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第16話 メイド

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 各々が部屋に荷物を置いて再びロビーに集まった。

「取りあえず色々な店を周ってみよう」
 
 俺の提案に二人も賛同し、宿を出る。
 宿を出てすぐ左の川沿いに沿って露店を物色する。
 すると一つの店が目に留まった。

「ここは武器を売ってるみたいだな」
「色んなのあるね~」
「そういえばサヤカ様は武器を使わないのですか?」
「そうだな、鞘華も武器を持っていた方がいい」
「ん~、武器か~。私は基本的に素手の方がいいんだけど」
「何も持ってないよりはマシじゃないか?」
「そうですよ! 例え使わなくても相手への牽制になります」
「正樹に話してなかったっけ? 私、空手、柔道、テコンドーを習ってたのよ」
「初耳だよ! 習ってたって、もしかして研究所でか?」
「そうよ! 私のスキルは攻撃型じゃないから自分の身は自分で守れるようにって思って教わったの」
「そうだったのか」
「カラテ? ジュウドウ? よくわかりませんがそれらは武器を使わないんですか?」
「ん~、ヌンチャクとかは演武で使った事はあるけど実践なら素手ね」
「そうですか。でしたらこちらのグローブなんてどうですか?」

 サーシャが手の取ったのは指抜きグローブだ。
 拳の所に赤い石の様な物が付いている。

「おっ、良さそうじゃん。これなら邪魔にならないしどうだ?」
「確かにグローブなら問題ないけど、不格好じゃない?」
「それはしょうがないだろう、武器なんだから」

 俺達が店先で騒いでいた所為か奥から店主がやって来た。

「いらっしゃいませ、そちらのグローブがお気に召しましたか?」
「えっと、どうだ鞘華、それにするか?」
「ちょっと不格好だけどこれでいいわ」
「という訳で、このグローブをください」
「流石は領主様お目が高い! そちらのグローブは拳の所に滅多に取れないアダマンタイトを使用しています。使う者が使えば岩だって砕けますよ! それに目を付けるとは流石は領主様です」

 メチャクチャ褒めてくるがそのグローブを選んだのサーシャなんだよなぁ。
 しかもナチュラルに俺が領主だとバレてるし。

「それで、このグローブは幾らですか?」
「通常ですと100万イェンですが、領主様と言う事で赤字覚悟の60万イェンでどうでしょう?」

 どうでしょう? と言われても元々の価値が分からないのでサーシャに聞いてみる。

「どうだサーシャ、お買い得なのか?」
「はい! かなり安くして貰ってるとおもいます」
「そうか。なら買うとしよう」

 俺は懐から財布を取り出し店主にお金を渡した。

「お買い上げ有難うございます。そちらの女性は見た所銅の剣を持っているようですが、女性が扱うには少々大きすぎかと思います」

 店主は目聡くサーシャの持っている銅の剣を指摘した。
 確かに女の子が持つ様な武器ではないな。

「この際だからサーシャも新しい武器を買おう」
「よろしいのですか?」
「銅の剣だと扱いにくいだろうし、鞘華だけ買うのも不公平だしな」
「ありがとうございます、マサキ様!」

 嬉しそうに俺の手を握ってお礼を言ってくる。

「サーシャはどんな武器がいいんだ?」
「そうですね、片手で扱える方がいいです」
「それでしたらこちらのダガーなどいかがでしょう?」

 店主が一本のダガーを取り出しサーシャに渡す。

「そちらのダガーはダマスカス鋼で出来ておりまして切れ味は保障します。高レベルの者が扱えば鉄でも切れるとの事です。そして何より軽いので女性の片手武器には丁度いいかと思います」
「だそうだが、どうだ?」

