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5話 イレギュラー
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◆◆◆誠一side◆◆◆
一睡も出来ないまま朝を迎え、今日告白の返事が聞けるという期待と不安が入り交じる中、軽く朝食を済ませて学校へ向かう。
通学の途中で恋人同士らしき男女が一緒に登校している光景が目に入った。
「もし付き合えたら俺もあんなことできるのかなぁ」
そう独り言ちて夢想する。
今まで恋愛というものにリアルを含め、ドラマやマンガでさえ触れてこなかった。そんな俺が告白して恋人を作ろうとしているのが不安を掻き立てる。はたして、前を歩いているカップルの様に上手くやれるのだろうか?
「というか、まだ返事も聞いてないのにこんな心配しても無駄だよな」
学校に到着し、自分のクラスへ入ると、武人がニヤニヤ笑いながら近づいてきた。
「どうだった告白は。OK貰えたか?」
「告白は全力で自分の思いをぶつけられたと思う」
「で、返事は?」
「その場では貰えなかった。今日の放課後に返事してくれるらしい」
武人は「あちゃー」と言いながら額に手をやった後、俺の肩をポンと叩く。
「ドンマイ。こんど美咲に頼んで友達を紹介して貰え」
「まだフラれると決まって無いだろ!」
「うんうん、そうだな。今日は待っててやるからパーっと気分転換しようぜ」
「そんな事はしなくていい! さっさと帰れよ」
「ま、もし本当にダメだったらまた相談に乗ってやるからドンとぶつかってこい」
「言われなくたってそうするさ」
拳と拳を突き合わせ、武人は自分の席に戻っていった。
授業が全て終わり、とうとう放課後がやってきた。
正直言って今日の授業の内容は全然頭に入ってこなかった。OK貰えたらどうしよう。もし断られたらどうしようと頭の中をずっとグルグル回っていた。俺がこんなにメンタルが弱かったなんて今まで気づかなかった。いや、恋愛という未知のステージだから少し不安になっているだけだ。そうに違いない!
そう自分に言い聞かせて席を立つと、武人が出入り口で俺を待っていた。
「本当に俺が居なくて大丈夫か?」
「俺がフラれた程度で落ち込むと思うか?」
「思うから言ってるんだが?」
「ぐっ、俺は試合でじいちゃん以外に負けたことは無いんだからな!」
そう自分を鼓舞するように言い放ち、武人に別れを告げ、昨日の約束の場所へ向かう。
告白した場所に着いたが、まだ神宮寺さんは来ていなかった。そういえば昨日はもう少し遅い時間だったか。
「丁度いい。精神統一して気持ちを落ち着けよう」
座禅が組めればよかったが、生憎地面がむき出しのため立ったまま精神統一に努める。
「…………」
無心だ。無心になれ!
「…………」
『ごめんなさい、貴方とは付き合えません』
「っうわぁぁぁ!?」
なんでこんな想像してしまうんだ! 心が弱気になってるからいけないんだ。今までの俺はどんな状況でも弱音は吐かなかった。いつもの様に勝つイメージを強く持たなければ!
「よし! 俺は大丈夫!」
「キャッ! ビックリしたー」
「え?」
気づくとビックリした状態で固まっている神宮寺さんがそこに居た。
いつから居たんだろう……集中していて気づかなかった。もしかして今までのをずっと見られてた?
気持ち悪い奴とか思われてたらどうしよう……。と、とりあえず何か喋らなければ!
「お、驚かしてごめん。いつから居たの?」
「ううん、大丈夫ですよ。今来たばかりです。お待たせしてしまったようでごめんない」
「い、いえ! 全然問題無いっす!」
「ありがとうございます」
「…………」
「…………」
き、気まずい! っていうかなんで何も言ってくれないんだ? やっぱり断る事に躊躇してるとか? いやいや! 弱気になってどうする! ここは男の俺から切り出さなければ!
「あ、あの……返事を聞かせてくれませんか?」
「……はい、そうですね」
遂に運命の時。ここが俺の人生のターニングポイントだ!
「……是非お付き合いさせてください」
「……ほ、本当に?」
「はい」
うおおおぉぉぉ! やった! やった! 嬉しすぎて涙が溢れそうだ。俺は今世界一幸せだ!
「そのかわりと言っては申し訳ないのですが、条件を出させて貰ってもいいですか?」
「え? 条件?」
「はい」
条件とは一体なんだろう? もしかして「毎日一緒に登下校したい」とかだったりして!
