上 下
510 / 784
番外編

第64話『出来立てホットケーキ』②

しおりを挟む


「さて、食べましょう?」


 用意が整ったので、奥様がそうおっしゃってから……私達使用人も神への祈りを済ませて、食器を手に取ろうとしたのだけれど。

 この『ホットケーキ』にジャムや蜂蜜をどのようにつけて食べるのだろうか? パンと違って、ケーキを手で持つ食べ方ではないだろうし。

 すると、奥様は蜂蜜のポットをご自分のケーキに回しながらかけていったのだ。


「ホットケーキは好きに食べていいんですが、シンプルに上に乗せておいたバターと蜂蜜だけでも美味しいんですよ。言い方は悪いですが、ステーキのようにして食べてみてください」


 とおっしゃられたので、奥様の真似をするようにして口に入れてみると……ほわっとした温もりと一緒に、蜂蜜独特の風味と甘さもだけど……ふかふかのケーキの食感と甘さが優しくて……とても美味しいわ!?

 少しバターの塩気も加わったけれど、その塩っぱさがちっともいやだとは思わない。むしろ、このケーキにはすっごく合うわ! これには、きっとジャムも合うかもしれない。


「奥様、とても美味しゅうございます」

「ふふ。ありがとうございます。この作り方は、ギルドにも登録してあるんですよ」

「なんと。しかし……焼き方はよくよく練習が必要ですな」

「焼き色をつけるのは難しいですからね」


 料理長でも難しいだなんて……このケーキは単純な作り方のように見えて、実際は全然違うのだろう。しかし、いちごのジャムを試したけど、パンのように合うのでとても美味しい! 奥様お手製のジャムが美味しいからかもしれないが、すっごく合うの!! ひょいぱくって、実家の時のように慌ただしく食べてしまうのを抑え、出来るだけゆっくり、味わって食べることにした。他のメイドの先輩らは当然のように出来ているんだもの!


「左様ですな。この生地に、何か他を混ぜ込むのは難しいですか?」

「粉類だとココアがいいですね。具材は良くてバナナでしょう。水気が多いものですと、うまく焼けませんから」

「……バナナとは?」

「もっと暖かい地域の特産品ですね。独特の甘みと食感ですが、熱を加えても美味しいです」

「……そのような」


 奥様は、東方大陸の人間の特徴をお持ちだけれど。様々な知識はどちらで得たのだろう? それに、ワルシュ様のご養女になられた経緯も気になるが……旦那様のご寵愛を一身に受け、お幸せになられている今を疑うのはいけない。

 おやつをしっかり堪能させていただいたあとは、私達使用人がきちんと後片付けをして奥様には休んでいただいた。代わりに……ではないけれど、奥様は料理長にギルドへ登録させているレシピをまとめた本を渡し、夕ご飯の献立を決められることとなった。

 おやつもだけど……奥様のレシピはきっと、美味しい以上の感動を覚えてしまうだろう。まだたった一日目なのに、私はすっかりここのご飯の虜となってしまった。
しおりを挟む
感想 319

あなたにおすすめの小説

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

復讐はちゃんとしておりますから、安心してお休みください、陛下

七辻ゆゆ
ファンタジー
「フィオネよ、すまな……かった……」 死の床で陛下はわたくしに謝りました。 「陛下、お気が弱くなっておいでなのですね。今更になって、地獄に落とされるのが恐ろしくおなりかしら?」 でも、謝る必要なんてありません。陛下の死をもって復讐は完成するのですから。

1000歳の魔女の代わりに嫁に行きます ~王子様、私の運命の人を探してください~

菱沼あゆ
ファンタジー
異世界に迷い込んだ藤堂アキ。 老婆の魔女に、お前、私の代わりに嫁に行けと言われてしまう。 だが、現れた王子が理想的すぎてうさんくさいと感じたアキは王子に頼む。 「王子、私の結婚相手を探してくださいっ。  王子のコネで!」 「俺じゃなくてかっ!」 (小説家になろうにも掲載しています。)

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。