 サーシャは何度か素振りをした後に

「とても扱いやすいです」
「じゃあ、このダガーも買おう、幾らだ?」
「こちらも領主様という事を考慮して80万イェンでいかがでしょう?」

 鞘華のグローブより高いが、ダガーは全てダマスカス鋼で出来ている分高くなっているのだろう。

「では買わせて貰おうかな」
「毎度有難う御座います」

 これで武器は大丈夫だろう。そうなると次は防具か。
 俺達は武器屋を後にして再び露店を見ながら歩く。

「マサキ様は武器を買われないのですか?」
「俺には武器は必要ないからね」
「確かに魔法の様な物が使えるならあまり必要ではなさそうですね」
「そういうこと。それより防具はどうする?」
「防具ですか……」
「私は防具はいらないわ! 制服に防具なんて似合わないし」
「私も防具は必要ありません。折角サヤカ様とマサキ様から頂いた服ですのであまりごちゃごちゃと付けたくありません」
「二人が要らないって言うならいいけど、くれぐれも気を付けてな」
「かしこまりました」
「は~い」
「じゃあそろそろ宿に戻ろう」

 鞘華とサーシャの武器を新調したし、今日はこの位でいいだろう。
 日も落ちかけているし、お腹も空いてきた。
 俺達が再び宿に戻り入り口を開けると

「お帰りなさいませ!」

 三人のメイドが出迎えてくれた。
 俺が困惑していると、オーナーがやって来て

「こちらの三人が今日マサキ様達のお世話をさせていただきます」
「コルアと申します。今日はサヤカ様のお世話をさせていただきます」
「マリーと申します。今日はサーシャ様のお世話をさせていただきます」
「リーンと申します。今日はマサキ様のお世話をさせていただきます」

 オーナーに促され三人のメイドが挨拶をする。
 コルアは畏まってはいるが活発そうな子だ。鞘華と相性もいいだろう。
 マリーはどことなく雰囲気がエリーに似ている。こちらも問題なさそうだ。
 問題は俺担当のリーンだ。年は俺より少し上だからか大人の雰囲気が出ている。何と言うか妖艶な大人っぽさだ。ここだけの話、俺はお姉さん属性なのである。ゲームでも真っ先に姉や年上のキャラから攻略していく。まさかオーナーは俺の好みを把握していたのか?

「サヤカ様、お荷物お持ちいたします」
「サーシャ様もお荷物お預かりします」

 コルアとマリーが早速二人の傍に佇み荷物を持っている。
 少し遅れてリーンが俺の所までやって来て

「今日はよろしくお願いしますね、マサキ様」
 
 そう言って俺からも荷物を受け取る。
 それらを見届けたオーナーが

「防犯の為夜はなるべく部屋から出ない様にお願いします。浴室は部屋に備え付けてありますので湯浴みはそちらでお願いします。お食事も部屋までお運びいたします。その他御用があれば彼女達にお申し付けください」
「ちょっと待ってくれ! 湯浴みは夫婦一緒じゃないとダメなんじゃないか?」
「問題ありません。ソオヘは中立国故、ソオヘに滞在中は一緒に入らなくても処罰はされません」
「ねー? 部屋から一歩も出れないの?」
「夕食を済ませましたら部屋の外には出れません。中立国ではありますがそれを快く思っていない輩も存在しますので防犯の為夜間は部屋でお過ごしください」
「それじゃあつまんなーい」
「それでしたらサヤカ様、私とおしゃべりしませんか? マサキ様との馴れ初め等お聞きしたいです」
「そんなに聞きたい?」
「はい! どうやってマサキ様のハートを射止めたのか気になります!」
「しょうがないわね~、あとでたっぷり聞かせてあげる」
「有難うございます!」

 見事だな。鞘華はもうコルアに乗せられてしまっている。
 サーシャはそんな事はないだろうと見てみると

「私が如何にしてマサキ様の物になったか話しましょう!」
「楽しみです! 一体どんな出会いだったのでしょう」
「焦らなくても時間はたっぷりありますから、あとでじっくり聞かせましょう」

 サーシャもマリーの掌の上だな。
 この二人は案外チョロイのだろうか?
 そんな事を考えている内に二人はメイドを引き連れて自室に向かっていた。
 俺が一人になるのを見計らってオーナーが耳打ちしてくる。

「これで今夜は思う存分羽が伸ばせます。リーンがマサキ様に付きっ切りでお世話しますので思う存分堪能してください。リーンはまだ生娘でございます」

 そんな事を言って俺から離れ、リーンに後は頼んだぞと言付け、奥へと消えていった。
 まさか防犯とか嘘で俺とリーンの邪魔にならない様に鞘華とサーシャを俺から引き離したのか?
 それに、リーンがき、生娘とか俺には関係ないし? 動揺なんてしてないし!

