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16話   ハプニング

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 スマホを握ったまま放心していると、武人に背中を強く叩かれた。

「っいて!」
「なに固まってんだよ」
「それが……真澄さんを遊びに誘ったんだけど、誘わないでくれって言われて」
「そんなこと本当に言ったのか? 見せてみろよ」

 俺から無理矢理スマホを奪い取り、メッセージを読み始めた。すると、武人が笑い出した。

「何笑ってるんだよ、俺はショックを受けてるんだぞ」
「お前、メッセージちゃんと全部読んだか?」

 ちゃんと読めと言いながらスマホを渡してくる。
 読んだも何も、読んだからこそショックを受けてたんだぞ――――ん?

‹ご一緒したいのはやまやまなのですが、平日は習い事等で忙しいんです›
‹折角、誠一さんからお誘い頂けたのに申し訳有りません›
‹お詫びという訳ではありませんが、次の日曜日にデートしましょう›

 さっきまで送られていなかったメッセージが届いていた。あ! もしかして俺が放心してる間に来たのか! というか、真澄さんの方からデートに誘ってくれるなんて、嬉しすぎる!
 スマホの画面を見つめながら感動していると、武人にツッコまれた。

「嬉しいのは分かるが、返事しなくていいのか?」
「っ! そ、そうだ! 早く返事返さないと」

‹日曜なら丁度暇してました! 是非デートしてください!›
‹良かった。断られたらどうしようかと思いました›
‹真澄さんのお誘いを断る訳ないじゃないですか!›
‹やっぱり誠一さんは優しいですね。そういう所も好きですよ›

 あわわわっ! 好きと言われた! ここは俺も言わないとだよな。

‹俺も真澄さんの事大好きです!›
‹なにか照れますね。そろそろ習い事の準備をしなくてはいけないので、またメッセージします›
‹分かりました。頑張ってください›

 ふぅ、何度もメッセージのやり取りしてるけど、まだ緊張するな。でもこんなんじゃ彼氏としてまだまだだな。男らしく真澄さんを引っ張っていかなくちゃ。

 俺がスマホを仕舞うと、隣で待っていた武人が、「終わったなら早く行こうぜ」と言ってスタスタと歩いて行ってしまった。その後を追う形で俺も教室を後にした。

 昇降口に着くと、そこには美咲と真希が既に靴に履き替えて俺達を待っていた。

「おっそ~い!」
「文句は誠一に言え」
「誠一が何かしたの?」
「ああ、真澄さんに遊び断られてフリーズしてたんだよ」
「はぁ? なにそれ、やっぱ誠一ってバカだよね」
「勉強は出来るのにな。ま、それだけ恋に恋してるんじゃねぇの」
「あの誠一がねぇ。これはますます真澄っちには感謝だね~」

 そんな事を言いながら武人と美咲が笑い合う。相変わらず仲が良いな。
 なんて考えていたら、横から罵声が飛んできた。

「貴方ってバカだったのね」
「バカじゃない。遊びに誘って断られたら誰だってショック受けるだろ」
「大体、お姉ちゃん平日は習い事で忙しいって事くらい知っておきなさいよ」
「いやいや、昼に真希が誘えって言っただろ?」
「今日誘えとは言ってないけどね」
「ぐぬぬ……」

 口じゃ真希に勝てる気がしない。本当にあの穏やかな真澄さんの妹か? と思ってしまうが、外見は瓜二つなので疑いようがない。
 俺達が無益な言い争いをしていると、美咲に「早くいこー」と急かされ、武人達と合流した。

 武人の「とりあえずゲーセン行くか」の一言で、俺達はゲーセンに向かっている。
 道中、昼の時とは逆に真希の話題で盛り上がった。
 最近まで女子に全く興味がなかった俺からすれば、学校での真希は結構な有名人だったらしい。
 高校入学早々、同級生、上級生問わず告白されていたらしい。それは二年になった今も続いているのだが、ただの一度もOKした事が無く、高嶺の花のような存在になっていたようだ。
 
「もう、美咲やめてよね」
「え~、いいじゃ~ん。真希は男なんかクズしか居ない! って言ってたんだよ~」
「へ~、それで美咲と一緒に俺の悪口言ってた訳か」
「ちょ、違うのよ海原君、私はただ美咲のグチを聞いてただけだから」
「ふ~ん、そういう事にしとくよ」
「ホントに違うんだっ――きゃ!」

