王宮まかない料理番は偉大 見習いですが、とっておきのレシピで心もお腹も満たします

番外編

第72話『脂身で味付け、天津炒飯』

「ほな！」


　出されたからには、食わんわけにはいかん。完全にイツキはんが作った料理やないけど、せっかくの料理を断る理由はないからなあ？

　食器はスプーンのみ。これ以上余計な食器はいらん。食べるのは自分だけっちゅーのが、ちょぉ恥ずかしいんやけど……まあ、振る舞われる側だししゃぁないか。

　スープで軽く口を潤してから、メインの天津炒飯へスプーンを伸ばす。すっと、スプーンだけで卵のヴェールが破れ……中からは炒めた米リーゾが出てくる。そこに卵の上に乗っかってた『あんかけ』が流れ落ちていく。この瞬間も結構楽しみやねん。

　いつもは、ワルシュ先輩がイツキはんからレシピをもろて作ったもんを食うが……今日は違うんや。炒飯の部分がどれだけ違うか。

　卵、炒飯、あんかけをスプーンにきちんと乗せて、口に入れれば。

　今までにない味に仕上がってたんや！！


「……肉の味がする？」


　脂身しか入れてないって聞いたんやけど……ちゃんと、肉の風味がするし、こってりしとる！？　なんや、コクっちゅーか、焼いた肉を丸ごと食っとるような錯覚しそうな気持ちになんねん。いくら口の中に、天津炒飯を入れても肉は一切噛んどらんのに！！


「ふふふ。お肉の脂身を侮ってはいけませんよ？　野菜炒めにメインの肉がなくても味付けに最適な具材です」


　イツキはんが誇らしげに言うんやったら、それはすぐに納得出来るわぁ。めちゃくちゃ美味いんやもんな！！　後ろにおる料理人にもここまでの技術を伝授したのも……さすがやわぁ。


「んー。そんなら、野営でも使えるんか？」


　そこそこ料理が出来る部下に言ったら、喜びそうな情報だと思うわー。

　すると、イツキはんは『うーん』って、何故か首をひねった。


「全部が全部の脂身で使えるとは限りませんね？　例えば、鳥系はかなりじっくり焼かないと油が出てきませんし……脂身も消えたりしません」

「……そりゃ難しいなあ」


　野営でさっと捕獲出来るとなれば、ほとんどが鳥とかそれに類似する魔物やからな。咄嗟の思いつきにも、真剣に向き合って答えをくれるマブダチは……さすが元まかない料理番やんな。それ以上に、異世界の料理知識を豊富に持っとることも関係があるやろうけど。


「逆に猪や豚……あと、牛に類似するのは良いですよ？　以前サフィアさんとご一緒の時にお出しした『すき焼き』を覚えていますか？」

「おー。あれか？　たしかに溶けてたわ」


　生卵を食う習慣があった時は……まあ、めちゃくちゃ驚いたんやけど。濃いめに味付けした肉と野菜によう合ったわ。ああいうのは、まあ卵が新鮮じゃなきゃ無理だもんで、野営じゃ作れんがな？

　しかし、使える種類が限られとるのもおもろいわ。


「……あら、瞬殺ですね？」


　物騒な言い方をするのも、無理はない。

　話ながらやけど、自分はあっちゅーまに天津炒飯を完食してしまったんや。

　だって、美味すぎるんやで！？


「……これ。ワルシュ先輩にも伝えるん？」

「ふふ。捨てがちな食材を、レクサスさんに持たせたのですから……そういうお願いなんでしょうね」

「……おお」


　義理ともいえど、さすが親子で料理人同士。

　付き合いは自分やサーシャ先輩の方が上なんに……絆言うのは、副隊長とは別んとこであるんやろうなあ？