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第1章

第百七話 カラル その二

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 少年はさらに進み扉を開けるとまた体育館だった。光の届かない暗がりから今度は魔人が出てきた。分析能力でみるとレベルは3000オーバーの魔法使いと騎士だ。

 魔人の魔法使いは一度だけ倒したことがあるが、騎士は対戦したことがない。ドラゴンと比べると随分と難易度が上がっているが、問題ない。

 前を歩いていた少年が俺の方に向き直す

「また対決することになるけど、あいつらとっても強いよ。……君、倒せる?」

「ああ、やってみよう」

 合図とともにクロックアップ発動。続いて極私的絶対王国(マイキングダム)で束縛と詠唱禁止を命じる。

 アイテムボックスから妖刀ロウブレンを取り出しながら、高速クロックアップ世界特有の重たい空気をかき分けて進む。騎士の魔人から縦横の十文字に切った後、魔法使いの首を跳ねた。

 クロックアップ解除。

 少年には一瞬で魔人二体が肉片と化し、血の海が広がったように見えただろう。

「は?……今何をしたんだ?魔法は使わないのか?………お前は剣士なのか?」

 少年は明らかに混乱している。

「なんだ殺しちゃいけなかったのか?」

「構わないがそれにしても早すぎるだろう」

「魔人相手に手加減するとこちらが危ないからな、全力で倒した」

「……そうなのか、いや~驚いたよ」

 そうしてまた少年は次の扉に向かって歩き出す。

 応接室——家の主カラルの父親が客人を前に顔を真っ赤にして叫んだ。

「息子と娘を差し出せだと!」

「はい。しかし選定でありますので、決定ではありません」

「力が強いものが選定に残るのであれば儂にとっては同じことだ!」

「我らの種族の中からたった十三人の優秀な若者を捧げることでこの世界は救われる——」

「うちの二人が選ばてしまうことは目に見えているぞ!」

「全ては安泰のためだと陛下はおっしゃっています」

「相手はあの竜魔族だ、そんな約束が守られるとでも思っているのか?なぜ、戦う前から逃げるのか!」

「それは陛下がお決めになることです。選定の日に必ずお連れください」

 頭を抱えるカラルの父の横を通り抜けて、少年はさらに先に進む。

 薄暗い部屋の中、成人のカラルはブラウスのボタンをはずそうとしている。そして向かいにいるのが兄であるアールマーだ。

「お前!兄妹(きょうだい)でなにをやっているん——」

「静かに!」

 騒ぐ俺を手短にいさめ、その場面に見入っている。

 アールマーの腕がカラルの胸の真ん中に吸い込まれていく。……なにやら謎めいた儀式が執り行われているようだ。光り輝くカラルの体。黒い髪の毛は今の金色に変化し、カラルはぐったりとしてその場に倒れた。アールマーが抱きかかえてベッドの上に運んだ。

 儀式が終わりアールマーが気を失っているカラルにつぶやく。

「カラル……これで君が選ばれることは無くなったから、安心して幸せになるんだよ。……これは僕からのプレゼントだ」

 アールマーから発した光の玉がカラルに取り込まれていく。

 少年はまた次の扉を押し開いた。

「さあ、これが最後だよ、この記憶の中での僕が知る最強の存在だ」

 奥から赤く大きな翼を背中に持った男が出てきた。翼は竜の鱗でできているようだが、体はさほど大きくなく、レベルが違い過ぎているのか、分析能力では何もみることができない。

「こいつは竜魔族、強さはさっきの魔人以上だ。僕が倒せない相手だったから想像で強さを設定しているよ」

「想像で設定するって……器用なことができるんだな、お前は」

「カラルほどではないけど、これでも数代に一度の逸材と言われていたんだ。さあどうする?ここで引くかい?」

「引かない。戦うよ」

「わかった。それじゃあ……はじめ!」

 先ほどの魔人と同じくクロックアップと極私的絶対王国(マイキングダム)を発動、束縛を命じる。大量にMPを消費するが束縛するのが手っ取り早い。

 一瞬束縛ができたように思えたが、次の瞬間に「ふんっ!」と、気合いを入れただけで極私的絶対王国(マイキングダム)が壊れた。

 そして竜魔族の男は高速クロックアップ中の俺が反応するのが難しいくらいの高速で動き、こちらに向かってくる。

 妖刀ロウブレンで相手の剣ごとぶった切るつもりで迎え撃つが、弾かれてしまう。力も互角かそれ以上だ。

 剣を交えながら圧縮火炎球(マグマボール)を展開して、相手に向けて飛ばすも、全て剣ではじかれてしまった。いつもの必勝パターンが通じない。

 最近これまでの戦いで得たボーナスポイントの割り振りや、能力の確認を怠っていた。命に関わるこのような事態に備えて常日頃から準備をしておかなければいけないな。と、調子に乗ってことを反省した。

