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番外編
第52話『シンプルで大変、メレンゲクッキー』②
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卵の白身を混ぜていく作業は、かなりの根気が必要だった。どろどろしている見た目がはじめはちっとも変わらなかったけれど、砂糖を少しずつ入れて混ぜていくとほんの少しずつ白くなっていくのだ。
私もだけれど、弟のユリウスも驚いたのか声を上げたのだった。
「面白ーい!」
「ふふ。まだまだですよ? もっと固く、持ち上げられる長さまでお願いします」
「もっと……ですか?」
「泡になるくらいですね。この工程が特に重要なので大変ですよ」
「「はい」」
妹に喜んでもらえるのであれば……頑張らねば。くるくる混ぜるよりも、もっと強く混ぜなくては。シャカシャカと音を立てて、私は混ぜてみたのだが……どんどん色も濃くなり、固まっていった。これが、コツなのかもしれないわ。
「いいですね、リリアンさん。お上手です」
イツキ様にも及第点をいただけたので、すくい上げてみれば。ふわっと、でも少し重たくて……お風呂でメイドらが使う髪を洗う時に使う薬油の泡に似ていたわ。
「これで……良いのでしょうか?」
「はい、大丈夫ですよ。ユリウスさんはどうですか?」
「出来ましたー!」
ユリウスもちょうど出来上がったと言うことで、次にクッキー作りではよく使う天板というものの上に蝋紙を敷き……スプーンで『メレンゲ』と言う生地を少しずつ落としていく。
くっつかないように、間を空けて……落としていき、あとはこれをしばらく窯の中で焼くのだそうで。
「メレンゲクッキーは焼くと言うより『乾燥』させるクッキーなんです」
「「かんそう?」」
「冬に唇がパリパリしませんか? 瑞々しくないあれを乾燥していると言います」
あの冬の天敵を、今お菓子作りでも同じようにしている。少し不思議だったが、面白い。これまで料理もだがお菓子作りにも関わって来なかったので、すべてが面白く見えるのだ。エイミーもマーキュリーが一緒とは言え、いつもこのように楽しげな事の中にいるのかしら?
姉とは言え、あの子への気遣いがまだまだだと実感させられたが、不思議と不快には思わない。それはきっと、慈母の女神のようにお優しいイツキ様から、ご指導いただいているからだろう。
とりあえず、焼けるまで時間がかかるのでお片付けの手伝いをすることになったが……道具も材料も少なかったので、あっという間に終わってしまった。
それともうひとつ。
「イツキ様! すっごく甘い匂いですね!」
ユリウスが驚くくらい、厨房の中で独特ではあるが甘い匂いに包まれていくのだ。砂糖の匂いが広がっていくような、クッキーにしては甘ったるい匂い。本当にクッキーが出来上がっているか不思議な感じだった。
「乾燥している証拠でもありますね。気分を変えて、ちょっとだけ苦いですが甘い飲み物をご用意させてください」
とおっしゃって、コーヒーの香りと共に出来上がったのは……一見すると泥水のような飲み物だった。だが、イツキ様がわざわざご用意してくださったので……ひと口飲むと驚きの甘さと風味が口の中に!?
「……甘くて美味しいです」
ほんのちょっと苦いが、それがまた良い。お茶の渋みとも違うがこれはとても好きな味わいだった。
「僕も好きです!」
ユリウスも気に入ったようで、ごくごくと飲み干していくと……イツキ様は窯の中身を確認され、ミトンをはめた手で天板を取り出した。ユリウスと覗き込むと、ほとんど焼く前と変わりないように見えたが……乾いている表面を見て、出来上がりがわかった。
「さあ、ひと口」
触っても大丈夫なくらいまで冷まし。イツキ様にどうぞと勧められてから、ひとつ手に取ったが……普通のクッキーより、驚くほど軽かった。綿でも手にしているような感じだ。
ユリウスとせーので食べてみると……食べたはずなのに、サクッとしたあとが消えてしまったのだ。お砂糖の味はしたのに、生地がすぐに消えた。
「「……消えた」」
「これがメレンゲクッキーの醍醐味です。面白いでしょう?」
「……ええ」
頑張って作って、きちんと出来た。
それが全く知らないものであれば……エイミーもきっと喜ぶかもしれない。ましてや、イツキ様に教わったものであれば。
「「ありがとうございます、イツキ様」」
ユリウスと改めてお礼を告げ、メレンゲクッキーは持ち帰るように包んでいただき……屋敷に帰ってから、イツキ様に教わった『カフェオレ』をメイドに入れてもらってから、エイミーだけでなく両親とも食べたが。