「やっと二人きりになれましたね、マサキ様」

 そう言ってリーンは俺の腕に絡みついてくる。
 身長は俺より少し低い位だから165位だろうか。赤茶の髪が腰まである。
 目はトロンとしていて目尻が少し下がっている。鼻はスッと高く、唇はぷっくりしていて、何だかツヤツヤしているように見える。胸は大きく鞘華と同じ位だろうか? 推定Dカップとみた! そして腰からお尻のラインが堪らない! 服の下を想像しただけで下半身に血が集まりそうだ。

「どうかなさいましたか?」

 俺がリーンを凝視していたので疑問に思って声を掛けてきたのだろう。
 しかし! その少し低い声が艶っぽい! 大人の女性を感じさせる。

「いや、リーンみたいな子が世話をしてくれるなんて幸せだなぁと思って」
「マサキ様はお上手ですね」
「本当だよ、リーンは美人だから緊張しちゃうな」
「ありがとうございます。私達も部屋に行きませんか?」
「ああ、そうだな。こんな所にいつまでも居る訳にもいかないし」
「それもそうですが、部屋に行かないとサービス出来ませんから」
   
 意味深な言葉を残してリーンは俺の腕を引き部屋へと歩き出した。
 部屋のドアの前で立ち止まり、俺がワードを言うとドアの鍵が開いた。
 オーナーは一人用しか空いていないと言っていたが、中々の広さだ。
 VIP専用の宿なので一人用でも豪華に作っているのかもしれない。
 部屋に入り俺は部屋の中央辺りにあるテーブルに腰掛けた。
 リーンは当然の様に俺の隣で待機モードで立っている。

「リーンも座っていいよ」
「よろしいのですか?」
「そこで立ってると話せないだろ?」
「ではお言葉に甘えて」

 そう言って俺の向かい側の席に座った。

「お腹すいたな。夕飯は部屋に運ぶって言ってたけどリーンが運んでくれるの?」
「いえ、別のメイドが運んできます」
「そうなのか。リーンは食事はどうするんだ?」
「お付きのメイドですので、今日は食事をせず、マサキ様のお世話をさせていただきます」
「何かしら食べないと辛いだろ?」
「もう慣れましたので」

 俺だけ食事をしてリーンだけ食べさせないなんてしたくないなぁ。
 
「オーナーに連絡取るにはどうすればいいんだ?」
「壁にある魔法石を押すとフロントに繋がりますので、魔法石に向かってお話していただければフロントの者がオーナーと代わると思います」

 魔法石か。電話のような役割なのだろう。
 俺はドア近くの壁にある魔法石を押した。
 魔法石が淡く光り出す。
 すると

「何か御用でしょうか?」

 魔法石から声が聞こえた。やはり電話の様な物に違いない。

「悪いんだけどオーナーに代わってもらえるかな?」
「かしこまりました。少々お待ち下さいませ」

 しばらく待つと聞きなれた男性の声が聞こえた。

「お待たせ致しました。いかがなされましたか?」
「リーンの事なんだけど……」
「彼女に何か不手際がありましたでしょうか?」

 食い気味にオーナーはリーンが何かしたんじゃないかと聞いてきた。

 「いえ、リーンは問題ありません。ただ、俺だけ食事してリーンには食事が無いのが俺の趣旨に反するので、リーンも俺と一緒に食事出来るようにしてください」
「左様でございますか。分かりました、リーンの食事も一緒に運ばせます」
「ありがとうございます」
「やはりマサキ様になら任せられそうです」
「どういう事ですか?」
「失礼いたしました。こちらの話でございます。お食事はもう運んでもよろしいでしょうか?」
「おねがいします」
「かしこまりました。それでは失礼致します」

 オーナーがそう言い終わった後、魔法石の光が消えて何も聞こえなくなった。
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