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番外編
第64話『出来立てホットケーキ』②
しおりを挟む「さて、食べましょう?」
用意が整ったので、奥様がそうおっしゃってから……私達使用人も神への祈りを済ませて、食器を手に取ろうとしたのだけれど。
この『ホットケーキ』にジャムや蜂蜜をどのようにつけて食べるのだろうか? パンと違って、ケーキを手で持つ食べ方ではないだろうし。
すると、奥様は蜂蜜のポットをご自分のケーキに回しながらかけていったのだ。
「ホットケーキは好きに食べていいんですが、シンプルに上に乗せておいたバターと蜂蜜だけでも美味しいんですよ。言い方は悪いですが、ステーキのようにして食べてみてください」
とおっしゃられたので、奥様の真似をするようにして口に入れてみると……ほわっとした温もりと一緒に、蜂蜜独特の風味と甘さもだけど……ふかふかのケーキの食感と甘さが優しくて……とても美味しいわ!?
少しバターの塩気も加わったけれど、その塩っぱさがちっともいやだとは思わない。むしろ、このケーキにはすっごく合うわ! これには、きっとジャムも合うかもしれない。
「奥様、とても美味しゅうございます」
「ふふ。ありがとうございます。この作り方は、ギルドにも登録してあるんですよ」
「なんと。しかし……焼き方はよくよく練習が必要ですな」
「焼き色をつけるのは難しいですからね」
料理長でも難しいだなんて……このケーキは単純な作り方のように見えて、実際は全然違うのだろう。しかし、いちごのジャムを試したけど、パンのように合うのでとても美味しい! 奥様お手製のジャムが美味しいからかもしれないが、すっごく合うの!! ひょいぱくって、実家の時のように慌ただしく食べてしまうのを抑え、出来るだけゆっくり、味わって食べることにした。他のメイドの先輩らは当然のように出来ているんだもの!
「左様ですな。この生地に、何か他を混ぜ込むのは難しいですか?」
「粉類だとココアがいいですね。具材は良くてバナナでしょう。水気が多いものですと、うまく焼けませんから」
「……バナナとは?」
「もっと暖かい地域の特産品ですね。独特の甘みと食感ですが、熱を加えても美味しいです」
「……そのような」
奥様は、東方大陸の人間の特徴をお持ちだけれど。様々な知識はどちらで得たのだろう? それに、ワルシュ様のご養女になられた経緯も気になるが……旦那様のご寵愛を一身に受け、お幸せになられている今を疑うのはいけない。
おやつをしっかり堪能させていただいたあとは、私達使用人がきちんと後片付けをして奥様には休んでいただいた。代わりに……ではないけれど、奥様は料理長にギルドへ登録させているレシピをまとめた本を渡し、夕ご飯の献立を決められることとなった。
おやつもだけど……奥様のレシピはきっと、美味しい以上の感動を覚えてしまうだろう。まだたった一日目なのに、私はすっかりここのご飯の虜となってしまった。
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