を見たら目が逢った。

「ん? 真希も甘い物食べたいのか?」
「え? う、うん」
「本当に女子って甘い物好きなんだな」
「なにそれ」
「いや、俺の中じゃ都市伝説みたいなモノだったから」
「でも、今まで美咲と仲良かったんでしょ? 美咲甘い物好きじゃない」
「そうなんだけど、美咲以外の女子がってこと」
「ああ、お姉ちゃんと知り合うまで女子に興味無かったって言ってたわね」
「そういうこと」

(あれ? 普通に接してくれてる? という事は少なくても嫌われてはいないってことよね)

「そういえば、お昼はごめん。怒らせちゃったみたいで」
「べ、別にもういいわよ」
「ありがとう」
「わ、私こそ嫌な態度取ってごめん」
「大丈夫、真希は気にしなくていいよ。多分、俺が悪かったんだろうし」
「……ありがと」

(やっぱり誠一は優しい。どう見たって昼のアレは私が悪いのに……)
 
「真希ー、誠一ー、何やってんの、置いてっちゃうよー」
「おー、今行くー」

 いつの間にか美咲と海原君がずっと先の方に行ってしまっていた。

「真希、ちょっと走るぞ」
「え? ちょっと待ってよー」

 誠一が軽く駆け出し、それを追いかける。誠一と一緒に居ると、やっぱり楽しい。


 お姉ちゃんごめん。私、誠一の事が好きみたい――――。


 夕飯の支度をしながら考える。誠一を好きになった事をちゃんと話した方が良いのかどうか……。
 お姉ちゃんは三人でデートしたいって言ってたけど、本心から言ってたのかしら?
 私に気を使って言ってる可能性も捨てきれない。
 小さい頃からお姉ちゃんは私の我儘を聞いてくれてた。欲しいと言った物はくれたし、私が泣いていたら一番心配してくれた。そんな優しいお姉ちゃん。

 もし、誠一が欲しいと頼んだら?

 考えなくても分かる。お姉ちゃんは喜んで身を引くだろう。だからこそ、三人でデートしたいとか言い出したんだ。
 最初はその夢の為に私の気持ちをハッキリさせようと思っていたけど、今考えると、なんてヒドイ事を考えていたのだろう。

 お姉ちゃんには婚約者が居て、未来が決まっている。それに抗う武器として、誠一との交際を応援してきた。ここで私も誠一が好きなんて言ったら、お姉ちゃんの未来は暗いものに確定してしまう。
 だったら、私の気持ちは明かさない方が良いに決まってる。今まで我儘言ってきた、妹のせめてもの恩返しをしないと――。


 それから数日間、お姉ちゃんには「まだ良く分からない」と言って、私の気持ちは隠している。だけどお姉ちゃんは、「そっか~。もっと誠一さんと話さないとダメだよ~」と言って背中を押してきた。
その度に、「はいはい、分かってるわよ」と言って流してきた。

 お姉ちゃんにも、私の心にも嘘をついて、私は道化を演じ続けた――。

 また数日が経ち、今日は誠一とお姉ちゃんのデートの日だ。
 いつもならお姉ちゃんの代わりに習い事に行くのだが、「今日は入れ替わらなくても大丈夫だよ」と珍しい事が起こった。父が今まで習い事を休ませてくれるなんてことは滅多に無かったから驚いたけど、私としてはゆっくり出来るので深く考えていなかった。

 夕方、お姉ちゃんがデートから帰ってくると同時に、信じられない事を言いだした。

「あは、誠一さんと別れてきた」
「……え?」

 誠一とお姉ちゃんが別れた? どうして? 私の気持ちがバレた?
 混乱した頭で何が原因なのか考えていると、続けざまにお姉ちゃんが言う。

「それと、しばらく本家に戻るから。その間、誠一さんの事よろしくね」

 そう言って、ニコッと微笑む。

「……どういうこと?」
「誠一さんは悪くないからね。悪いのは私なの」
「誠一から別れようって言ってきたの?」
「違うよ。私から振ったの」
「なんで! あんなに好き好き言ってたじゃない!」
「ごめんね」

 意味がわからない。どうしてお姉ちゃんと誠一が別れるなんて事になるのよ! こうならない為に、私は今まで自分の気持ちを隠してきたのに! それに、本家に戻るって何? またあの父親が何かしたんじゃ――。

「本家に戻るために誠一と別れたの?」
「……それは違うかな」
「なら、どうして!」
「誠一さんとずっと一緒に居たいと思ったから戻るんだよ」
「何それ! 意味がわんないよ!」
「今は何も言えないの。ごめんね」
「どうして……どうしてなのよ!」
「ごめんね真希ちゃん」

 私が意味もわからず泣き喚いているなか、お姉ちゃんは家を出ていった――――。



 それから数日後、私も本家に呼び出された。
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