「なんでも言ってください! 俺はなんでも受け入れますよ」
「そうですか、良かったです。条件というのは――」
神宮寺さんから出された条件は以下の四つ。
一 付き合っている事を誰にも話さない
二 学校では接触禁止
三 デートは週に一回(日時は神宮寺さんが決める)
四 この関係が外部に漏れた時点で恋人解消
まさかこんな条件が提示されるとは考えていなかった。誰にも話さない、関係を知られたら恋人解消って……俺と付き合ってる事を知られたくない? 俺なんかと付き合ってるのが知られたら恥ずかしいってことなのか?
ウジウジ考えても仕方ない。疑問に思った事はちゃんと聞こう。
「どうして学校では接触禁止なんですか? それに周りに知られたら恋人解消っていうのは俺と付き合っているのが恥ずかしい、俺という男が彼氏だと恥をかくという事でしょうか?」
「恥だなんてそんな事はないです。ただ、家が厳しくて男性と付き合っている事がバレたら強引にでも引き剥がされてしまうので……」
「そう……ですか。学校では接触禁止というのも周りにバレない様にですか?」
「……それもありますが、普段の私と恋人の前での私はまるで別人なので嫌われたくないからです」
そんなに厳しい家なのか……。まぁ俺もじいちゃんには厳しく育てられたからなぁ。きっとまだ俺には言えない事情もあるんだろう。それでも俺の告白に対して真剣に向き合ってくれたんだから俺も真剣に応えないとな。
「わかったよ。その条件で問題ないです」
「本当にいいんですか? 友人にも話せないんですよ?」
「大丈夫です……よ──」
自信満々に大丈夫と応えていると、何故か武人が通りかかり、こちらに気づいたようで手を振っている。今はマズイ! と反射的に叫んでいた。
「コッチにくるな!」
俺の叫びを聞いて神宮寺さんが振り返る。そこには「もしかしてまだ話の途中だった?」と呑気に言いながら歩み寄ってくる武人の姿が映ったに違いない。
「なんで来てんだよ!」
「いやぁ、なかなか帰ってこないから心配になってさ」
心配してくれるのは嬉しいけどよりによってこのタイミングで来るなんて……。
どう神宮寺さんに説明しようかと頭を抱えていると、先に神宮寺さんが口を開いた。
「これは一体どういう事でしょうか?」
「えっと、神宮寺さんを暴漢から助けた時に一緒に居た奴なんですが、告白の事とか色々相談乗ってもらってて……」
「そうそう。コイツ神宮寺さんをひと目見て運命の女性だ! って騒いでてさ」
「……なるほど、失礼ですがお名前は?」
「海原武人。コイツとは幼馴染なんだ」
「そうですか。……少し失礼しますね」
そう言うと神宮寺さんは俺達から距離を取り、何やらスマホで誰かと話しているようだった。
数分して通話が終わったのか、神宮寺さんが戻ってきた。
「海原さん、貴方は誠一さんの為に秘密を守れますか?」
「突然だな。言っちゃなんだが今まで俺はコイツを裏切ったりした事ないんだぜ」
「誠一さん、貴方もきちんと約束は守れますか?」
「絶対に守る!」
「そうですか。では海原さんにも先程の条件を説明します。それを聞いた上で判断してください」
「条件?」
眉根を寄せる武人に、神宮寺さんは淡々とさっき俺に提示した条件を説明していく。話を聞いていく内に武人の眉間のシワが濃くなっていく。
そして全てを話し終えた神宮寺さんが武人に問う。
「いかがです? 秘密を守れますか?」
「んー、正直やりすぎなんじゃとは思う。だけど、誠一がそれで良いってんなら俺は口を挟まないし、秘密も漏らさない」
「分かりました。誠一さん、改めてお付き合いお願いします」
そう言ってキレイなお辞儀をする。俺もつられてお辞儀しながら応える。
「こちらこそよろしくおねがいします! 絶対に幸せにします!」
プロポーズじゃねぇんだから。と武人に突っ込まれたがそんなのは今の俺にとって些事でしか無い。
神宮寺さんはブレザーのポケットから一枚の便箋を取り出し、俺に差し出した。
「コレに連絡先が書いてあるので、これから連絡する時はこちらにお願いします」
「ありがとう! 大切に保管します!」
「ふふ、そうですね。大事にしてください」
初めての彼女の連絡先に感動していると、神宮寺さんが「そろそろ失礼しますね。それと……連絡、待ってますから」と言ってこの場を後にした。
俺はしばらく余韻に浸っていたかったが、武人に初彼女のお祝いだ! といって夜まで連れ回されたが悪い気はしなかった。
こうして俺は無事に運命の女性と恋人同士になれた。
一睡も出来ないまま朝を迎え、今日告白の返事が聞けるという期待と不安が入り交じる中、軽く朝食を済ませて学校へ向かう。
通学の途中で恋人同士らしき男女が一緒に登校している光景が目に入った。
「もし付き合えたら俺もあんなことできるのかなぁ」
そう独り言ちて夢想する。
今まで恋愛というものにリアルを含め、ドラマやマンガでさえ触れてこなかった。そんな俺が告白して恋人を作ろうとしているのが不安を掻き立てる。はたして、前を歩いているカップルの様に上手くやれるのだろうか?
