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番外編②
第25話 元英雄は孫のために
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俺の孫が歳を重ねようとしてきた。
血は繋がっていないが、養子縁組にした母親がイツキだからな。可愛がらない理由にはならない。
だがイツキは今城ではなく、貴族領の一画にある屋敷で生活している。一応は宮廷料理長って肩書きのある俺は、頻繁に城外には出れん。
とは言っても、部下らの手際もだいぶ腕が上がってきたおかげで多少は出歩くのも問題なくなったのはありがたい。
イツキが城に残してくれたレシピのおかげもあって、意欲的に調理をするようになってきたからな。フルコースの時とは違い、出来立てのもんを美味い状態で食えるようになった今は料理人本来の仕事に打ち込めるということ。
アレルギーがきっかけだったが、フルコースの習慣がなくなったのは俺らにとっても良かったことだ。冷めて味気ない料理をリュカルド以外の近臣らに食わせても、命を削るようなことをしないで済んだからな。
俺も大量に仕込む料理が減って、ほっともした。
「……さて。土産には」
俺はイツキの屋敷に出向く前に、貴族領近くの森に居た。亜空間収納に他の土産は入れてあるが、出来ればイツキ自身が喜ぶもんを持って行ってやりたかったんだ。
孫のアルベルトはまだ直接肉を食えんが、イツキのことだから異世界知識でスープ仕立てにして食わしてやれるだろう。そう思い、俺はあるもんを獲りに森の中を進んでいく。
「……いたな」
シュルシュルと地面を這う音が聞こえてきた。
目的にしていた獲物が目の前にあれば、俺は自分の獲物である剣を抜き……間合いを一気に詰めてそれを振り下ろした!
耳をつんざくくらいの奇声を受けたが、気にしている場合ではないとそいつの首を剣で真っ二つにした。んでもって、首と胴体が離れても胴体はしなって動くから何回か分けて切ったがな。
「っし、こんなもんか」
血抜きに皮剥も終わらせたんで、多少時間は食ったがまあいいだろう。今日行くとは伝えたが、いつ頃に行くとまではイツキにも言っていないからな?
とは言え、孫との貴重な交友時間が短くなるのはもったいない。
急いで後片付けもしてから向かえば、出迎えてくれたイツキは少し怒っていた。
「遅いですから、心配したんですよ?」
滅多に怒らないイツキが、本気でなくとも怒りを露わにしているのは珍しい。悪かったとすぐに謝れば、大袈裟なくらいにため息を吐いた。
「どこか行かれてたんですか? 土埃がありますが」
「めざといな? 少し土産を調達してたんだ」
「わざわざ……ありがとうございます」
「調理場あるんだろ? そこでお披露目させてくれ」
身体の方は浄化の魔法をかけて綺麗にし、屋敷の中に入れば相変わらず気持ちのいいくらい清潔さが保たれていた。メイドらの手際も良いが、イツキ自身の指示のおかげもあってこそだ。女主人はいかに屋敷の管理をどうすべきか、日夜奮闘しているらしい。ミーナに聞いたことで覚えてただけだが。
そんなイツキでも、異世界からの渡航者ゆえに普通の貴婦人には当てはまらない。私室横に専用の厨房を作らせるくらい、料理人だった気質は衰えていないからだ。
血は繋がっていないが、養子縁組にした母親がイツキだからな。可愛がらない理由にはならない。
だがイツキは今城ではなく、貴族領の一画にある屋敷で生活している。一応は宮廷料理長って肩書きのある俺は、頻繁に城外には出れん。
とは言っても、部下らの手際もだいぶ腕が上がってきたおかげで多少は出歩くのも問題なくなったのはありがたい。
イツキが城に残してくれたレシピのおかげもあって、意欲的に調理をするようになってきたからな。フルコースの時とは違い、出来立てのもんを美味い状態で食えるようになった今は料理人本来の仕事に打ち込めるということ。
アレルギーがきっかけだったが、フルコースの習慣がなくなったのは俺らにとっても良かったことだ。冷めて味気ない料理をリュカルド以外の近臣らに食わせても、命を削るようなことをしないで済んだからな。
俺も大量に仕込む料理が減って、ほっともした。
「……さて。土産には」
俺はイツキの屋敷に出向く前に、貴族領近くの森に居た。亜空間収納に他の土産は入れてあるが、出来ればイツキ自身が喜ぶもんを持って行ってやりたかったんだ。
孫のアルベルトはまだ直接肉を食えんが、イツキのことだから異世界知識でスープ仕立てにして食わしてやれるだろう。そう思い、俺はあるもんを獲りに森の中を進んでいく。
「……いたな」
シュルシュルと地面を這う音が聞こえてきた。
目的にしていた獲物が目の前にあれば、俺は自分の獲物である剣を抜き……間合いを一気に詰めてそれを振り下ろした!
耳をつんざくくらいの奇声を受けたが、気にしている場合ではないとそいつの首を剣で真っ二つにした。んでもって、首と胴体が離れても胴体はしなって動くから何回か分けて切ったがな。
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とは言え、孫との貴重な交友時間が短くなるのはもったいない。
急いで後片付けもしてから向かえば、出迎えてくれたイツキは少し怒っていた。
「遅いですから、心配したんですよ?」
滅多に怒らないイツキが、本気でなくとも怒りを露わにしているのは珍しい。悪かったとすぐに謝れば、大袈裟なくらいにため息を吐いた。
「どこか行かれてたんですか? 土埃がありますが」
「めざといな? 少し土産を調達してたんだ」
「わざわざ……ありがとうございます」
「調理場あるんだろ? そこでお披露目させてくれ」
身体の方は浄化の魔法をかけて綺麗にし、屋敷の中に入れば相変わらず気持ちのいいくらい清潔さが保たれていた。メイドらの手際も良いが、イツキ自身の指示のおかげもあってこそだ。女主人はいかに屋敷の管理をどうすべきか、日夜奮闘しているらしい。ミーナに聞いたことで覚えてただけだが。
そんなイツキでも、異世界からの渡航者ゆえに普通の貴婦人には当てはまらない。私室横に専用の厨房を作らせるくらい、料理人だった気質は衰えていないからだ。
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