王宮まかない料理番は偉大 見習いですが、とっておきのレシピで心もお腹も満たします

櫛田こころ

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番外編②

第44話『黄金色のフルーツタルト』②

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 休憩が終わったら、リュシアーノ様にはいちごをカットしていただく。私は艶出しに必要なナパージュを作っていく。

 通常だとゼラチンを使うが、寒天粉でも作るのは可能なので鍋に材料を入れる。沸騰してきたら火を止めて、レモン汁とリキュールを大さじ1ずつ加えれば、あとは魔法で冷やすだけ。

 トロトロになったら、これでナパージュは完成だ。


「イツキ。こっちも出来たわ」


 リュシアーノ様の方も、まな板に乗せてあったいちごをきれいにカットしてくださっていた。土台の生地もうまく冷めたし、あとはいちごを配置よく並べてナパージュでお化粧していく。

 ナパージュを塗っていくと、金色の果物がさらに金塊のように輝いていた。これは凄い事だとリュシアーノ様と笑い合った。


「素晴らしいですね」

「大発見じゃないかしら? 金色の果物がさらに輝くだなんて」

「ええ、そうですね」


 もう一度お茶にして食べたいところだったが、時間が夕方に近くなっていたためにリュシアーノ様にはワンホールの半分を亜空間収納で持ち帰っていただくことになり。

 私は、アーネストさんと食べるべく普通に冷蔵庫に入れて保管しておくことにした。異世界でも共通する道具があるのは本当にありがたいことだ。


「……凄いな。さらに輝いているように見える」


 アーネストさんが帰宅されてから、食後のデザートにとタルトをカットして出してみると……やはり凄い出来なのか顔を綻ばせてくださった。


「リュシアーノ様と作ってみたんです」

「殿下と? 料理の腕が上がっておられるな」

「学園でも簡単なお菓子作りから実習があるそうですよ」

「ああ、レクサスがサフィア殿から聞いていたと言ってたな。俺たちの時代にはなかったが、君がきっかけらしい」

「私ですか?」


 何かしたのかと首を傾げると、アーネストさんは何故か苦笑いされた。


「君は本当に自分の価値を過大評価しないんだな。そこも愛らしいが」

「えっと……ありがとうございます?」

「アレルギーがきっかけとはいえ、様々なレシピを披露しているだろう? その素晴らしさに国民でも市井だけでなく、貴族も感心を示した。この功績は君が生み出したんだ。だから、あの時に勲章を陛下からお与えされたんだ」

「そ、そうなんですね」


 自覚はあるつもりではいたが、まだまだだった。

 異世界からの渡航者ということで、知識などのチートとかは理解していたのに……影響力は計り知れないでいた。

 アレルギーの重要さだけでなく、食文化にも大きく影響を与えてしまっていたのだ。難しい料理はほとんど伝えていないが、それでもこちらの世界では画期的だったのだろう。

 タルトのナパージュですら、リュシアーノ様があんなにも驚いていたのだから……自重しようにももう遅いが。


「とりあえず、食べていいか? イツキはまだか?」

「あ、はい。まだです」

「じゃあ、食べよう」


 不安が色々浮かんではきたが、この人の前だと泡のように浮かんでも溶けていくようだ。

 柊司しゅうじを残してしまった不安もまた浮かんだが、息子も生まれた今は、もう日本には戻れない。

 頷いた私は席に着き、ほぼ同時に金色のいちごタルトを口に運んだ。サクサク、ほろほろに崩れていく土台もだが……中央のカスタードクリームの上に贅沢と言わんばかりに載せた、たっぷりの金色のいちご。そのジューシーながらも、さっぱりとした甘さが合わさって!


「「美味しい」」


 そして、同じタイミングに声を上げた時の顔も……アーネストさんの表情から、私も笑顔なのがわかった。

 不安はまだまだ多いが、やっぱりこの人とアルベルト。他の皆さんがいらっしゃることで、私は幸せだ。

 だから、夢でもいいからこの時間が続いて欲しい。
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