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#04旋律『無題』未完成曲
しおりを挟む二階からピアノの音が聞こえる。いつの間にか、うとうとしてしまったようだ。
レムは寝転がっていたソファから起き上がると、床に跳び下り大きく伸びをした。一階の広間を出て螺旋階段を上り寝室へと向かう。途中、棚の一つを寝床にしてイビキをかきながら眠っているリベルを横目に、トントンと軽快に駆け上がっていく。二階の廊下に出ると向かって左の扉が少しだけ開いていて中から音が漏れている。
扉の隙間から覗くと、窓際のグランドピアノの椅子に腰掛け、鍵盤に向かう主の姿があった。開け放たれた窓から柔らかな風が吹き込み、カーテンを揺らしながら寝室を通り抜けていく。爽やで優々と鍵盤を弾くその横顔は、とても穏やかでリラックスしているように見える。周辺の空気までも朗らかに感じさせていた。
彼が奏でる音楽は、どれも正確で洗練され無駄が無く、それでいて表現の豊かさがある。一つ一つの音を丁寧に掬い上げていくような、心地の良い美しい旋律は、彼の誠実さがそのまま表れているようだ。音色によって作り出される世界観に引き込まれ、聴き入っている内に癒され、感動で心満たされる。もちろん、彼が奏でるどの曲も好きだが、今弾いている曲はレムにとって特別だった。
その曲に、題名はない。彼が作曲している未完成曲だからだ。
オリジナル曲ならではの自由さ、時には気分や即興でメロディーやリズムも変化する。まるで、彼の今の心中を聴いているような気分になれるのが嬉しいのだ。
また少し、作曲が進んだようだ。
「やぁ、レム。おはよう」
「にゃ~」
こちらの気配に気付いた主は演奏を中断し、優しい笑みで迎えてくれた。レムはグランドピアノの横にある一人掛けのソファに跳び乗ると、その場で寛いでまた彼の演奏に聴き入った。
いつかこの曲が完成し、最後まで通して演奏される日を、レムは心待ちにしている。
#04旋律『無題』未完成曲 「完」
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