王宮まかない料理番は偉大 見習いですが、とっておきのレシピで心もお腹も満たします

櫛田こころ

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番外編②

第43話『黄金色のフルーツタルト』①

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「赤ちゃんは本当に大変ね。うちもジェラルドが大変だわ」


 リュシアーノ様にクリームの手順を教えながら、私も生地を作っていると。リュシアーノ様は苦笑いしながらも、嬉しそうに言っていらした。


「人見知り多い年代ですし。やんちゃな年頃ですからね」

「そうそう。王族以外の人間にはそんな感じよ。メイドや執事バトラーも馴染みのない人には人見知り大発動だもの」

「アルもそうなるのでしょうか?」

「わからないけど、なくもないわね」


 焦げつかないように丁寧にかき混ぜていく手つきは、お菓子作りに慣れた証拠かもしれない。

 レンジが無いので時短は出来ないから、鍋で丁寧に混ぜていかなくてはいけなく……しかし、リュシアーノ様は文句も言わずに作られていく。美味しいものを作るのに手間暇を惜しまないことを、大事だとわかっていらっしゃるのだろう。


「カスタードは出来たら、冷やしておきましょうか」


 出来上がったら、それを魔法で粗熱を取ってから冷やしておく。この工程も大事なので、次は生地の方だ。私が生地を練って冷やしたところはうまく言ったので、それを型に入れて(これは以前ハクトさんに作っていただいた)……しっかり焼いたのに、アーモンドプードル入りのクリームをリュシアーノ様と作って、それを熱い生地の上に乗せて焼く。


「工程多いのね……」

「タルトは特にですからね。スポンジも粗熱を取る工程は大変ですし」

「それを正確に作らなくちゃいけないんでしょう? イツキもたくさん作ったの?」

「弟にせがまれて作ったりしていたので、自然と」

「あら、イツキ。弟がいたの?」

「少し歳の離れた。……前の家族で唯一の肉親でした」

「本当の両親は?」

「登山事故で。私も事故に遭いかけましたが、こちらに転移出来ましたし」

「残してしまったってこと?」

「確認したくても、高度な魔法は使えませんから」

「そうね。かなり高ランクの魔法だもの。私も使えないわ」


 確かめたいけど、それは出来ない。

 だけど、それでいいんだ。

 彼の現状を心配してないと言うのは嘘になるけど、気にし過ぎても日本にはもう帰れない。

 それに、もっと帰れないのはリュシアーノ様だ。転生したことで、二度と戻れないに等しい。それこそ、神様の気まぐれがなければ……帰れないのだ。

 でも、お互いに愛する存在がいる今。その願いはほとんど薄れている。お互いに顔を合わせれば、苦笑いをしたのだった。


「そうですね。さて、次はメインのいちごをスライスしていきましょう」

「ええ! あ、ちょっとそのまま食べていいかしら?」

「もちろんです」


 話題を変えるのに、タルト作りの続きに取り掛かり。リュシアーノ様が金色のいちごを試食したいとおっしゃったので、休憩も兼ねていっしょに食べることになった。

 何回か食べてはいるが、魔法鞄マジックバックに入れていたから傷みもせずに甘みが強く酸味も程よいので、相変わらず美味しかった。
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