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第11話 プログラム解除

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 なんて清々しい朝なのだろう。
 これが大人の男の余裕というやつなのだろうか。
 隣を見ると、まだ鞘華は気持ちよさそうに眠っている。
 鞘華の頭を何度か撫でて、起こさない様に静かに部屋を出る。

「ふー、すっきりした」

 トイレで用を済ませ部屋へ戻る途中でサーシャに会った。

「おはようございます」
「おはよう、よく眠れたか?」
「……」
「どうした?」

 何か様子が変だ。
 怒っているような、悲しいような表情になっている。

「何かあったのか?」
「何もありません」
「ならどうしてそんな表情をしてるんだ?」
「何もなかったからです」

 頭の中がはてなマークで埋め尽くされる。

「どうして……」
「え?」
「どうして昨夜は私の部屋に来てくれなかったのですか?」

 どうやら俺がサーシャの部屋に行かなかった事に怒っているらしい。
 しかし、そんな約束をした覚えがない。

「忘れちゃってたら謝るけど、そんな約束したっけ?」
「約束はしていません」

 ほ。
 俺が約束を忘れた訳ではなくてよかった。

「それなら部屋に行かなくてもおかしくないだろ?」
「おかしいです!」

 少し興奮気味になっている。

「昨日はマサキ様に貰われて、妻になって初めての夜です!」

 あ、何となく分かった。

「妻との初夜をすっぽかすなんて信じられません!」

 最後の方は怒声に近かった。
 しかしサーシャがそんなことを思っていたとは。

「どうしたの? 朝っぱらから」

 サーシャの声で起きたであろう鞘華がシーツを身体に巻いて部屋から出てきた。
 このタイミングはマズイんじゃないか?

「おはようございます、サヤカ様」
「おはよう、さっきからサーシャの声が響いてたけどどうしたの?」
「いや、何でもないから鞘華は部屋に戻ってて」

 このままじゃマズイと判断し、鞘華を部屋に帰そうとするが

「サヤカ様、昨夜は何をされていましたか?」

 その問を受けた鞘華が俺の方を見る。
 何か言ったの? という感じだろう。
 俺は首をブンブンと横に振る。

「昨日は普通に寝ただけだけど、どうかしたの?」
「マサキ様が初夜をすっぽかしました」
「えっと、それは誰との?」
「私とのです」

 キッ! と鞘華が俺を睨みつけ、サーシャには笑顔で

「ちょっと正樹と話があるからかりてくわね~」

 鞘華に腕を掴まれ、引きずられる様に部屋に戻った。

「どういうことかしら?」

 笑顔で聞いてくる。
 いつもと変わらない笑顔が恐ろしく見えるのは気のせいだろうか。

「俺にも何がなんだかさっぱりなんだよ」

 俺は今日の出来事を一部始終を話した。
 その間、鞘華はスキルを使って嘘等付いていないか調べていた。
 俺が嘘を言っていない事が分かると今度は何やら考え始めた。

「サーシャがあんな事言うなんて俺もビックリしてるんだよ」

 俺の言葉を無視する様に考えている。
 しばらくして鞘華が口を開く。

「サーシャに悪気はないわ」
「そりゃそうだろ。悪気あってあんな事されたらたまったもんじゃない」
「そうじゃなくて、言い方がわるかったわね。サーシャはシナリオ通りに行動しているだけじゃないかしら?」
「どういう事だ?」
「サーシャはゲームの中のキャラでしかないから、ゲームのシナリオに沿って行動する様にプログラムされてるのかも。シナリオ通りなら昨夜は初夜を迎えるイベントが発生していたという事よ」

 なるほど。
 シナリオ通りに行動しなかったからヒロインであるサーシャに影響が出たという訳か。
 そう考えるとサーシャに自分の意思とかはあるのだろうか?
 プログラムされた通りに俺に従い行動する。
 それでは奴隷と変わらない。

