上 下
754 / 784
番外編②

第68話『甘くないクッキー』②

しおりを挟む
 別の日に、バクスと話をする際にイツキからクッキーを預かって共に食したのだが。

 バクスが、ひと口食べた途端。とんでもないことを口にした。


「これは! 薬効が凄まじいですぞ!?」

「なに?」


 材料を全部聞いたわけではないが、これは趣向は変わっているが普通の菓子では? ブルードベリーのように特別な薬材を使っていないはず。


「恐れ入りますが、チーズの部分でしょう。もしや、イツキちゃんが一から手作りしたことで薬材になったのかもしれませぬ。場合によっては、アレルギーの緩和剤になるか」

「ちょ、ちょっと待て?! それほどか!」

「恐れながら」


 バクスの興奮は落ち着かない。食べただけでそれがわかると言うことは、と俺も改めて鑑定してみたところ。


【『中和剤チーズクッキー』

 ・軽い風邪程度なら瞬時に完治

 ・先天性、後天性問わず、軽度のアレルギーなら完治見込み有り

 ・怪我などは軽傷であれば瞬時に完治


 】


 などと、バクスが興奮しておかしくないステータスが確認出来たのだが!?


「……イツキが手がけたもので?」

「素晴らしいことですな。アレルギー発見の功績だけでなく、それを完治に導く担い手となれば」

「……下手をすると、イツキが愚か者に狙われるやもしれん」

「そうですな。アーネスト殿の細君であれ、愚かな輩はいずれ出てくるでしょう」

「……以前の護衛担当は、懐妊中だから無理だ。別の……いや、その夫となったゲイリッシュならいいかもしれんな」


 悪友のさらに悪友のあいつなら、イツキへの信頼も既に得ている。ある意味、イツキは恩人だと聞いていたから喜んで受けてくれそうだ。

 とくれば、とクッキーをいくつかゲイリッシュにも見せるのに呼べば。


「わーった。引き受ける」

「頼んだぞ」

「カミさんとの縁を繋いでくれた恩人だぜ? 俺以外の適任はいねぇだろ」

「場合によっては、暗部を率いて良い」

「承知した」


 護衛は無事に決まったはいいが、肝心のクッキー……正確には、イツキは手作りしたらしいチーズのことだ。

 俺はチーズの製造法をよく知らなかったため、簡単に資料を臣下から取り寄せたが……とんでもなく、面倒な仕込みのやり方だった。

 だが、凝り性のイツキを思うととても納得が出来る。バクスの見解も踏まえ、一度アーネストに伝えておく必要があると……執務室に呼ぶことにした。


「……イツキのクッキーが?」

「正確には加えられたチーズらしいが……俺が鑑定。バクスが口にしたことで、薬効などが判明した。軽い回復薬どころではない」

「……それでは。我が妻が、場合によっては良からぬ者から狙われる可能性が」

「察しが早くて助かる。護衛にはゲイリッシュが了承してくれた」

「お気遣いありがとうございます」

「イツキ本人に伝えるかどうかは、お前に任せる。アルベルトのこともあるしな? 子にその技能スキルが受け継がれていないとも言えん」

「はい」


 アルベルトを鑑定してもいいが、技能は後天性で付与されることもあるからな。下手に今鑑定して、危機感を煽らせてはいけない。それも国王として……よりは、近しい知人としての配慮のつもりだ。
しおりを挟む
感想 319

あなたにおすすめの小説

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

復讐はちゃんとしておりますから、安心してお休みください、陛下

七辻ゆゆ
ファンタジー
「フィオネよ、すまな……かった……」 死の床で陛下はわたくしに謝りました。 「陛下、お気が弱くなっておいでなのですね。今更になって、地獄に落とされるのが恐ろしくおなりかしら?」 でも、謝る必要なんてありません。陛下の死をもって復讐は完成するのですから。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。