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アパートから見える位置にコンビニがあり、この間はそこまで送ってもらった。
アパートを出てそのコンビニに近づくと、黒い車が一台あった。何とは無しに中をちらりと見たが人は乗っていない。
店の扉を開けて中に入り、ペットボトル飲料のある方へ移動すると、そこに一人の男性がいた。
「早かったね、槙原さん」
七分袖の黒いテーラードジャケット、サマーニットに白いパンツと革靴。腕時計は前に見たものと違い、ブラックをベースにスポーティなデザイン、アナログの文字盤。
発せられた言葉に驚き体をビクつかせた来実に、昶は「びっくりさせた?」と声をかけつつ彼女を見下ろした。
「槙原さんは何か飲む? それとも、途中でパーキングエリアに寄るから、そこでゆっくりする?」
パーキングエリアでゆっくりするには、昶の容姿は目立ちすぎる。その隣にいる来実にも視線が集まるに違いない。
「じゃあ、これにします」
甘みをおさえたミルクティーの小さなペットボトルを手に取ると、それを横から昶がさらっていく。
「あっ…!」
昶の後ろ姿を追いかけると、レジにいる彼の手元をみやる。すでに支払いはおえていたようで、電子マネーのカードを財布にしまっているところだった。
文句を言うほどの金額でもないし、と来実は少しふくれっ面をしつつも大人しく「ありがとうございます」と礼を言った。
それに彼はくくく、と可笑しそうに笑って、自然な仕草で彼女の手を取った。
「ほら、行くよ」
引っ張って行かれた先は、先ほどの黒い車だった。
「乗って」
「お邪魔します……」
先に乗った昶が先ほどと同じような仕草で笑った。
「お邪魔しますって……家じゃないんだから」
笑いに声が震えているのに気づいた来実は、更にむっとした顔をする。
「失礼だと思います……! もう! 笑いたかったらちゃんと笑ってください!」
「ぷっ……あはは!」
シートベルトをしながら笑う昶を見やってから、怒ったように来実は顔を背ける。それに昶が気づいて、彼女へ左手を伸ばす。
彼女の短い髪を撫で、その手で頬を撫でてから自分の方へと向かせた。
「いつもと違うね、全部」
「……嫌、ですか?」
「嫌なわけない。いつものきみは……他人には真面目すぎるように見えてたかもしれないけど」
言いながら、頬にあった指が彼女の耳を撫でた。
「耳も真っ赤だ。……おれは可愛いってずっと思ってたよ。ほんと、味見したいほどカワイイ」
「か、…かわいいって言いすぎです……!」
「それから、言うの忘れてたけど」
「無視ですか!?」
「おはよ」
にっこり笑って昶が言えば、「お、はようござい、ます」と途切れ途切れの声が聞こえる。
「これからしばらく走るから、シートベルトして。眠かったら寝ていいよ」
「寝ませんっ」
「でも、あれこれ考えてちゃんと眠れなかったんじゃない?」
「……っ! そっ、そんなことありませんっ」
図星だったがそれでも頷くことができなくて来実は強い口調で言うが、昶はそれすらも予測していたらしく、瞳を細めて笑った。
「今日ははじめてだから、そういうことにしておいてあげる」
嬉しそうに瞳を細めて笑ったまま、昶の指が来実の耳にあるピアスに触れて、すぐにはずれた。
「き、今日は意地悪です!」
「うん、そうだね」
「わかっててやってるんですね!?」
「そう、わかってやってる」
言いつつ、昶はエンジンをかけてサイドブレーキをはずす。そのまま少しずつアクセルを踏んで、コンビニ前の道路へ出た。
「はじめに言っておくけど、おれの外見に惑わされちゃダメだよ? おれが君にやることで嫌だと思ったらちゃんと言葉にして。嫌だって言われたことはやらない」
「わかりました」