「今、可哀想だなって思ったでしょ?」
「分かるか?」
「正樹はすぐ顔に出るからね」

 自分ではあまり表情に出さないタイプだと思っていたが勘違いだったのか。

「サーシャの事なんだけどね、何とかなるかもしれないわ」
「ホントか?」
「ええ、正樹のスキルを使うのよ」
「そうか! 昨日封印解除したから出来る可能性があるって事か」
「まぁ、その封印も一気に二つ解除しちゃったしね」
「え? キスで解除できるのは一つじゃなかったっけ?」
「それはそうなんだけど……」

 鞘華は赤面してモジモジしながら

「昨日、その、私とシたじゃない? あれが二つ目の解除条件なの」

 マジかよ。
 陽佳さん何でそんな条件にしたの?
 彼女が何を考えてるのか分からない。

「それじゃ、封印はほぼ解けてるのか」
「うん、ほぼ昔と変わらない力があると思う」
「でもまだ封印は残ってるんだよな?」
「三段階の封印うち二つ解除したからあと一つ残ってるわ」

 最後の解除方法を知るのが怖い。

「どうすれば解除できるんだ?」
「それは知らない。陽佳さんから聞かされたのは二つまでなのよ」
「そうか」
「ただ、最後の解除は正樹次第って言ってたわ」
「俺次第?」

 何だろう? 覚悟を決めろとかそういう事なのだろうか。
 しかし、鞘華の言う事が本当ならほぼ力が戻った事になる。

「鞘華」
「な~に?」
「俺の力で元の世界に戻れるか試してみる」
「そうね、早くこんな世界からおさらばして将嗣をこてんぱんにしないと」
「じゃあ、俺にしっかり捕まっていてくれ」
「わかった」

 そう言って鞘華は俺に抱き着く。
 そこまでしなくていいと言おうとしたが何だか幸せな気分になったのでそのままにした。
 現実世界に戻れるようにスキルを使う。

   ≪元の世界に転移する確率を100%に変更≫

 頭の中でそう念じた。
 これで元の世界へ転移出来るはずだ。
 俺達の頭上の空間が捻じれる様に歪む。
 そして歪みが捻じれの中心に向かって集束し

 パキィィィィィンッ!?

 捻じれた空間がガラスを割った様に砕けて散った。
 この感覚には覚えがある。将嗣にスキルを使った時と同じだ。
 どういう事だ? 俺の力はほぼ昔に近いはず。
 今なら億単位の事象にも干渉できるはずだ。
 将嗣はそれ以上だという事なのか?

「どうなったの?」

 鞘華が心配そうに聞いてくる。

「スキルは発動したが転移出来なかった」
「それってやっぱり将嗣の影響なの?」
「分からない。ただ、今のままだと元の世界には帰れそうもない」
「そっか……」

 将嗣の力が想像以上に強いのか、他に原因があるか分からないが元の世界に帰る道はまだ残っている。

「転移は出来なかったけど、ゲームをクリアすれば帰れるかもしれないだろ?」
「そうよね。それに、今の正樹の力がどこまでゲームに通用するか試してみないとね」

 鞘華の言う通り、今の俺がどこまでゲームに干渉出来るか知っておいて損はない。

「それじゃあ早速だけど試したい事があるんだ」
「なに?」
「サーシャをプログラムから解放させて自我を持たせたい」

 さっきの事もあるしな。

「そうね、これからゲームクリアまで一緒に居なきゃならないんだしプログラムで動いてるなんて嫌だわ」
「なら、早速試してみるか」

 そう結論付けて鞘華と一緒に部屋をでる。
 部屋を出ると部屋に入る前と変わらず扉の前に立っていた。

「お話はお済ですか?」

 その言葉は俺に言った物なのか鞘華に言った物なのかは分からないが俺が答える。

「待たせて悪いな」
「いいえ、問題ありません」
「試したい事があるからそこに立ってて貰えるか?」
「かしこまりました」

 プログラムを解除すると言ってもどの程度解除すればいいのだろう?
 最悪の場合、サーシャを攻略出来なくなってゲームクリア出来なくなる。
 プログラムでの強制行動を排除して自我を持たせてみるか。

