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第2章

第百七十七話 ダンジョン生成

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 翌朝、遅い朝食を終え、散歩ついでにカラルを連れてカムラドネの街の様子を実際に見て回る。

 人の往来が減っているかな……。ギルトにも顔を出してカウンターの女の子に声をかける。悪魔の塔があった頃は上層階の窓からモンスターがあふれ、街を空襲したり、地上にいるモンスターを刺激したり、街に向かわせるようなこともあったが、今はそういったことは、ほとんどなくなり、安全になったというのが理由で警備の規模はこれからどんどん縮小されていくようだ。

 悪魔の塔があった跡地にも足を運ぶ。大きく開いたたて穴は特に埋め立てはされておらず、柵だけが設置されてあり、二百メートルほど下に延びている。

「アキト様、ずいぶんと悩まれているわね?」

「初めてのことだから、どう考えたらいいのかわからなくていろいろ見て回っていたんだよ」

「ダンジョンの運営なんてそんなに難しいものではないわ……でもわらわがそんなアキト様の初めてを優しく手取り足取り、お伝えしましょう」

 カラルは嬉しそうにダンジョン作成のコツを穴の周囲を歩きながら語り始める。

「双子の悪魔の塔の噂は遠くまで広がっていたの。その点に関しては双子の悪魔が巫女の命をねらっているというストーリーを作った情報戦略の良さを褒めるべきね。噂を聞いて多くの冒険者たちが集まってみるみる大きくなったというのが、最大の特徴よ」

 当時の遠夜見(とおよみ)の巫女の命を奪い、その未来を見通せるという能力を得るために、どちらが早く塔を地上と地下の百層に到達するか勝負をした。初めは地上、地下五階層くらいしかなかったが、豪華なドロップアイテムや宝箱目当てに、また巫女を救う名誉のために冒険者はこぞってダンジョンに挑戦し、得た宝物を自慢する冒険者をみた他の冒険者がまた塔に挑戦する。一回死ぬごとに、ある一定の精気を吸い取り、塔が少しずつ大きくなる。

 巫女の命がかかっているので、事態を重くとらえていた周辺諸国は、討伐隊を結成しダンジョン踏破をめざしたが、集められた精鋭たちでも歯が立たず逆効果となって塔は成長し続けた……。あれから一年も経っていないがかなり昔のように感じるな。

 カラルはいつの間にかかけている伊達メガネをくいっと上げる。

「――それと大切なことは、付近のダンジョン事情を調査は欠かせないわ。街の周辺には東と北に向かって馬車で半日移動したところに二つ、更に北に一日のところにある山の麓に三つ存在してたけど、街からの遠すぎるのが難点ね」

「そんなことまで調べたのか流石だな」

「いいえ、それほどでも……これらの五つのダンジョンについては、悪魔族が作ったものが四つで、一つはダンジョンマスターは不在と判断しました。ぶっちゃけダンジョンマスターがいようといまいと関係はなく、四つのダンジョンマスターをサクッと倒して、今は支配球で管理させているの」

「いつの間に?俺と出会ったときなんかはダンジョンマスターを探し出すのも大変だって言っていたのに……」

「あの頃と今のわらわとでは、持っている力や能力が桁違いなので今では造作もないこと。それより、ここまでの情報を聞いてアキト様はどのようにお考えになりますか?」

 別にダンジョンマスターとしての道を歩んでいくわけではないので、何げなく悪魔の塔の跡地に地下ダンジョンを作って……なんて安易に考えていたのだがカラルはそうではないようだ。

「そんな説明をしてくれたってことはカムラドネの近郊にある五つのダンジョンと連携させることになるのかな?」

「その通りよ!アキト様とレイラのかわいいイチカちゃんがいる土地に、わらわの管轄していないダンジョンが付近にあるなんて危険極まりないこと、付近のモンスターたちも完全に統治してかつ景気の良かった頃のカムラドネと同じ——いやそれ以上の街にするわ」

 と、ぎゅっと拳を握りしめて宣誓するカラルだった。イチカのことをそんなに考えてくれて嬉しいがちょっとその愛が重いかもしれない……。穴の周囲を歩いていると俺たち以外もちらほら穴を見に来ている人もいてちょっとした観光スポットになっている。

「で、具体的にダンジョンの作成に入っていきたいんだが……」

「そうね。今から穴の底に降りて作業をし始めると、悪魔族と勘違いされてしまうわね……中の状況は……」

 カラルは立ち止まり、足元から精気を流し穴の中を調べているようだ。俺も箱魔法を展開して中を穴の中を調べる。真っ暗であとは見えないが生物がいないことはわかった。カラルも同じく地中には何もないと教えてくれる。「ではあちらへ……」と人がいない建物の影へ案内する。誰もいないことを確認してカラルは手を前に出すと魔法陣が展開される。

