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第1章

第二十四話 変化

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 カムラドネ三日目の朝。目が覚めると嫁が腕の中にいる。

 彼女はとても幸せそうな寝顔で、見ているこっちも幸せな気分になる。銀髪がさらさらできれいだなー、かわいい。ずっと見ていても飽きない……。

 トントン……。

ドアがノックされ、ベッドから出て服を来て開けるとノイリが立っていた。

「おはようございます。アキトさん、師匠おられませんか?」

 レイラが目をこすり答えた。

「……ノイリ、ここにいるよ。何かあったの?」

「はい、ちょっとご相談したいことがあるのですが——」

「すぐ行くから応接室で待っていて」

「わかりました。お待ちしています」

 何やら深刻な事態のようだ。

「ノイリどうしたのかな?」

「わからないわ、ちょっと怯えてているようだけど……」

 レイラはそういいながら身支度を整えた。

「じゃあ、アキトまたあとでね」と、軽くキスをしレイラを見送る。そして昨晩の余韻に浸りながら、のそのそと服を着替える。

 顔を洗い、食堂に行くとユウキがいた。

「おはよう、ユウキ。ノイリどうかしたの?」

「おはよう、アキト。何だかうなされているていたようなんだけれど……」

「そうか、悪い夢でも見たのかな?」

「かもしれないね」

 食堂で待っているとメイドさんたちが朝食の支度を始めた。人数分の朝食が準備された後にレイラが入ってきた。

「爺や、ちょっとはずしてほしいんだけど。いいかな?」

「かしこまりました」

 俺、ルーミエ、ユウキ、レイラを残し執事とメイドさんはその場をはずした。

「朝食前にごめんね、どうしても聞いてほしいことがあるの」

「ノイリがどうかしたのか?」

「遠夜見(とおよみ)の巫女の力がノイリに移譲されたのかもしれない……。厄災のイメージが彼女に浮かんで、私には浮かんでこなかった」

「でもレイラは生きてるぞ」

「そうなの。どういうことが起きているのか、調べないと……あっ!」

 何か分かったのか……。昨日と今日とで違う事って、あ、もしかしてアレだ。巫女が経験しちゃったから、能力が移譲したんだ、きっと。

 レイラもどうやら同じ結論に至っているようで、頬がピンクになっている。

 遠夜見の予言は、絶対ということだったな。普段の厄災の予言は発生することは確定で、武力によって救えるかもしれないし、救えない場合もある。

 ノイリが次代の遠夜見の巫女として選ばれたことが始まりで、三年以内に巫女の座はノイリに移譲する事は確定でそれと同義でレイラが死んでしまうものとみんな思い込んでいた。

 巫女の力が移譲する条件が、死亡以外に経験するという条件もあったんだ。巫女は神聖なものだからな。

 先代は享年九十歳だったな、未経験のまま生涯を終えたのか。それはそれですごいものがあるな。

レイラが「とりあえず、朝食いただこうか…みんなを呼んでくるわ」と、部屋を後にした。

 俺以外の二人は狐につままれたような表情だった。



 朝食を終えて、俺とレイラはノイリのいるレイラの書斎に向かった。

「ノイリ、落ち着いて聞いてね。明け方見たイメージはおそらく遠夜見(とおよみ)の力で見えた神託だよ。どうしてノイリに能力が移ったのかは、おおよそ見当がついているの」

「どういった理由なんでしょうか?」

「んー、少し言いにくいのだけれど……。私とアキトはその婚約したでしょう。だからその——」

「えっ!?……あっ!もう?」

「そうなんだ。いろいろとね、あってね、怒ってる?」

「いいえ、ご結婚されているのであれば、当然のことと思います。それより今の私の使命は遠夜見(とおよみ)の巫女としての使命を果たすことだと思います」

「そうだね、アキトにも神託内容を見せてほしい」

「はい」

 そういうと、ノイリはアイテムボックスから日記帳のような分厚い本を取り出し、しおりを挟んでいるページを開けて見せてくれた。

”満月の夜、要塞都市ナリヤ。魔界からの大量のモンスター召喚が行われ、建物は破壊されている。女性は辱められ、男や子供は全て殺される”

「お告げは聞こえませんでしたが、イメージが浮かんできましたのでそれを端的に書きましたが、まさに地獄でした」と、ノイリが付け加えた。

 場所の特定は広場の時計台に街の名前が書いてあったのが決め手となったそうだ

「満月の夜までどのくらいあるんだ?」

「五日しかありませんが、次の満月であるということはまだ確定ではありません」

「日数がわかるものは満月しかなかったの?」

「申し訳ありません、時間を特定できる情報を読み取るにはそれくらいしか見えませんでした……」

「謝ることではないよ。そこまで見えているのであれば十分だ、まだ日はあるし、近いうちにまたイメージは浮かぶだろう。見えた建物の方角を教えてほしい。ナリヤを統治している貴族議会に伝えれば、今日にでも日付を掲げてくれるはずだ」

 そんなこともアリなのか……。日付を毎日建物に掲げて更新していけば、神託のイメージに伝わり、正確な日付がわかるということだな。

 城塞都市ナリヤは人口は二十万人を超える大都市で住人の避難は難しい。エスタやカムラドネもそうだが、この世界は人口が多い気がする。一つの街に最低五万人くらいは住んでるんじゃないのかな?

 ナリヤから近隣の都市へ救助要請を出し、防御態勢を整える。もちろんスデン王国軍も派兵される。

「ここからナリヤまでの距離はどのくらいあるんだ?」

「西へ馬車でおよそ四十日の距離です」

 馬車の速度は時速五キロくらいとして、一日あたり七時間走行で三十五キロの移動。それが四十日間であれば距離は約千四百キロか。時速百キロは出せる箱魔法であれば一日か二日で到着は可能だな。

「アキト、どうするの?」

 レイラが思案している俺の顔を覗き込むように聞いてきた。

「困っている人がいれば助ける。救えるものはすべて救う。それが、俺の方針だ」

「距離も遠いし無理しなくてもいいんだよ。それに私はここに残ってノイリのサポートと巫女の役目を引き継いだことを各国へ連絡しなきゃならないの」

 俺とは別行動になるわけだ。危険な戦場にわざわざ嫁を連れていくことはない。

「黙ってみてられないよ……行かせてほしい」

「わかったわ。出発はいつにする?」

「今日一日は準備して明日の朝には出発しよう」

 身支度することはほとんどないが、自分の能力を把握する必要はある。細かいことは夜に打合せすることになり、行動に移った。
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