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第2章

第123話 ダンジョン都市ドルトミア2

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第19ダンジョンの6層手前から入り口まで一気に戻る。屋台で地図はもらったが、5層までの宝箱があるところはほとんど取り尽くされており、領域(テリトリー)を使って周囲を確認しても地図に掲載されていない隠し部屋などもすべて踏破されている状況だった。

ダンジョンから出ると夕方だった。

「どうだった」

並んで防災壁の出口に向かって歩きながら俺はルーミエに尋ねた。

「本当に以前の私とは比べものにならないくらいに強くなっているわ。ここまで動ける冒険者を見たことがないわ」
急激に力やスピードが身につき少し戸惑っているようだ。

「ルーミエの剣術あの独特な動きは踊っているみたいできれいだね、それに無駄がない」

「ありがとう。いつだったかお父様に聞いたらね、3歳の時にはおもちゃの剣を握ってお兄様の訓練について行こうとして、止められてひとしきり泣いた後には1人で素振りを始めてたって、おっしゃっていたわ。そんな記憶全然ないんだけどね」

「それだけ好きだったら、上達するよね。実際どのくらい修めていたの?」

「そっか、こんな話いつもはしないもんね。エソルタ流剣技には幾つかの流派があるの。ソード&シールド、ダブルソード、ロングソード、スピア。国に仕える兵士は全部を習得していくのだけれど、私はロングソード、レイピアは重たかったから、基本的なソード&シールドから入門して、次に大好きなダブルソードを習得して、それはマスタークラスまでいったのよ。…うふふ、あははは。いろいろと忘れていたことを思い出しちゃった」

「どんなこと?」

「聞きたい?」
何故だかどや顔のルーミエさん。

「うん」

「初めのうちは大好きな剣術が学べるだけでよかったのだけれど、そのうち剣術が上手な人に魅力を感じるようになってね。ダブルソードを訓練している、とある男性が好きになっていたわ。視線の先にはいつも彼がいるようになってね。それを女性兵士に見透かされていたのね。私がまだ12歳で彼は20歳くらいだったかしら、世話を焼いてもらい、お話とかする時もあってその時は本当に舞い上がっちゃってたのだけれど、お兄様がね何かと間に入ってきて邪魔するようになったのよ。あれは焼き餅だったんだなって、今わかったの。おかしいでしょ?」

なるほど、嫁の初恋話は嫉妬してしまう。

「あら?アキトも焼き餅を焼いてくれるのかしら?ふふふ…」

ルーミエが笑顔で腕を絡めてくる。気がつけばもう宿の前だった。



受付で鍵を受け取り、最上階のレストランでディナーの予約をする。コースの内容は今決めるようで、ルーミエにお任せした。ドレスコードが必要で以前参加した仮面舞踏会でのスーツを使うことに決めた。

部屋に帰り、一緒にお風呂に入る。髪からつま先までお互いを洗いあってから湯船につかった。

「返り血を全く浴びないなんて、我ながら恐ろしいわね…。以前だったら返り血やほこりまみれでこんな高級宿は玄関で追い返されてたわ。
自分で言うのもおかしいけれど反則的に強すぎる…。でもアキトはそれ以上に強いし、私の理解できない力を持っているのよね…。アキトが善良な人で本当によかったわ」

「善良かどうかはわからないけれど、どうして?」

「だって、この世界を手に入れようとしたら、一国なんてすぐに手に入れられちゃうでしょ?」

「そうだな~。魔人はこの世界の地脈の力を欲しがっていたから侵攻してきた。俺はこの世界にきて、純粋に世界を楽しみたいって思った。そうなると当然、人々を制圧したり、脅したりしてたらできないよね。あと力を見せつけて、特別な存在になってしまうと自由がなくなるし…」

「あ、自由がなくなる感じはわかるかも…」

「俺の前に生きていた世界とは全く理(ことわり)が違っていてね。ほんの些細なことでもいいんだ。そこで生活する人たちと一緒に生きて、毎日をドキドキしたいんだ」

「ふふふ、このお風呂もドキドキしてくれてるのかな?」

「もちろんだよ」
しばらく見つめあったあと、長いキスを交わした。



正装に着替えて、腕を組んで最上階のレストランに向かう。さすがは元王女だ。気品あふれる容姿に宿の従業員や他の男性客は振り返る。

窓際に予約席があり、席に着くと他にも高い建物はあったが数は少なく、地平の彼方まで広がる夜景がとても綺麗だ。

料理が運ばれてくる中、昨日のレイラのプロポーズ話に引き続き、カラルのことを聞いてきた。

「カラルか~。出会いは結構強烈だったな~」

「みんなでね、アキトは優しいからダンジョンとかで女の子と助けて、いい感じになってるんじゃないかって話をしていたのよ。そしたら案の定カラルと宿の前まで帰ってきたのよね」

