王宮まかない料理番は偉大 見習いですが、とっておきのレシピで心もお腹も満たします

櫛田こころ

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番外編

第66話『失敗、苦手オムライス』①

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「……んー。もう少し炒めた方がいいかもしれませんね」


 しかしながら、奥様に召し上がっていただいた『オムライス』の出来は、最悪の結果となってしまった。いつもにこやかでいらっしゃるお顔を曇らせてしまったのだ。


「も、もも……申し訳ありませんでした!」


 いただいたレシピ通りに作ったと思っていたが、やはり初めての料理と言うこともあり、うまくいっていなかったようだ。きちんと味見して、自分ではそれなりの味わいだと思っていたが。

 新しい料理を覚えられる嬉しさから、結果を最悪にしてどうする? せっかく主人に振る舞えれたのに、喜びの言葉はひとつもなかった。邁進しかけてた自分の愚かさを恥じたのだった。


「大丈夫ですよ? 誰でも失敗はあります。むしろ、オムライスでは初見の人だと、多い失敗ですから」

「そ、そうなのですね」


 自分が落ち込んでいると、何故か奥様が必死になって励ましてくださるので驚いてしまったのだが。もともと貴族じゃない方だからか、人との接し方はこのようなものなのだろうか? それか、奥様ご自身の性格かもしれないが……とにかく、必要以上に落ち込むのを止めることは出来たのだった。


「失敗した箇所だけ、手本を見せますので。他はキルトさんの作業を見ていてもいいです?」

「お……お願い致します」


 とは言え、主人のお願いを断る理由もないので……厨房に場所を移し、途中の手順までは奥様はなにもおっしゃらずに見守っているだけだった。

 ただし、野菜を炒める工程には注意をされたのだ。


「はい、そこです。にんじんはさっと炒めるのではなく……しっかり油で炒めてから一度お皿に取り出してください」

「わざわざですか?」

「煮込み料理でもですが、野菜の柔らかさがどれも同じくらいだと美味しく感じません?」

「……たしかに」


 言われてみれば、シチューなどは特にその固さにムラがないようにするのが当たり前。それは煮込めば問題はないが、今回の炒める時はそれがバラバラだった。自分が試作したオムライスには、玉ねぎやピーマンににんじんだったが、その柔らかさがバラバラ……特ににんじんは固い。それを、奥様はもっと美味しくすべく注意をしてくださったのだ。


「ピーマンは仕上げにさっと炒めるだけでもいいです。生のピーマンはとっても美味しいんですよ」

「苦くありませんか?」

「子どもは苦手な場合が多いですが、大人だとほとんどの人が美味しく感じます」

「……なるほど」


 実は、自分が今もピーマンを苦手としているのがわかればどう思われるだろうか。しっかり火が通っていれば食べられなくもないが、生は……生は想像し難い!!

 しかしながら、失敗を改善していただけるのにかわりないことなので、奥様にご指示を受けながら作ったオムライスは。

 さっき自分だけで作ったのよりも、ずっと輝いている出来栄えだった。実に美味しそうだ。


(……ほとんど生のピーマンを入れたが)


 果たして、本当に美味しいだろうか。
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