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第2章

第百六十九話 決着

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  「ラッテもいろんな技を持っているな」

「いや、オレは体術とロウブレンを使った魔力撃だけだ。魔力撃は少々威力が強くてここでは使わない。まあこのグローブのような小道具はいくつか持っているけどね」 

 そう言いながら、圧縮火炎球(マグマボール)を潰した手袋でひらひらと手を振る。
 宝具”常世の姿見”を出しても目にも止まらない速さで動く相手を留めるのは難しい。出した途端に割られそうだし……俺もそろそろ手持ちの技がなくなってきたので奥の手を出すか……。

『項目状態保存(セーブ・ステータスポイント)』

 ラッテのステータス状態を保存し、『全項目数値零(ムーブトゥボーナス)』
全項目をボーナスに強制的に移動させる。いくらレベルが強かろうが、全てのステータスが0になると子供よりも弱くなる。

 そして宣告する。

「動くな!」

「くっ……またその技か、これなら力を入れれば……!!」

 気合いを入れようとも、びくともしない。その間に俺はスタスタとラッテの真ん前にたち、拳を心臓にあてる。

「参った。降参だ」

 極私的絶対王国(マイキングダム)を解除してステータスを戻してやる『数値読出(ロード・ステータスポイント)』

「全く我が主には驚かされっぱなしだ。おそらく力だけはオレの方が強い。……しかしそれを超える稀有な技を駆使される。……まったく歯が立たない完敗だ」

「アキト様!」

 カラルが飛びついてきてそしてキスをかわす。

 どうしたどうした?

 見ると涙を浮かべている。俺たちの戦いを見て感動するところがあったのだろうか?そのまま無言で抱きつくこと数分。落ち着いて少し離れたところで背中を向けてしまった。

「いや~久しぶりに体の一部を失ったよ」

「言っては何だがここ数百年で一番楽しかった。血がたぎる思いをしたのは本当に久しぶりだ。
 しかし我が主よ、これだけの力を持って更に戦力を求めるあなたは何を望むのですか?」

「俺の望みもワガママみたいなものだから、あとで話すよ。その時が来るまで自由に世界を旅してくれ。……あ、でも一つだけ。異世界からの侵略があるときは必ず俺と一緒に戦ってほしい。それと我が主じゃなくてアキトでいいから……」

「わかった。その願いキアートの命が尽きる時までお守りましょう」

 キアートの命尽きる時まで……か。

「うん。こちらこそよろしくお願いします」

 それからしばらくの間、俺とカラルのモンスター・コアの試作を再開して、限界まで強化したモンスターを俺以外のメンバーで倒していく。ラッテたちの強さは明らかに異常でレベルを10000まで上げた魔族を出したが大人と子どもぐらいの違いがあった。俺との戦闘の時には手を抜いていたんじゃないかとさえ思えるほどだ。俺の戦闘パターンも知られてしまったので、もう一度やって勝てる可能性は低い。

 いろいろと試したいことは、一通りおわったのでレイラの待つカムラドネに向けて転移魔法陣を展開する。

「まさか……こんなことが……」

 前もって説明をしておいたのだが、驚きのあまり立ち止まり動こうとしないラッテたち。

「早くしないとおいてくぞー」

というと慌てて通り抜ける。

「ようこそ、我が家へ」

 フェモが周りの景色を見てはっとする。

「この街はほら、いつかきたことがあるよ。あの山がみえる……え~っとカムラドネだ!」

「正解、ようこそ、カムラドネにいらっしゃいました」

 レイラとノイリが出迎えてくれる。庭には既にテーブルの上に食事が人数分並べられている。
帰ってきた挨拶をして早速紹介する。

「新た仲間となったラッテたちだ」

「レイラといいます……まさか、ラッテってあのラッテさん?」

 絵本のおとぎ話や小説にもなっているその冒険譚はあまりにもこの世界では有名だ。

「初めまして。ええ、あのラッテになります。我が主のアキト殿にはこれからお世話になります。……こちらのお美しい方々も奥方様ですか?」

 にこやかに褒め言葉をさり気なく使う。その中性的で整った顔と裏腹な強さがあればどんな女からも魅力的な男に見えてしまうのだろう。

「レイラは妻だが、ノイリはこの屋敷の主で”遠夜見(とおよみ)の巫女”と言った方がわかりやすかな」

「カムラドネといえば、連綿と続く”遠夜見(とおよみ)の巫女”が代々のお住まいの街でしたね、何度かお会いしたことがあります」

「まあ立ち話も何だから、始めてしまおうか」

 大勢集まって庭でのパーティが始まった。



 獣魔族のフェモとカラルが何やら楽しそうに、先ほどの戦闘を振り返っているところでカラルがダンジョンを支配することのできる支配球を取り出す。

「そうだ、ピョンちゃん。これなーんだ?」

「……うげ!まさかこれは!昔に体を乗っ取られた球体……」

「そのとおり、ダンジョン都市ドルトミアでの第四ダンジョンのことは覚えているかしら……」

 戦いに負けたことが悔しかったのだろうか、そんな話をして思い出したらパニックにならないか?

 しかしそんな心配をよそにうっとりと語りだすフェモ。

「そう……あのダンジョンはあたしとラッテとの運命的な出会いをした場所………百年近くも囚われたあの日々。
 来る日も来る日も限界まで能力を使わせられ、死にたいとしか考えられなくなっていたあたしを救い出してくれた」

 この世界ではダンジョンでの出会いはかなり多いようで、襲われているところを助けて仲が深まったなんて話はどこの酒場でも定番の話だ。

「そうだ!ラッテ!この力があればあのダンジョン群も踏破できるんじゃないかな?」

「ふぉっふぉっふぉっ。元気な獣魔族のお嬢さんだの。……まぁ、それだけの強さを持って生まれ変わったのであればダンジョン攻略も容易いだろうて……」

 声がする方を見ると年寄り言葉遣いとはギャップのある浅黒く屈強な体の男が深々とカラルに頭を下げ挨拶をしている。そしてこちらに向き直る。

「アキト殿しばらくですな」

 ……その体は前に見たときよりあきらかに筋肉量が増えている。

 そしてフェモにも挨拶をする。

「ロンダールと申します、以後お見知りおきを……」

 カラルがロンダールの肩に手を乗せ、ラッテたちに紹介する。

「ロンダールはドルトミアのダンジョン群を統括している悪魔で、あそこは既にわらわたちの支配下だから潰しちゃダメよ」

 モンスターはダンジョン内にいれば自由に精気の補充ができるが、ラッテたちの場合、旅をしながらモンスターを倒して補うことになるのだが、大量すぎて補充が難しい。そのためその精気はドルトミアに通わせて自分たちで補充させる。

「ということは、あたしを捕らえたのは、あなただったのね?」

「記憶にはないが、事実から推測すればそうだったのでしょうな。まぁこれから長い付き合いになるのでよろしく」

「過去のことは忘れろとは言わないけれど、ケンカなんてしないでよ。それとあなたたち用に三人分の通信兼転移魔法の指輪を作っておいたから、ちゃんと連絡取り合って補充してね」

「はぁい、ありがとぉ。カラル」

 因縁の相手を見つけ、復讐できる力も持っているのに何もできないことで不満げな表情を浮かべるフェモだった。
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