「というか、まだ返事も聞いてないのにこんな心配しても無駄だよな」
学校に到着し、自分のクラスへ入ると、武人がニヤニヤ笑いながら近づいてきた。
「どうだった告白は。OK貰えたか?」
「告白は全力で自分の思いをぶつけられたと思う」
「で、返事は?」
「その場では貰えなかった。今日の放課後に返事してくれるらしい」
武人は「あちゃー」と言いながら額に手をやった後、俺の肩をポンと叩く。
「ドンマイ。こんど美咲に頼んで友達を紹介して貰え」
「まだフラれると決まって無いだろ!」
「うんうん、そうだな。今日は待っててやるからパーっと気分転換しようぜ」
「そんな事はしなくていい! さっさと帰れよ」
「ま、もし本当にダメだったらまた相談に乗ってやるからドンとぶつかってこい」
「言われなくたってそうするさ」
拳と拳を突き合わせ、武人は自分の席に戻っていった。
授業が全て終わり、とうとう放課後がやってきた。
正直言って今日の授業の内容は全然頭に入ってこなかった。OK貰えたらどうしよう。もし断られたらどうしようと頭の中をずっとグルグル回っていた。俺がこんなにメンタルが弱かったなんて今まで気づかなかった。いや、恋愛という未知のステージだから少し不安になっているだけだ。そうに違いない!
そう自分に言い聞かせて席を立つと、武人が出入り口で俺を待っていた。
「本当に俺が居なくて大丈夫か?」
「俺がフラれた程度で落ち込むと思うか?」
「思うから言ってるんだが?」
「ぐっ、俺は試合でじいちゃん以外に負けたことは無いんだからな!」
そう自分を鼓舞するように言い放ち、武人に別れを告げ、昨日の約束の場所へ向かう。
告白した場所に着いたが、まだ神宮寺さんは来ていなかった。そういえば昨日はもう少し遅い時間だったか。
「丁度いい。精神統一して気持ちを落ち着けよう」
座禅が組めればよかったが、生憎地面がむき出しのため立ったまま精神統一に努める。
「…………」
無心だ。無心になれ!
「…………」
『ごめんなさい、貴方とは付き合えません』
「っうわぁぁぁ!?」
なんでこんな想像してしまうんだ! 心が弱気になってるからいけないんだ。今までの俺はどんな状況でも弱音は吐かなかった。いつもの様に勝つイメージを強く持たなければ!
「よし! 俺は大丈夫!」
「キャッ! ビックリしたー」
「え?」
気づくとビックリした状態で固まっている神宮寺さんがそこに居た。
いつから居たんだろう……集中していて気づかなかった。もしかして今までのをずっと見られてた?
気持ち悪い奴とか思われてたらどうしよう……。と、とりあえず何か喋らなければ!
「お、驚かしてごめん。いつから居たの?」
「ううん、大丈夫ですよ。今来たばかりです。お待たせしてしまったようでごめんない」
「い、いえ! 全然問題無いっす!」
「ありがとうございます」
「…………」
「…………」
き、気まずい! っていうかなんで何も言ってくれないんだ? やっぱり断る事に躊躇してるとか? いやいや! 弱気になってどうする! ここは男の俺から切り出さなければ!
「あ、あの……返事を聞かせてくれませんか?」
「……はい、そうですね」
遂に運命の時。ここが俺の人生のターニングポイントだ!
「……是非お付き合いさせてください」
「……ほ、本当に?」
「はい」
うおおおぉぉぉ! やった! やった! 嬉しすぎて涙が溢れそうだ。俺は今世界一幸せだ!
「そのかわりと言っては申し訳ないのですが、条件を出させて貰ってもいいですか?」
「え? 条件?」
「はい」
条件とは一体なんだろう? もしかして「毎日一緒に登下校したい」とかだったりして!
