上 下
171 / 182
第2章

第百七十話 宴も終わって……

しおりを挟む
 宴会場となっている庭では嫁たち同士が、楽しそうに話をしている。俺もラッテにこの世界のことについて質問しまくっていた。

 俺のように始めから力が備わっていたわけではなく、力が足りず悔しい思いをしていた冒険者になりたての頃、幼なじみであるキアートの励ましと鍛錬を積み重ねる。月日は過ぎやがて魔人にも負けない、武器や力を手に入れ世界中を旅する。まるで少年マンガのような人生だったからこそ、その冒険譚は今もなお世界中で愛されているのだ。

「話は全部本当だったんだ……でもこれだけの移動はどうしてたんだ?」

「物語を綴ってくれた作者には一部脚色は入れてもらうように頼んだ……あっ!」

 ラッテは何か思い出したかのように鞘に収まった妖刀ロウブレンを取り出した。

「そうだった、すっかり忘れていたよ。アキトに出会ってから驚きの連続だったからな……移動はコイツを使っていたんだ」

 ロウブレンに精気を注ぎ込んでいるようだ。しだいに鞘は形を変え、一メートルくらいの帆船に形を変える。

「大きさは自由に変えることができる。空を飛ぶ帆船だ。鞘は手元に残ったが剣がないとどうしようもなくてね。ロウブレンを失ってからは馬車と徒歩の旅できつかったな」

 魔人と戦いで愛刀を失ったが世界は平和になったという感じで物語は収束をむかえている。もちろんその後も冒険は続いている。物語では描かれていないエピソードだ。

 いつの間にやら夕方になり女性陣たちは家の中に移動して、おしゃべりは継続中だ。

 女性たちとは違い、話すことが尽き庭に残った俺、ラッテ、ロンダールの三人は日が傾き徐々にオレンジ色に染まっていくカムラドネ山を眺め、酒をちびちびやっている。昼からずっと何かを食べ続けているため晩飯という気分でもない。

 さてそろそろ男性陣だけでもしめるか……。そんなことを思っている俺の手元に魔法での手紙が送られてくる。

 シャン……という着信音的な通知とともに空中に現れひらひらと落ちてくる手紙をつかみ取る。差出人はエソルタ島にいるカガモン帝国の宰相ゾンヌフからだった。

 手紙の内容は「緊急事態!エソルタ」

 よほど慌てていたのだろうか……。

「手紙魔法……女か?家とかでは拒否するのが得策だぞ、アキト」

 着信拒否みたいなものか……。そういう内容でないことを伝えるためにラッテに届いた手紙を渡す。

「随分と慌てているようだな。行くのか?」

「数少ない友人の一人だからな」

 カラルに状況を説明してロンダールを連れていく。

 箱魔法に乗り込み異世界魔法陣展開……。昨日、異世界侵略を仕掛けてきた亜種魔族の世界を経由し、カノユール王国、王都ザインに上空に移動する。

 エソルタ島にいるのであれば、ここザインかもしくは次の都市セロニアになる。冒険者たちの奪還もゆっくりではあるが着実に進んでいるとカラルから報告を聞いている。

 分析能力発動し、その詳細の中からゾンヌフの名前を検索するが見当たらない……となればセロニアか。せめて街の名前は書いてほしかったな、と心の中で愚痴りつつ、異世界転移魔法陣で移動する。

 同じ手順でゾンヌフを探すとこの街にいることはわかった。人口約二万人。街の周囲やザインと結ぶ街道にはにはまだまだモンスターたちが多く生息し、日夜冒険者たちが領地拡大に励んでいる。ザインとセロニアとは転移魔法陣で行き来はでき、前線へも商人たちも進出しているので街の中は賑わっている。

 繁華街を上空から極私的絶対王国(マイキングダム)で探していくと宿と飲み屋が一つになった建物の中にいる。そこには二百人ほどの冒険者たちが飲んで騒いでいる大ホールではなく個室で皇帝のエルガードも一緒にいる。周りを囲むのは女性の冒険者……それも十人全員がエルフの女性という珍しい構成だ。