◇ ◇ ◇
Lv3206 HP32060/MP32060
強さ:4160、守り:4000 器用さ:5100 賢さ:5200 魔法耐性:4100 魔法威力:4000 ボーナス:5500
◇ ◇ ◇

 短い時間の中、どのステータスに振るかを考える。

 "守り"、"魔法耐性"は防御を強化することになる、今は攻めなければならないので除外だ。"強さ"、"魔法威力"は攻撃力を増やすことができるが、力に対して力で対抗しても、ねじ伏せることができるかどうか分からない。

 "器用さ"は、魔法発動やコントロールの早さで今の状況ではあまり役に立ちそうにない。そうなると"賢さ"か……。クロックアップへの恩恵も大きいのでリスクも少ないだろう。

 よし!"賢さ"にボーナス分に全振りにしてみよう。ダメならまた何か策を考えればいいだけだ。

◇ ◇ ◇
Lv3206 HP32060/MP32060
強さ:4160 守り:4000 器用さ:5100 賢さ:10700 魔法耐性:4100 魔法威力:4000 ボーナス:0
◇ ◇ ◇

 分析能力でみると今度は情報が確認できた。

◇ ◇ ◇
Lv6905 HP20702/MP1239
強さ:50300 守り:39949 賢さ:3029 魔法耐性:650 ボーナス:0
◇ ◇ ◇

ん!?

 項目は少ないけれどステータスが見えるぞ。”強さ”の数値がかなり高い……。それにあの隣の△▽マークはまさか……相手のステータスが変更できるのか!?

 悩んでいる暇はない。竜魔族の”強さ”と”守り”を0にすることを念じると、すべてボーナスに数値が移動した。

 ステータスを振り終わった後、竜魔族の剣を迎え撃つと簡単にはじくことができた。相手の動きも遅くなったのでクロックアップ解除する。

「おい、あいつはもう終わりだ」

 少年に伝える。

「まだ、生きているじゃないか?」

 少年は竜魔族にやりあうだけの力が残っていないことを理解できていない。

「あの強さの生き物は本当にいるのか?」

「この戦いが終わったら答えてあげるよ」

「そうか……」

 圧縮火炎球(マグマボール)を一個展開して、焼き尽くした。

「え?そんな簡単に倒せる奴じゃないだろう?」

「だから”終わった”って言ったのに……」

「お前、すげーのな……」

「これで終わりなのか?」

「……ああ、そうだ。封印解除おめでとう」

「封印解除……」

「そうだ、僕がカラルの力を封じたんだ。それでもこんなに簡単に解除されるとは思ってなかったよ。死んでしまうか、満身創痍でクリアするくらいに思っていたんだけど……カラルは本当にいい相手に巡り合えたようだね」

 あれだけの相手を出されると大抵の奴らは、途中で降りただろう……。

「最後の相手は竜魔族の中堅くらいの強さになるかな。羽の色が赤色だっただろう?あいつらの強さは見た目に分かりやすい。色が濃ければ濃いほど強いっていうことになる。黒に近いほど強い。その点は俺たち業魔(ごうま)族の髪の色と同じだな」

「業魔族?カラルは悪魔族じゃなかったのか?」

「初めて聞く言葉かい?君たちから見れば悪魔も業魔もおなじようなものだろうが、できることが違うんだよ」

「いろんな種族がいるんだな……」

「そうさ、世界は広い」

「もし、途中で降りていたらどうなっていたんだ?」

「カラルは本来の力を取り戻すことなく、生きていくだけだ。それについては本人がどう思っていたかだけど……。最も信頼して、大切に思っている君をこうして送り込んできたってことは、やっぱり解除したいって思っていたんじゃないのかな?」

 俺は手段でしかなかったのか?……いや、信じてほしいて言っていたな、こういうことか。

「聞きたいことはいっぱいあるだろうがそろそろお別れだ。最後に……選定された日からあとの話はカラルから聞いてほしい。……もし僕が生きていれば、会って酒でも酌みかわしたいところだが、今の僕の生死はわからない。それじゃあ、カラルをよろしく頼むよ」

 微笑むアールマーの姿が消え、目の前が闇に覆われた。
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