 俺の手をとり中に入っていく。俺も続いて魔法陣をくぐるとそこは真っ暗な闇の中だった。カラルは浮遊魔法を使っているのか強い力で俺を引っ張り上げて、抱き寄せ密着させる。

 上を見上げると小さな光が見える……ってことはここは穴の底か。浮遊魔法で壁まで移動する。箱魔法を展開して自分で移動できるのだが、ここはカラルにまかせよう。

 カラルが魔法で足元を照らす。水がたまっているのが見える。壁にそっと手を当てるとみるみるうちに水が引いていき、コインやゴミが姿を現す。地表の土を入れ替え、固めたところに降り立った。

 ダンジョン作成はダンジョン・コアの作成が欠かせない。カラルは俺の後ろに回り密着しながらダンジョン・コアの作成について実演して教えてくれた。何度か試作をしてできの良いものを選んでもらう。

 スティックからダンジョン・コアから精気を流し込み今いる空間以外を土で埋めるように念じると、かなりの勢いで土が吹き出てきて俺たちを避けてせり上がっていく。ダンジョン・コアから完了の通知を受け取る。

 十階層目にボス部屋を設置したあと、箱魔法の進化系、戦術管制画面(タクティクスコンソール)を展開し、ダンジョン全体を3D映像化して見せる、それを一階層ごとに上から見て、通路を作成する。入り口予定地に向かって一筆書きでぐるぐると迂回しながらボス部屋までの一本道を作る。

 俺の背後にいるカラルが「わぁ……」と、驚きとため息が混じったような声を漏らす。

「どうした?」

「こんなに簡単に水平な通路を作ってしまうなんて……ほんとアキト様にはいつもおどろかされてしまうわ」

 ダンジョンの水平な通路を作るには結構な経験が必要なんだそうだが、俺の場合は箱魔法の戦術管制画面(タクティクスコンソール)で空間全体が見えている、そのイメージがダンジョン・コアに伝わっているので、難なく水平な通路が作ることができているのだろう、というのがカラルの見立てだった。

 行き止まりなどのダミーの道はダンジョン・コアに任せてモンスターの配置に取り掛かる。これまで倒してきた魔物およそ五百体のモンスター・コアに精気をそそぎ生成する。モンスター・コアの運用もダンジョン・コアに任せるので、生成し終えたものをすべてダンジョン・コアに放り込んでいく。しばらくするとモンスターたちをボス部屋から出現させあたりに配置し、地中をダンジョン・ウォークで壁の中を移動し始めた。あとは通路は全面石造りにして歩きやすいようにしておこうかな。

 各階へのモンスター配置が整うと階層の区切りのドアを設置したり、鍵を隠したり、罠を仕掛けたり、隠し部屋に宝を置いたりと、カラルの指示の下、次々とダンジョンのパーツを設置していく。

 戦術管制画面(タクティクスコンソール)で、できあがったダンジョンのすみずみまで点検する。なかなか出来のいいダンジョンだと自画自賛してしまう。

「さすがアキト様。思っていた以上に早くできそうね」

 続いて実際にダンジョンの中を確認しながら歩き、細かな部分の修正や宝箱に装飾品などを入れていく。

「お疲れ様でした。このダンジョンはいつから稼働なさいます?」

「今からでもいいんじゃないか」

 極私的絶対王国(マイキングダム)を展開し、外の様子を見てみると、人が多く見物に来ていて屋台が出ている。警備兵や街のお偉いさん、他にもギルドの職員などなど、知った顔も多く集まっていてちょっとしたお祭り騒ぎだ。

「それでは、ダンジョン・コアにご命令を」

 カラルに促され俺は開門をダンジョン・コアに命じる。更地だった部分がせり上がり、祠のような入り口ができあがる。上に乗っていた者は転がり落ちるように街の近くまで逃げていった。

 重厚な金属でできたダンジョンの扉を開けるが、誰も乗り込んでこない。一時間ほどして準備を整えた冒険者たちがやってきてダンジョン攻略を始めた。

 二層までは初心者向け、六層までが中級冒険者向けでそれ以降は上級者に分けてある親切設計だ。もちろん精気がたまれば、階層を増築する予定もある。

 恐る恐るダンジョンに入っていく冒険者たち。すぐに戦闘も始まり、罠にかかる冒険者も多く、第一層は大騒ぎだった。自分の箱庭に攻め込んでくる冒険者たち、それらをどうやって泳がすか……と考えていくと結構楽しい時間を過ごせた。
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