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番外編

第233話 ファーストキスのために

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 不満はない。

 ないのだが、少し物足りなさを感じている。

 それは、自分達が所属している騎士団なのだから……仕様がないのだけれど。恋人となり、気持ちを交わし合ってからしばらく経つが……その、まだ……まだ!


(まだ……口付けをしていない)


 手を繋いでくれる。

 抱擁もしてくれる。

 そう言った触れ合いは時々あるのに……口はまだだ。それ以上先はまだまだ無理だとわかっていても。

 どうして、その手前はまだ難しいのだろうか?


「……どう思いますか、イツキ義姉上」


 悩んでいても、ミュラー殿に直接言えるわけがなく……休みの日に義姉上に頼ってしまう私も私だが。


「キスをですか?」

「はい。お付き合いさせていただき、そろそろ三ヶ月……いまだに一度もないのです!」

「……なるほど」


 ミュラー殿は素晴らしい殿方だ。惚れた欲目を抜きにして。スラリとした背丈にたくましい体つき。庶民の出だと外見だけでは分かりにくいが、狙う女どもは数知れず。その中から私を選んでいただけたことは天にも昇る気持ちだったが……実際お付き合いしていくうちに、少しずつ触れ合いが増えてもキスがなかなかないときた。

 これには、流石に私でも不満のようなものを覚えてしまうのだ。


「義姉上は兄上とどのタイミングでキスされたのですか!? 参考にさせてください!」

「え? その……お付き合い、する時に」

「……えぇえ」


 ヘタレ満載な兄上なのにやる時はやるとは。なんで、兄上には出来てミュラー殿には出来ないのか……大胆さはミュラー殿の方が上であるようなのに!!

 これはもう、強行突破するべきか。


「あ、無理矢理はいけませんよ? ファーストキスならなおのこと大事にしなくては」

「……ファースト?」

「人生で最初のキスです。私はそれをアーネストさんに差し上げる形になりましたが」

「……最初の」


 頬でも手でもない。

 純愛を捧げる唇への最初のキス。

 そんな素敵な響きを実感すると、体の奥から熱が湧き出てくるように感じた!!


「だから、待ち遠しいのなら……少し観察してみましょう」

「観察ですか?」

「ミュラーさん自身もお付き合いが初めてなら……タイミングを見計らっているんじゃないですか?」

「……なるほど」


 たしかに、ミュラー殿はとてもお優しい方だ。

 であれば、私自身も少し余裕を持って待つべきだと考え直した。

 義姉上に言う通り、ファーストキスのために少し観察してみようと決めたのだった!
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