「ああ、あの時ね。魔人と対峙する時くらいに緊張したなぁ」

「実際あの前の晩は何があったの?」

「カラルにも聞いてもらっていいけど、カラルの潜んでいた部屋を見つけてダンジョンについて聞き出した。カラルの人形の話はしたっけ?」

「ええ、人形の足の指をはさみで切ったらカラルの足の小指が切れて落ちたのよね」

「あれを差し出してきたから、少し信用して、お茶しながら話をして、そのあと手料理もふるまってもらったかな。その時はやましいことは一切していないよ。レイラとノイリの王の謁見が終わって、カラルを迎えに行ったときに対戦したんだ」

「対戦したことは聞いたけれど、どうだったの?」

「エグかったよ、カラルは宝具ってのを持っていてね、姿を映したものを切り取ってしまう鏡を出してきて、体の3分の1くらい切り取られた」

「わあ、痛そう…」

「俺の場合は継続治癒魔法で助かったけれど、並の人間なら神殿送りだね…」

「そこから助かるアキトもアキトね…」

「その後、番(つが)い契りを交わしたんだ。魅力的な女性だったし、人外の力は俺も興味があったからね。昨日海の上で箱魔法を展開したでしょ、あんな感じだったよ。エソルタ島を解決した後で、分かったけれどカラルも強い奴と契約する必要があったんだよ」

「封印解除の話ね」

「カラルもかつての力を取り戻したいってずっと思ってたみたいだからね。それでも俺は利用されたなんて思っていないよ」

「あら随分と寛大じゃない」

「それだけの愛情と恩恵はもらっているんだ。カラル無しにはエソルタ島復興の計画はなかったかも…」



夜はまだまだ長いが、レストランでの食事を早めに切り上げて部屋に戻った。そして明日のことを伝える。

「日の出と同時に出発しようと思う。それと武器の話なんだけど、周りの様子に合わせて武器を変えよう」

「目立たないようにするためね、わかったわ」

明日に備えて早々に眠れるわけもなく、ちょっとだけいちゃいちゃしました。



翌朝、まだ暗いうちからトントントンと包丁で何かを切っている音で目を覚ます。ルーミエが調理をしていた。
「どうしたの、ルーミエ?」
エプロン姿のルーミエが振り返る。

「朝ご飯作っているのよ、どう?新婚生活ぽいでしょ?」

「……」

幸せすぎて言葉にならない。目玉焼きとサラダとパンで簡単なものだったが気持ちが嬉しかった。



朝ご飯の支度も手際よくしてくれたおかげで、日の出とともに出発することができた。ここから第4ダンジョンまで歩けば2時間くらいだろう。前日に宿で手配していた馬車で移動する。

早朝の町の中を馬車に揺られ、ルーミエと戦闘時の打ち合わせを行いながら目的地を目指す。

現地に到着し、防災壁を見上げると昨日のダンジョンの防災壁より高く、そして古い。ツタがびっしり生えていて貫禄あるな…。

入り口で記録石(キロクセキ)を係の人に見せる。事務の男性に

「今日は見学か?それとも参戦か?」

と聞かれたので

「近くで見学しながら、できそうなら参戦するよ」

「わかった。危険を感じたら我が社の者を探して案内に従ってくれ、このエンブレムが目印だ」

と、見せてくれたネネコーラン社のピンク色のエンブレムには、熊なのか猫なのか分からない動物とかっこいいロゴが入っている。

開口式は見学だけでなく一般からの参戦も受け入れているようで、ドロップに関しても今回は会社(カンパニー)に報告だけでいいようだ。さらには報奨金も用意されていて、カンパニーの主催のため比較的安全にモンスターと対峙できるのもこのイベントの魅力のようだ。

回廊を抜けると、ダンジョン入り口の建物だけで昨日見たところのような屋台は一切並んでおらず、冒険者が200~300人ほどいるようだ。なんだか7割方の女性冒険者なのは気のせいなのか?

防災壁の上にも見学者と会社関係のアーチャーや魔法使いが待機しているようだ。

開始までまだ時間はあるので観察とシミュレーションをしてみる。

ダンジョンの入り口を脇に控えている浮遊魔法使いが、順番に分厚い金属の扉を開けていく。

開けた時にどんなモンスターが飛び出すのかは誰も知らない。もしかしたら全くいないという可能性もある。
そして”鋼鉄”の第4ダンジョンと言われているらしく、鋼鉄のように堅いモンスターがゴロゴロいるそうだ。

堅い敵が多いということで、周りを見渡すとネネコーラン社の冒険者たちは主にオリハルコン製の武器や防具に身を包んでいる。アダマンタイト製もちらほらいて、ミスリル製を持つものは2、3人だった。

オリハルコンの武器と防具を出すようにルーミエに伝える。

準備をしていると遠くから
「キャー」という黄色い声とどよめきが聞こえた。

どうやらネネコーラン社の主力メンバーが出てきたようだ。

おやおや、なかなかいいじゃないかと思ったところにルーミエの肘が俺の脇腹をつついた。
見ると怒っているようだった。

「いやいやいや、誤解だよ、知らなかったんだ、たまたまだよ」

どれだけ言葉を並べてても、嘘っぽい。言い訳にしかならない…。そう思って俺はルーミエを抱き寄せた。

「本当だよ、信じて」

ルーミエも落ち着き

「…わかったわ、ごめんねアキト」

といって反省していた。
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