 そう結論付けて俺はスキルを使った。
 今回はスキルがキャンセルされる感覚がなかったので成功しただろう。
 見た感じだと余り変化はみられないがプログラムの影響は無いはずだ。

「どうだ? 何か変わった感じはあるか?」
「はい」
「どう変わった?」
「マサキ様の子供が欲しいです!」
「は?」

 あれ? やっぱり失敗していたのかな。
 これじゃスキルを使う前と余り変わらない様な……。
 と、考えていると

「正樹~? これはどういう事かしら?」
「多分成功しなかったんだと思う」
「はぁ? 何言ってるの! 明らかに前と違うでしょ?」
「え? 何処が?」

 何やら不機嫌な鞘華が俺に詰め寄ろうとしたところでサーシャが俺と鞘華の間に割って入って来た。

「待ってください! マサキ様は何も悪くありません」

 以外な言動だった。
 今までも俺が鞘華に詰め寄られる場面は何度かあったが、サーシャは今までそれをただ傍観しているだけだった。
 それが今は俺達の間に割って入り、俺の弁護までしている。
 もしかしてスキルは成功していたのか?

「ちょっとどいてくれるかしら?」
「嫌です」
「正樹は私の夫なの。邪魔しないでくれる?」
「私だってマサキ様の妻です」
「でも第二婦人でしょ? 一番は私なんだから正樹を渡しなさい」
「確かに第二婦人ではありますが、愛に順番なんて関係ありません!」

 え? なにこの修羅場
 っていうかサーシャってこんな子だっけ?

「私はマサキ様を愛してるんです!例えサヤカ様でも譲れません」

 そう言って俺に抱き着いてきた。

「マサキ様、私は貴方が好きです。一生付いて行きます」

 そう言い、胸を押し付けながら潤んだ瞳で見つめてくる。
 こんな攻められ方をしたら男なんてイチコロだろう。
 俺以外ならな。

「ありがとう、サーシャ。でも俺は鞘華が好きなんだ」

 フラグをサバ折りする言葉だった。
 俺の言葉を聞いた鞘華は

「正樹っ!」

 と、瞳に涙を溜めながら呟いていた。
 サーシャも俺の言葉は聞こえたはずだが

「構いません、それでも私の気持ちは変わりませんので」

 あれ?

「元々一夫多妻制なのでマサキ様はそのままでいいと思います。私は私の気持ちを貫きます!」

 普通ならフラグバキバキのはずなんだけど、余計やる気になってしまっている。
 
 はっ!? 自我を持たせた事によって今まである程度抑えられていた感情が表に出てきてしまっているのでは?
 しかし、そこまでのフラグを立てた覚えが無いんだけどなぁ。
 俺が考え事している間も鞘華とサーシャは何やら言い合いしていたらしいが、俺がストップをかける。

「ちょっと待ってくれ!」
「何よ正樹」
「はい!」

 二人同時にこちらに向き直る。
 鞘華は不機嫌オーラ出まくってるし、サーシャは俺の言う事は聞いてくれているが……
 なんだこのプレッシャーは!