 飲み屋側の入り口から入ると威勢の良い出迎えの声がかかる。

「三名様ですか~?」

 タイトな給仕服の店員がこちらに尋ねる。

「連れが二階で……」

と、言い終わらないうちに「お二階の突き当りの部屋の方ですね~。伺ってます~、どうぞ~」

 勝手に行けというようだ。騒がしいフロアを抜け階段を上がる。

 個室の部屋のドアをノックすると中から「どうぞ……」と言われ、扉を開けると酔ってご機嫌のゾンヌフとエルガード二人だけがいる。

 上から覗いたときと様子が違うな……そう思いながら足を踏み入れる。

 「アキト!」「アキト殿」

 ラッテとロンダールが危険を察知したようだがすでに相手の術中にハマっていた。時を刻む音がカチカチと何かに向けてカウントダウンが始まる。

 嫌な予感はあったし当然心の準備もある。

 クロック・アップ発動、極私的絶対王国(マイキングダム)発動し、一瞬で部屋を覆う。

「全員動くな!術式無効、魔法発動禁止!」

 酔った二人は幻影だったのか、椅子におとなしく座ってこちらを申し訳なさそうに見ている。

「おお……あれを解いちゃうんだ……」

「追加の術が入らないよ!」

 
 女エルフが十人。部屋の奥側にあるテーブルに腰掛けてこちらを見ている。どうやら束縛をとくだけの力を持った奴はいないようだ。

「よお、久しぶりだな……この女性たちを紹介してくれないか?」

 ゾンヌフは恐る恐る口を開く。

「す、すまない、アキト。帰ることができたら弁明はさせてもらう。これにはお前のことを思って行動した結果なんだ」

「気にするなって。……んで、そちらのお姉さん方に聞くのがいいのかな?……うちの連れが世話になってるな」

「まあ、そうなるかね。彼が望んだから与えたようとした……。説明はするから、この束縛を解いていただけないかしら……」

 不意打ちでも対応できるだろう。魔法禁止のまま、自由に動けるようにしてやると、やれやれといった表情を見せる。

 「説明してくれ」そう伝えるとリーダー格のエルフの女性が立ち上がり、説明を始める。金色の髪を耳にかける仕草が色っぽい。彼女の名はメルーシャ、年齢はこれまで見てきた中では最高齢二千八百三十一歳だが見た目は三十代だ。整った顔立ち、儚げながらも力強い水色の眼はずっと見つめていたくなるほどだ。今日の戦いを終えて戻って来て少し疲れているのだろう。

 彼女たちは世界を渡り歩き、長ければ数十年その土地に住み、冒険者をしながら生活をしている。メンバーは結婚して退団した者もいれば新たに加わったものもいる。加入できる条件として純粋なエルフまたはその子供のみと決まっている。

 純血のエルフ……ゾンヌフのやつ、エルフ好きの俺のために声をかけて探ろうとしてくれたのだろうか。

 エソルタ島を魔族の手から奪い返すための討伐が始まった話を聞き、やって来た彼女たちは、今日の討伐もそこそこに常宿であるここで食事をしていたところ、ゾンヌフが声をかけた。

 見た目が美しい彼女たちにはナンパは日常茶飯事でそのあしらい方はいくつかあるようだ。

 財力や権力を自慢する奴であれば、食事代や武器や防具を買わせるためのカモにする。イケメンで気に入った男には力になったり、一夜をともにしたりして、いいようにひとときの慰めものにする。武力や力を自慢する奴らは腕相撲や魔法勝負をして適当にあしらい金を巻き上げる。

 執拗に迫ったり、面倒だった時に奥の手を出すそうだ……。

 彼女たちの奥の手と呼ばれるものがテーブルの上にゴロンと転がる。直径十センチほどの紫色の宝石だ。

「ちょっとしたお仕置きアイテムよ。あんまりしつこいとね、その中に押し込めるのよ」

「押し込まれると死ぬのか?」

「さあ?どうなるのかしらね。これまで何百年と続けてきけど、生きて出てきたやつは知らないわ。大抵が死んで教会送りになるんじゃないかしら……」

「……その宝石はいつの頃から使われている?」

「さあね、あたしが記憶がないときから持っていたものだから……」

「で、この男があまりに力自慢をするから封じてやろうとしたわけか……」

「そうよ、自分は強くないのに”知り合いにとてつもなく強い奴がいる”なんて豪語するからね、そいつもろとも放り込んでやろうかってことになってたわけ……それがあなたなんでしょ?後ろにいる二人もかなりやばい感じね……言っていたことは本当だってわけだ。で、どうする?このまま帰る?」

 そうだなゾンヌフとエルガードも無事なようだし、このまま連れて帰っても向こうは手を出してこなさそうだな……。

「行こう、アキト」

 ラッテが強く宣言する。

「……危ないんじゃないのか?ロンダールの意見は?」

「あの宝石にどれだけに広さの空間があって、何が隠されているのか気になりますなぁ~」

 君たち本当に自由に生きてるね。ラッテに小声で相談する。

「あれが何だか知っているのか?」

「ああ、千年前に突如として現れたエルフの何人か持っていた代物だ。大丈夫だ詳しくは後で話す」

 ラッテはかなり興奮し、目が血走っている。

 約千年前にエルフが突如としてこの世界に現れた時に持っていたいたものとなれば、エルフの故郷の秘密に近づけるかもしれない。

「ここに来たのも何かの縁か……」

「なんだい?生きて帰れるっていうのに物好きな兄さん方だね……」

「アキト、俺たちも連れて行ってくれ」

 エルゴートはてっきり残るものだと思ったのだが……ほらゾンヌフも驚いてあわあわしているし……。

「こうなった責任は俺たちにあるんだ……それをアキトだけに押し付けて何もなかったかのように帰ることなんてできない。足手まといかもしれないが頼む」

 極私的絶対王国(マイキングダム)で術式無効の解除、魔法発動禁止の解除を命じる。

「わかったよ」

 エルフに向かって術を発動するように促す。

「あんたが望んだんだからね恨みっこなしだよ……ま、無理だとは思うけどまた会えたら、みんなで一回ずつ抱いてさしあげるわ……」

 彼女たちは随分と性に対しておおらかだった……。

「……その言葉忘れるなよ!必ず帰ってきてやるからな」

 と、雑魚っぽいことを言い放ったゾンヌフだった。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。 目覚めると彼は真っ白な空間にいた。 動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。 神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。 龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。 六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。 神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。 気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

処理中です...