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番外編

第85話 奥様のこと

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 奥様は、本当に不思議な女性だわ。

 元が貴族様ではないらしいけれど……マナーなどは、下手に行儀見習いが苦手な淑女よりも、とても丁寧でいらっしゃる。

 言葉遣いも完璧で、だけど、私らのような使用人にもその姿勢を崩さない。

 一度お聞きしたのだけれど、昔からの癖らしく……旦那様もお気になされていないので、そのままと言うことになり。

 私らがお屋敷に仕えることになって、だいたいひと月くらい経ったが……変わったのは、ご懐妊の奥様の、お腹のふくらみが大きくなったくらい。

 最初は少しだったのに、今では目ですぐにわかるくらいの大きさまでふくらんでいるのだった。


「ふふ。中で動いていますね」


 奥様は、愛おしげにお腹をさすっていらっしゃるわ。そのお姿が、慈愛の女神のようでお美しい。決して、素晴らしい美貌ではない奥様だけど……こちらが安心出来るような容姿をお持ちで、下手に派手な女性よりお美しいのだ。


「あと三月程度でしょうか?」

「もうすぐ会えるのですね? 楽しみです」

「ええ、ええ……皆そう思っていますわ」


 このお屋敷の使用人は、皆奥様のお人柄に……既に絆されているのだ。お顔立ちもだけど、誰にでもお優しく……さらに、馳走を惜しみなく振る舞ってくださるこの方を。

 私達は、誰もがお慕いしているのだから。

 面接は旦那様ではあったが、奥様がこのように素晴らしい方だと知った時は……生涯、お仕えしたいとすぐに思うくらいだったもの。

 生まれてくる御子も、きっと素晴らしい方になるでしょう。

 ご両親が素晴らしい方々なのだから。

 メイド頭として、私は出来得る限りのことをしなくてはいけない。

 そのひとつとして……奥様から、編み物の練習を請われてはいたけれど。これくらいで本当にいいのだろうか?
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