「サーシャに聞きたい事があるんだけど」
「なんですか?」
「なんでそこまで俺の事す、好きなんだ?」

 どうしてそこまで俺の事好きなの? なんて聞く日が来ようとは。

「マサキ様が奴隷から解放してくださったからです。それにその後も私を一人の人間と扱ってくれまた。今まで他人にここまで優しくされたのは初めてです。だから私は一生マサキ様に付き添おうと思いまた」

 サーシャの言葉をきいてある程度納得できる部分があった。
 このゲームのヒロインは皆奴隷である。
 攻略するには奴隷であるヒロインを買わなければならない。
 恐らくこのタイミングからフラグやイベントを経てラブラブになるのだろう。

 しかし、先ほど俺のスキルによってプログラムされていたフラグやイベントが一気に無くなった。
 そして自我を持たせた事で本来フラグ回収する事でしかラブラブになれなかったのが、最初の奴隷を 買った時のフラグ回収だけで済んでしまったのかもしれない。

「鞘華と少し話したいから少し待っててもらえるか?」
「ちょっとだけですよ?」

 渋々といった感じで応じてくれた。

「話って何よ?」

 未だに不機嫌オーラが出ている鞘華に俺の考えを伝えた。

「それが本当だとしたらプログラム解除しない方がよかったのかも」
「いや、プログラム解除しておいてよかったよ」
「そんなにラブラブになりたかったんだ?」
「違くて、解除しなければイベントやフラグ回収する事になってたんだから」
「別にいいじゃない、地道にイベントクリアすれば」
「これはエロゲーだ。エロゲーのイベントはエッチするって事なんだよ」
「えっ!?」
「それらをやらなくて済んだのはラッキーと捉えるべきなんじゃないか?」
「そ、それはそうだけど、私にマサキ様は譲らない! とか言ってきたのよ?」
「俺は鞘華が好きだとはっきり伝えたし、しばらく我慢してくれないか?」

 鞘華は黙って考え込んでしまった。
 しかし、鞘華にばかり我慢させるのは良くない。

「鞘華がどうしても嫌ならスキルで感情を無くす事もできるけど」
「それは駄目!」

 鞘華が強く否定した。

「感情を無くしたらただの人形みたいになっちゃうじゃない」
「でもこのままでいいのか?」
「ん~、考えたんだけど、私前に言ったじゃない? 今以上に私に惚れさせるって。だからどんなライバルでも私負けないわ。だからこのままでいいわよ」

 やっぱり鞘華は強くて優しい

「それじゃ、サーシャと仲直りだな」
「別にケンカしてた訳じゃないけどね」

 サーシャへの対応も決まり二人でサーシャに向き直る。

「待たせて悪い」
「いいえ、大丈夫です」
「鞘華から話があるみたいだから聞いてくれ」
「はい」

 そう言ってサーシャは鞘華の方を見る。
 鞘華は一歩前に出てサーシャと向かい合った。

「同じ男の人を好きになった同士仲良くやりましょ」

 サーシャはキョトンとしている。
 だが鞘華は尚も続ける。

「ただし、抜け駆けは無し! 正々堂々勝負よサーシャ!」

 鞘華の宣戦布告を受けたサーシャクスリと笑い

「わかりました。その勝負受けて立ちます」

 よかった、これで修羅場は回避できた。
 と、思った瞬間サーシャがとんでもない発現をした。

「ですが、昨夜はサヤカ様がマサキ様に抱かれたのですよね?」
「へぁ!?」

 驚きすぎて変な声を出す鞘華。

「な、何言ってるの? 私たちはまだそんな関係じゃ……」
「先ほど裸で出てきましたし、何より足取りが普段と違います。破瓜の痛みがまだ残っているのでは?」
「まだ痛いのか ?気づいてやれなくてごめん」
「正樹まで! もう誤魔化せないじゃない」
「あ、悪い」

 昨夜はやっぱり無理してたんだな。
 大丈夫だからって言葉を鵜呑みにし過ぎた。
 次からはもっと優しくしよう。

「バレてるみたいだから認めるわ。私は正樹に抱かれたの。正樹の意思でね」
「やはりそうでしたか。抱く抱かないはマサキ様が決める事なので文句はありませんが……」

 一端そこで言葉を区切り、俺の方を向く。

「私もいつか抱いてくださいね?」

満面の笑顔でプレッシャーをかけてきた。
こうして騒がしい朝が終わった。
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