「……美味しい、です」
エイミーの小花のように愛らしい笑顔を見れたので、やはりイツキ様は偉大だわ、と納得が出来た。
私もだけれど、弟のユリウスも驚いたのか声を上げたのだった。
「面白ーい!」
「ふふ。まだまだですよ? もっと固く、持ち上げられる長さまでお願いします」
「もっと……ですか?」
「泡になるくらいですね。この工程が特に重要なので大変ですよ」
「「はい」」
妹に喜んでもらえるのであれば……頑張らねば。くるくる混ぜるよりも、もっと強く混ぜなくては。シャカシャカと音を立てて、私は混ぜてみたのだが……どんどん色も濃くなり、固まっていった。これが、コツなのかもしれないわ。
「いいですね、リリアンさん。お上手です」
イツキ様にも及第点をいただけたので、すくい上げてみれば。ふわっと、でも少し重たくて……お風呂でメイドらが使う髪を洗う時に使う薬油の泡に似ていたわ。
「これで……良いのでしょうか?」
「はい、大丈夫ですよ。ユリウスさんはどうですか?」
「出来ましたー!」
ユリウスもちょうど出来上がったと言うことで、次にクッキー作りではよく使う天板というものの上に蝋紙を敷き……スプーンで『メレンゲ』と言う生地を少しずつ落としていく。
くっつかないように、間を空けて……落としていき、あとはこれをしばらく窯の中で焼くのだそうで。
「メレンゲクッキーは焼くと言うより『乾燥』させるクッキーなんです」
「「かんそう?」」
「冬に唇がパリパリしませんか? 瑞々しくないあれを乾燥していると言います」
あの冬の天敵を、今お菓子作りでも同じようにしている。少し不思議だったが、面白い。これまで料理もだがお菓子作りにも関わって来なかったので、すべてが面白く見えるのだ。エイミーもマーキュリーが一緒とは言え、いつもこのように楽しげな事の中にいるのかしら?
姉とは言え、あの子への気遣いがまだまだだと実感させられたが、不思議と不快には思わない。それはきっと、慈母の女神のようにお優しいイツキ様から、ご指導いただいているからだろう。
とりあえず、焼けるまで時間がかかるのでお片付けの手伝いをすることになったが……道具も材料も少なかったので、あっという間に終わってしまった。
それともうひとつ。
「イツキ様! すっごく甘い匂いですね!」
ユリウスが驚くくらい、厨房の中で独特ではあるが甘い匂いに包まれていくのだ。砂糖の匂いが広がっていくような、クッキーにしては甘ったるい匂い。本当にクッキーが出来上がっているか不思議な感じだった。
「乾燥している証拠でもありますね。気分を変えて、ちょっとだけ苦いですが甘い飲み物をご用意させてください」
とおっしゃって、コーヒーの香りと共に出来上がったのは……一見すると泥水のような飲み物だった。だが、イツキ様がわざわざご用意してくださったので……ひと口飲むと驚きの甘さと風味が口の中に!?
「……甘くて美味しいです」
ほんのちょっと苦いが、それがまた良い。お茶の渋みとも違うがこれはとても好きな味わいだった。
「僕も好きです!」
ユリウスも気に入ったようで、ごくごくと飲み干していくと……イツキ様は窯の中身を確認され、ミトンをはめた手で天板を取り出した。ユリウスと覗き込むと、ほとんど焼く前と変わりないように見えたが……乾いている表面を見て、出来上がりがわかった。
「さあ、ひと口」
触っても大丈夫なくらいまで冷まし。イツキ様にどうぞと勧められてから、ひとつ手に取ったが……普通のクッキーより、驚くほど軽かった。綿でも手にしているような感じだ。
ユリウスとせーので食べてみると……食べたはずなのに、サクッとしたあとが消えてしまったのだ。お砂糖の味はしたのに、生地がすぐに消えた。
「「……消えた」」
「これがメレンゲクッキーの醍醐味です。面白いでしょう?」
「……ええ」
頑張って作って、きちんと出来た。
それが全く知らないものであれば……エイミーもきっと喜ぶかもしれない。ましてや、イツキ様に教わったものであれば。
「「ありがとうございます、イツキ様」」
ユリウスと改めてお礼を告げ、メレンゲクッキーは持ち帰るように包んでいただき……屋敷に帰ってから、イツキ様に教わった『カフェオレ』をメイドに入れてもらってから、エイミーだけでなく両親とも食べたが。
「……美味しい、です」
エイミーの小花のように愛らしい笑顔を見れたので、やはりイツキ様は偉大だわ、と納得が出来た。
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