511 / 782
番外編
第65話 自信のなさ
しおりを挟む
しがない料理人でしかなかった自分が、さるお屋敷の料理長に就任することになったのだが。それまで、お屋敷での料理はすべて、奥様おひとりで切り盛りされていらした。
今日来たばかりの私だが、それはよく理解出来た。
(……完敗だな)
何せ、ただの女主人ではない。
イージアス国だけでなく、世界に蔓延していたかもしれない病の発見者であり、元英雄級冒険者で現役の宮廷料理長のワルシュ=エイペック様のご養女。御本人も料理人でいらっしゃった。
その方がご懐妊なされたために、自分のような一般の料理人を雇ったとはいえど……技術など到底追いつかない。それを今日、どれほど思い知ったことか。
奥様であるイツキ様より、レシピのまとめた台帳を譲り受けたのだが……おやつの『ホットケーキ』も含め、どれもこれも知らないものばかりだった。
「……まいったな」
正直言って、自分なりに自信を持っていたところはある。こちらへ来る前は、別の貴族の方のお屋敷で副料理長は勤めていた。腕前も、それなりに認められていたから……あちらの料理長にも背中を押していただけた。だから大丈夫だと思っていたところはあった。
だが、実際はどうだ?
まさか、救世主様のお屋敷だと知った時は大層驚いたが……ご懐妊でなければ、自分は用済みというくらい……奥様が手際が良過ぎた。当然だが、奥様はお城の料理人だったのだから。
それだから、自分が知らないレシピが多いのは仕方がないにしても……多過ぎるのだ、それが。どれもこれもが全く知らない、だが、実に美味しそうなものばかり。
すべてこれを……あの女性はおひとりで可能にしていたのだ。
「……下の料理人らは後日来るにしても」
今日から数日だけは、自分ひとりで旦那様方や使用人らの食事を作らなくてはいけない。単純に、料理人らの選抜が遅れているだけだった。自分だけ先にいるが、それでよかった。まだ顔も名前も知らないが、そこそこ程度の料理人では奥様からいただいたレシピはよくわからないだろう。
「……しかし。奥様はあと数ヶ月で臨月。栄養はしっかり摂っていただかないと」
レシピと睨めっこしながら、これまでの経験を活かし、まずはひとつ作ってみようと決めた。材料も先に確認していたから大丈夫だと思い。
料理人は、うじうじしているよりも、まずは行動すべしと師である料理長に教わったのだから。
そのために、下ごしらえとして米のつけおきから始めたのだ。そのあとには、野菜の皮を剥いたり刻んだとなどと……楽しくなってきたぞ!
今日来たばかりの私だが、それはよく理解出来た。
(……完敗だな)
何せ、ただの女主人ではない。
イージアス国だけでなく、世界に蔓延していたかもしれない病の発見者であり、元英雄級冒険者で現役の宮廷料理長のワルシュ=エイペック様のご養女。御本人も料理人でいらっしゃった。
その方がご懐妊なされたために、自分のような一般の料理人を雇ったとはいえど……技術など到底追いつかない。それを今日、どれほど思い知ったことか。
奥様であるイツキ様より、レシピのまとめた台帳を譲り受けたのだが……おやつの『ホットケーキ』も含め、どれもこれも知らないものばかりだった。
「……まいったな」
正直言って、自分なりに自信を持っていたところはある。こちらへ来る前は、別の貴族の方のお屋敷で副料理長は勤めていた。腕前も、それなりに認められていたから……あちらの料理長にも背中を押していただけた。だから大丈夫だと思っていたところはあった。
だが、実際はどうだ?
まさか、救世主様のお屋敷だと知った時は大層驚いたが……ご懐妊でなければ、自分は用済みというくらい……奥様が手際が良過ぎた。当然だが、奥様はお城の料理人だったのだから。
それだから、自分が知らないレシピが多いのは仕方がないにしても……多過ぎるのだ、それが。どれもこれもが全く知らない、だが、実に美味しそうなものばかり。
すべてこれを……あの女性はおひとりで可能にしていたのだ。
「……下の料理人らは後日来るにしても」
今日から数日だけは、自分ひとりで旦那様方や使用人らの食事を作らなくてはいけない。単純に、料理人らの選抜が遅れているだけだった。自分だけ先にいるが、それでよかった。まだ顔も名前も知らないが、そこそこ程度の料理人では奥様からいただいたレシピはよくわからないだろう。
「……しかし。奥様はあと数ヶ月で臨月。栄養はしっかり摂っていただかないと」
レシピと睨めっこしながら、これまでの経験を活かし、まずはひとつ作ってみようと決めた。材料も先に確認していたから大丈夫だと思い。
料理人は、うじうじしているよりも、まずは行動すべしと師である料理長に教わったのだから。
そのために、下ごしらえとして米のつけおきから始めたのだ。そのあとには、野菜の皮を剥いたり刻んだとなどと……楽しくなってきたぞ!
11
お気に入りに追加
5,501
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
【完結】ガラクタゴミしか召喚出来ないへっぽこ聖女、ゴミを糧にする大精霊達とのんびりスローライフを送る〜追放した王族なんて知らんぷりです!〜
櫛田こころ
ファンタジー
お前なんか、ガラクタ当然だ。
はじめの頃は……依頼者の望み通りのものを召喚出来た、召喚魔法を得意とする聖女・ミラジェーンは……ついに王族から追放を命じられた。
役立たずの聖女の代わりなど、いくらでもいると。
ミラジェーンの召喚魔法では、いつからか依頼の品どころか本当にガラクタもだが『ゴミ』しか召喚出来なくなってしまった。
なので、大人しく城から立ち去る時に……一匹の精霊と出会った。餌を与えようにも、相変わらずゴミしか召喚出来ずに泣いてしまうと……その精霊は、なんとゴミを『食べて』しまった。
美味しい美味しいと絶賛してくれた精霊は……ただの精霊ではなく、精霊王に次ぐ強力な大精霊だとわかり。ミラジェーンを精霊の里に来て欲しいと頼んできたのだ。
追放された聖女の召喚魔法は、実は精霊達には美味しい美味しいご飯だとわかり、のんびり楽しく過ごしていくスローライフストーリーを目指します!!
男装の皇族姫
shishamo346
ファンタジー
辺境の食糧庫と呼ばれる領地の領主の息子として誕生したアーサーは、実の父、平民の義母、腹違いの義兄と義妹に嫌われていた。
領地では、妖精憑きを嫌う文化があるため、妖精憑きに愛されるアーサーは、領地民からも嫌われていた。
しかし、領地の借金返済のために、アーサーの母は持参金をもって嫁ぎ、アーサーを次期領主とすることを母の生家である男爵家と契約で約束させられていた。
だが、誕生したアーサーは女の子であった。帝国では、跡継ぎは男のみ。そのため、アーサーは男として育てられた。
そして、十年に一度、王都で行われる舞踏会で、アーサーの復讐劇が始まることとなる。
なろうで妖精憑きシリーズの一つとして書いていたものをこちらで投稿しました。
人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします
吉野屋
ファンタジー
竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。
魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。
次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。
【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。