 真希が弁明しようと必死になるあまり、周りが見えなかったのか通行人にぶつかってしまった。
 しかも、よりによっていかにもなチンピラ風の男三人に。

「おいおい、ちゃんと前見て歩けよ」
「ご、ごめんなさい」
「おっ!」

 案の定、ぶつかった男が文句を言ってきたが、謝る真希の姿を見た途端、下卑た表情になった。

「本当に悪いと思ってんの?」
「はい、申し訳ありません」
「じゃあこれから俺達と遊ぼうぜ! ガキより楽しい場所連れってってやるからさ」
「いえ、お断りします」
「はぁ?」

 マズイな。良くも悪くも真希は信念が強い。コッチが悪かったとしても決してあんな誘いには乗らないだろう。だが、ああいう奴等相手には悪手だ。
 その証拠に真希の毅然とした態度にチンピラ達も怒りをあらわにする。

「なんだその態度は? 舐めてんのか!」
「ぶつかった事は申し訳なく思いますが、あなた達の誘いを受けるというのは筋違いです」
「っざけたこと言ってんじゃねぇぞ! こっち来いや!」
「きゃっ!」

 チンピラの一人が真希の腕を強引に掴んだ。
 その瞬間、美咲が「誠一──」と何か言いたげだったが無視して、俺は男たちの前に躍り出た。
 瞬時に腕を掴んでいる男に肉薄し、掴んでいる腕を払い除けた。

「てめぇ、なにしやがる!」
「強引な事はやめてください。ぶつかったのはこちらが悪かったです。すみません」
「てめぇは関係ねぇだろが! すっこんでろ」
「いえ、友人が蒔いた種ですので」
「だったらてめぇが痛い目みるか?」
「勘弁してください」

 そう言って深々と頭を下げる。しかし、男は引き下がらない。

「おいおい、あやまればいいってもんじゃねぇぞ」
「そこをなんとか許して頂けないでしょうか」
「うぜぇよお前」
「本当にすみませんでした!」
「お、大きい声出すんじゃねぇよ」
「許して貰えるまで謝罪します。すみませんでした!」

 俺が一歩も引かず謝っていると、武人と美咲も一緒になって謝りだした。

「ホントにスンマセンでした!」
「あたしも謝ります。ごめんなさい!」
「な、なんだコイツら……」
「「「すみませんでした!」」」

 俺達が謝っていると、他の通行人が何事かとチラチラ見てくる。それどころかコソコソとチンピラ達の事を話す声も聞こえる。

「わ、わかったよ。今度から気をつけろよ」
「ありがとうございます!」

 チンピラ達は他の通行人から逃げる様に去っていった。
 見物やコソコソ話をしていた人たちも本来の目的を思い出したのか、止めていた足を動かす。

 これで一件落着と思っていると、後から怒号が飛んできた。

「なんで謝ったりしたのよ! 悪いのはアイツ等じゃない」
「でも最初にぶつかったのは真希だろ?」
「それは……そうだけど。だからって何で貴方が謝るのよ」
「あれが一番穏便に済ませられたからかな」
「何よそれ。貴方ならあんな奴等敵じゃないでしょ?」

 どうやら俺がチンピラ達を退治しなかった事が気に入らないらしい。

「確かにあの程度の連中なら俺の敵じゃないな」
「なら何で――」
「でも、あそこで俺が暴力を振るったら、俺もアイツ等と変わらなくなるだろ?」
「そんなこと……」
「切っ掛けを作ったのは俺達だ。だったら謝るしかないだろ。暴力で解決なんて誰も幸せにならない」
「…………」

 黙ってしまったが、まだ納得していない雰囲気だ。

「じいちゃんに教わったんだ。身につけた力は大切なものを守るのに使いなさいって。力で解決しても、それ以上の力で報復されるのがオチだってね。だから俺は力を使わなかった」
「…………」

 う~ん、納得してくれないかな? どうしようかと武人に助太刀を頼もうとした時、真希が悪戯っぽく笑った。

「その話だと、私は貴方にとって大切じゃないって事よね?」
「い、いや、そういう訳じゃなくって……」
「どうせ私はお姉ちゃんの妹だもんね」
「そうじゃなくて……えっと……」

 どう答えればいいか悩んでいると、「ゴメンゴメン」と舌を出して笑った。

「貴方があまりにも大人の対応したから嫉妬しちゃった」
「へ?」
「本当は貴方が正しいって分かってた。でも意地になっちゃって……。ごめんね」
「う、うん」

 「海原君と美咲もごめんね」と言って頭を下げた。武人と美咲は「気にしなくていい」と言った後、「怖かった~」と笑い合う。これで一件落着かな。

「ねぇ」
「どうしたの?」
「さっきはかっこよかったよ」
「え?」
「これからもよろしくね、誠一」

 そう言って笑う真希の笑顔は、真澄さんみたいな無邪気な笑顔だった。
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