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あの日以来、昶は姉の婚約者である柚月颯斗と連絡をとりあった。
直接会うことはなかったが、LINEやメール、電話でのやり取りはほぼ毎日だった。
富士見印刷の不景気は会長が社長であった時からのようで、色々と策を講じるが、全て不発に終わっていたようだ。
現社長より会長が社長だったときの方が景気が良く、仕事もそれなりに入っていた。だが、会長の傲慢さは社員に向けられ、依頼主がその場にいても関係なく怒鳴り、それを見た依頼主から他者へと伝わっていったそうだ。
自業自得だ。
会長はそのままフォローせず社長職を現社長へと明け渡すが、当然、それを見ていた社長が同じようになるのはあっという間。ただ、社長の奥様からのフォローがあって、なんとかなっていた。
そのフォローが、今日、崩れた。
昶が会社へ戻ると、社長室から二人の言い合いが聞こえてきた。扉が閉まっているため詳しい内容はわからないが、社長が外回りから帰ってきたすぐあとから続いているようだ。
「中野主任は知ってるんですか?」
「何を言い合ってるのは知らないが、まぁ…たぶんアレだな」
晶良が小さく指差した場所にあるのは、一枚の名刺。
夜の店の、名刺。
「まぁ……前から思うところがあったんだろ」
「そうでしょうね……」
深夜残業など当たり前、と言い放つ会長のフォローにまわるのは社長の奥様で、睡眠を削っていただろうことも簡単に想像できた。
「この間の話、彼らとどこまで進んでる?」
「今日の話をすれば、即、動くでしょうね」
「わかった。この様子じゃ仕事にならないだろ、今日は」
晶良は椅子から腰をあげて印刷室へと爪先をむける。
「近いうちに集合な。全員の予定を聞いておくから」
「いやいやいや! おれに詳しく聞かれても答えられないから!」
昶の放った言葉に彼は目を丸くして、そのあと、声をたてて笑い出した。
「おっ、おまえ……、ここ、会社だから……! あはははは!」
「…………!! す、スミマセン……」
笑いすぎて出てきた涙をぬぐった晶良は、印刷室へ行こうとした足をとめて、困惑顔のままの昶の頭に、宥めるようにぽんと手を乗せて。
「詳しい説明なんていらねぇよ。ただ、今後のことを確かめたいだけだ。俺は物申す気でいたからいいが、呑気に構えてる奴らもいるからな。そういう奴らにはフォローも必要だろ?」
「そうですね」
「構える必要はないけど、彼女のことは聞くからな?」
「それは困ります……」
いつもの昶の姿は消えて、動揺が隠せない彼の姿が珍しく、それでいて、そんな姿を好ましいと思っている晶良は、にやりと意地悪な顔をして。
「今のおまえがイイよ。いつもみたいに作った顔じゃない、昶がさ。おれたちはお前の味方だ。お前が何を背負い、何を守ろうとしているるのか、おれはわかってるつもりだ。だから、たくさん背負っているもののいくつかをおれに預けろよ」
そう言って、彼は昶の頭を再度叩いた。
直接会うことはなかったが、LINEやメール、電話でのやり取りはほぼ毎日だった。
富士見印刷の不景気は会長が社長であった時からのようで、色々と策を講じるが、全て不発に終わっていたようだ。
現社長より会長が社長だったときの方が景気が良く、仕事もそれなりに入っていた。だが、会長の傲慢さは社員に向けられ、依頼主がその場にいても関係なく怒鳴り、それを見た依頼主から他者へと伝わっていったそうだ。
自業自得だ。
会長はそのままフォローせず社長職を現社長へと明け渡すが、当然、それを見ていた社長が同じようになるのはあっという間。ただ、社長の奥様からのフォローがあって、なんとかなっていた。
そのフォローが、今日、崩れた。
昶が会社へ戻ると、社長室から二人の言い合いが聞こえてきた。扉が閉まっているため詳しい内容はわからないが、社長が外回りから帰ってきたすぐあとから続いているようだ。
「中野主任は知ってるんですか?」
「何を言い合ってるのは知らないが、まぁ…たぶんアレだな」
晶良が小さく指差した場所にあるのは、一枚の名刺。
夜の店の、名刺。
「まぁ……前から思うところがあったんだろ」
「そうでしょうね……」
深夜残業など当たり前、と言い放つ会長のフォローにまわるのは社長の奥様で、睡眠を削っていただろうことも簡単に想像できた。
「この間の話、彼らとどこまで進んでる?」
「今日の話をすれば、即、動くでしょうね」
「わかった。この様子じゃ仕事にならないだろ、今日は」
晶良は椅子から腰をあげて印刷室へと爪先をむける。
「近いうちに集合な。全員の予定を聞いておくから」
「いやいやいや! おれに詳しく聞かれても答えられないから!」
昶の放った言葉に彼は目を丸くして、そのあと、声をたてて笑い出した。
「おっ、おまえ……、ここ、会社だから……! あはははは!」
「…………!! す、スミマセン……」
笑いすぎて出てきた涙をぬぐった晶良は、印刷室へ行こうとした足をとめて、困惑顔のままの昶の頭に、宥めるようにぽんと手を乗せて。
「詳しい説明なんていらねぇよ。ただ、今後のことを確かめたいだけだ。俺は物申す気でいたからいいが、呑気に構えてる奴らもいるからな。そういう奴らにはフォローも必要だろ?」
「そうですね」
「構える必要はないけど、彼女のことは聞くからな?」
「それは困ります……」
いつもの昶の姿は消えて、動揺が隠せない彼の姿が珍しく、それでいて、そんな姿を好ましいと思っている晶良は、にやりと意地悪な顔をして。
「今のおまえがイイよ。いつもみたいに作った顔じゃない、昶がさ。おれたちはお前の味方だ。お前が何を背負い、何を守ろうとしているるのか、おれはわかってるつもりだ。だから、たくさん背負っているもののいくつかをおれに預けろよ」
そう言って、彼は昶の頭を再度叩いた。
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