こくり、と頷く来実をちらりと横目で見て、昶は満足そうに口元を緩めた。
アパートを出てそのコンビニに近づくと、黒い車が一台あった。何とは無しに中をちらりと見たが人は乗っていない。
店の扉を開けて中に入り、ペットボトル飲料のある方へ移動すると、そこに一人の男性がいた。
「早かったね、槙原さん」
七分袖の黒いテーラードジャケット、サマーニットに白いパンツと革靴。腕時計は前に見たものと違い、ブラックをベースにスポーティなデザイン、アナログの文字盤。
発せられた言葉に驚き体をビクつかせた来実に、昶は「びっくりさせた?」と声をかけつつ彼女を見下ろした。
「槙原さんは何か飲む? それとも、途中でパーキングエリアに寄るから、そこでゆっくりする?」
パーキングエリアでゆっくりするには、昶の容姿は目立ちすぎる。その隣にいる来実にも視線が集まるに違いない。
「じゃあ、これにします」
甘みをおさえたミルクティーの小さなペットボトルを手に取ると、それを横から昶がさらっていく。
「あっ…!」
昶の後ろ姿を追いかけると、レジにいる彼の手元をみやる。すでに支払いはおえていたようで、電子マネーのカードを財布にしまっているところだった。
文句を言うほどの金額でもないし、と来実は少しふくれっ面をしつつも大人しく「ありがとうございます」と礼を言った。
それに彼はくくく、と可笑しそうに笑って、自然な仕草で彼女の手を取った。
「ほら、行くよ」
引っ張って行かれた先は、先ほどの黒い車だった。
「乗って」
「お邪魔します……」
先に乗った昶が先ほどと同じような仕草で笑った。
「お邪魔しますって……家じゃないんだから」
笑いに声が震えているのに気づいた来実は、更にむっとした顔をする。
「失礼だと思います……! もう! 笑いたかったらちゃんと笑ってください!」
「ぷっ……あはは!」
シートベルトをしながら笑う昶を見やってから、怒ったように来実は顔を背ける。それに昶が気づいて、彼女へ左手を伸ばす。
彼女の短い髪を撫で、その手で頬を撫でてから自分の方へと向かせた。
「いつもと違うね、全部」
「……嫌、ですか?」
「嫌なわけない。いつものきみは……他人には真面目すぎるように見えてたかもしれないけど」
言いながら、頬にあった指が彼女の耳を撫でた。
「耳も真っ赤だ。……おれは可愛いってずっと思ってたよ。ほんと、味見したいほどカワイイ」
「か、…かわいいって言いすぎです……!」
「それから、言うの忘れてたけど」
「無視ですか!?」
「おはよ」
にっこり笑って昶が言えば、「お、はようござい、ます」と途切れ途切れの声が聞こえる。
「これからしばらく走るから、シートベルトして。眠かったら寝ていいよ」
「寝ませんっ」
「でも、あれこれ考えてちゃんと眠れなかったんじゃない?」
「……っ! そっ、そんなことありませんっ」
図星だったがそれでも頷くことができなくて来実は強い口調で言うが、昶はそれすらも予測していたらしく、瞳を細めて笑った。
「今日ははじめてだから、そういうことにしておいてあげる」
嬉しそうに瞳を細めて笑ったまま、昶の指が来実の耳にあるピアスに触れて、すぐにはずれた。
「き、今日は意地悪です!」
「うん、そうだね」
「わかっててやってるんですね!?」
「そう、わかってやってる」
言いつつ、昶はエンジンをかけてサイドブレーキをはずす。そのまま少しずつアクセルを踏んで、コンビニ前の道路へ出た。
「はじめに言っておくけど、おれの外見に惑わされちゃダメだよ? おれが君にやることで嫌だと思ったらちゃんと言葉にして。嫌だって言われたことはやらない」
「わかりました」
こくり、と頷く来実をちらりと横目で見て、昶は満足そうに口元を緩めた。
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