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番外編

第136話『ひとを変えたクッキー』②

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「え!? こんなにもですか!?」


 クッキー作りを終えてから、別の日にです。

 僕とレクサスが近衛騎士団の皆で作ったクッキーを、イツキとアーネストの屋敷に運ぶことになりました。アーネストも当然いますので、卓に置いた箱の数を見てとても驚いていましたとも。


「……俺も知らない間に」

「皆から、キミ達への感謝の品とこれから生まれる子への祝いの意味を込めて」

「ぎょーさん大変やったけど、作り甲斐あったで」

「! ありがとうございます……」


 イツキは涙ぐむくらいに喜んでくださいました。アーネストがそっと抱き寄せても涙が止まらないくらいに……羨ましい光景ですね。僕もいつかリュシアーノ様と出来るようになる日が来るとは言え。


「しっかし、ちょぉ見ないうちに、またデカくなったなあ?」


 イツキの涙が落ち着いてから、レクサスがそう言いました。たしかに、来るたびに腹部の膨らみが大きくなっているような気がしますね。この中に、イツキとアーネストの赤子が宿っているのでしょう。


「ふふ。臨月も間近らしいです」

「ほー? 女やったなあ? 副隊長かイツキはん、どっちに似るんやろか」

「絶対イツキだ!」

「急に大声出さんとってぇや!?」

「ふふふ」


 まるで、城での光景を思い出すやり取りですね。イツキがまかないなどの料理を作り、僕らが食べていく。まだ一年程度の時間ですのに、随分と懐かしいことです。イツキは異世界からの渡航者でしたが、こちらでアーネストと結ばれたことで子も宿したのですから。

 今では立派な、イージアスの一員ですよ。


「せっかくですから、お茶を淹れてもらいましょう」


 ひとしきり語り合ったところで、僕らも喉が渇いたのを察したのか、イツキがメイドに指示を出していました。もともと一人で色々する女性でしたが、随分と女主人らしくなりましたね。実に良いことです。

 しかし、その後に。

 イツキが急に腹部を抱えながら膝をつき。

 僕やレクサスもですが、アーネストが一番に駆け寄って、彼女に声をかけましたが。


「……お、なかが……」

「こりゃ……」

「まさか……」


 ぽたっと、床に何かがしたたる音が聞こえました。

 医師でなくとも、多少は知っている知識で覚えているそれはたしか。


『破水』のはずです!


 アーネストは急いで、屋敷に待機させていた産婆を呼びました。僕らもイツキをゆっくり運ぶのを手伝いました!!
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