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番外編②

第30話『花豆で蒸しパン』①

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 びっくりしていますと、イツキちゃんはにっこりと微笑んでくださいました。


「今日はお菓子にしますか? サラダはドレッシングにしなきゃなので、普通以上に手間がかかりますが」

「そ……そうですね。お菓子はオハギですか?」

「いえ。せっかくなので蒸しパンにしましょう」

「虫……パン?」

「字が違いますね。蒸気で火を通すパンのようなお菓子です」

「……興味深いですね」


 と言うと、東方大陸では主流の『花巻』と呼ばれるパンに近いものでしょうか?

 とりあえず、イツキちゃん専用の厨房に案内していただきましたが驚きました。まだ作られて新しいですのに、とても使い手の心が現れたような居心地の良さを感じます。城では他者の手が触れることの多い厨房なのでわかりにくいですが、特定の者が触れる場合は違いますね。


花豆フラウは甘煮にしましょう」

「普通なら時間がかかりますが、何か秘策でも?」

「少し魔法が上達したので、『時間操作』をしようかと」

「おや。会得されたのですね?」

「少し時間がかかりましたが、料理の幅が広がるので。ワルシュさんに教わりました」


 普通、時間操作は冒険者が獲物のために攻撃魔法として使用するのですが……わざわざ料理のために会得するとは、イツキちゃんの性格を考えると不思議じゃありませんね。

 花豆フラウを水にたっぷり浸したボウルに手をかざし、呪文を唱えれば紫の光に包まれました。ほんの少しの間光り続けたあと、豆の大きさは水の中で二回りほど膨らんでいましたよ。


「お見事です」

「うまくいってよかったです。この工程がうまくいかなければ、コルトさんにお願いしていたかもしれません」

「その時はおまかせを。ここから甘煮ですか」

「結構甘くしたいんですが、おまかせしていいですか?」

「もちろん」


 孫弟子との料理は心が躍りますからね。灰汁の除去と茹でこぼしを繰り返し、砂糖を多めに塩をひとつまみ。味を確かめると、かなり甘いですがイツキちゃんのリクエスト通りに出来たと思います。


「わ。綺麗ですね」


 イツキちゃんは生地の仕込みが終わったのかこちらに来てくださいました。


「こんな感じですかね?」

「充分です。粗熱を取ったら、生地の中に埋め込みましょう」

「埋め込む? 潰したりしないんですか?」

「ええ。練り込んだりせずにそのまま使います。ほっくりして美味しいと思いますよ」

「ほう」


 そして生地を見せていただいたのですが。

 チョコレートのように、茶色くどろどろした生地が金属の型の中に入っていたのです。
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