「なんでも言ってください! 俺はなんでも受け入れますよ」
「そうですか、良かったです。条件というのは――」
神宮寺さんから出された条件は以下の四つ。
一 付き合っている事を誰にも話さない
二 学校では接触禁止
三 デートは週に一回(日時は神宮寺さんが決める)
四 この関係が外部に漏れた時点で恋人解消
まさかこんな条件が提示されるとは考えていなかった。誰にも話さない、関係を知られたら恋人解消って……俺と付き合ってる事を知られたくない? 俺なんかと付き合ってるのが知られたら恥ずかしいってことなのか?
ウジウジ考えても仕方ない。疑問に思った事はちゃんと聞こう。
「どうして学校では接触禁止なんですか? それに周りに知られたら恋人解消っていうのは俺と付き合っているのが恥ずかしい、俺という男が彼氏だと恥をかくという事でしょうか?」
「恥だなんてそんな事はないです。ただ、家が厳しくて男性と付き合っている事がバレたら強引にでも引き剥がされてしまうので……」
「そう……ですか。学校では接触禁止というのも周りにバレない様にですか?」
「……それもありますが、普段の私と恋人の前での私はまるで別人なので嫌われたくないからです」
そんなに厳しい家なのか……。まぁ俺もじいちゃんには厳しく育てられたからなぁ。きっとまだ俺には言えない事情もあるんだろう。それでも俺の告白に対して真剣に向き合ってくれたんだから俺も真剣に応えないとな。
「わかったよ。その条件で問題ないです」
「本当にいいんですか? 友人にも話せないんですよ?」
「大丈夫です……よ──」
自信満々に大丈夫と応えていると、何故か武人が通りかかり、こちらに気づいたようで手を振っている。今はマズイ! と反射的に叫んでいた。
「コッチにくるな!」
俺の叫びを聞いて神宮寺さんが振り返る。そこには「もしかしてまだ話の途中だった?」と呑気に言いながら歩み寄ってくる武人の姿が映ったに違いない。
「なんで来てんだよ!」
「いやぁ、なかなか帰ってこないから心配になってさ」
心配してくれるのは嬉しいけどよりによってこのタイミングで来るなんて……。
どう神宮寺さんに説明しようかと頭を抱えていると、先に神宮寺さんが口を開いた。
「これは一体どういう事でしょうか?」
「えっと、神宮寺さんを暴漢から助けた時に一緒に居た奴なんですが、告白の事とか色々相談乗ってもらってて……」
「そうそう。コイツ神宮寺さんをひと目見て運命の女性だ! って騒いでてさ」
「……なるほど、失礼ですがお名前は?」
「海原武人。コイツとは幼馴染なんだ」
「そうですか。……少し失礼しますね」
そう言うと神宮寺さんは俺達から距離を取り、何やらスマホで誰かと話しているようだった。
数分して通話が終わったのか、神宮寺さんが戻ってきた。
「海原さん、貴方は誠一さんの為に秘密を守れますか?」
「突然だな。言っちゃなんだが今まで俺はコイツを裏切ったりした事ないんだぜ」
「誠一さん、貴方もきちんと約束は守れますか?」
「絶対に守る!」
「そうですか。では海原さんにも先程の条件を説明します。それを聞いた上で判断してください」
「条件?」
眉根を寄せる武人に、神宮寺さんは淡々とさっき俺に提示した条件を説明していく。話を聞いていく内に武人の眉間のシワが濃くなっていく。
そして全てを話し終えた神宮寺さんが武人に問う。
「いかがです? 秘密を守れますか?」
「んー、正直やりすぎなんじゃとは思う。だけど、誠一がそれで良いってんなら俺は口を挟まないし、秘密も漏らさない」
「分かりました。誠一さん、改めてお付き合いお願いします」
そう言ってキレイなお辞儀をする。俺もつられてお辞儀しながら応える。
「こちらこそよろしくおねがいします! 絶対に幸せにします!」
プロポーズじゃねぇんだから。と武人に突っ込まれたがそんなのは今の俺にとって些事でしか無い。
神宮寺さんはブレザーのポケットから一枚の便箋を取り出し、俺に差し出した。
「コレに連絡先が書いてあるので、これから連絡する時はこちらにお願いします」
「ありがとう! 大切に保管します!」
「ふふ、そうですね。大事にしてください」
初めての彼女の連絡先に感動していると、神宮寺さんが「そろそろ失礼しますね。それと……連絡、待ってますから」と言ってこの場を後にした。
俺はしばらく余韻に浸っていたかったが、武人に初彼女のお祝いだ! といって夜まで連れ回されたが悪い気はしなかった。
こうして俺は無事に運命の女性と恋人同士になれた。
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