王宮まかない料理番は偉大 見習いですが、とっておきのレシピで心もお腹も満たします

番外編

第1話 騎士の帰宅

　アーネスト・ハインツベルト。

　王宮のまかない料理番であった、イツキ・エイペックと婚姻を結んで……そろそろ半年くらい経つだろうか？

　今日も今日とて、日課や執務をこなし……独身寮ではなく、イツキがいる屋敷へと馬を走らせていた。


(今日は何を食べられるだろうか？)


　そんな気持ちがはやり、馬を急がせてしまう。

　帰路は、さほど遠くなくとも……愛する人の手料理が食べられると思うと、いてもたってもいられない。

　なぜなら、イツキが取り入れてくれた食堂の仕組みが定着してから今では。

　彼女の養父であるワルシュ殿が率いる、王宮料理人らの美味い料理は日夜口にはしているが。

　朝と晩。

　イツキと結婚したことで、俺が虜になった料理を……俺だけが口に出来るのだ。基本的には。

　イツキは人柄がよく、誰にでも好かれやすい。だからこそ、我が家に客が来ることも多い。それでも……帰ることは帰るので、彼女が俺との食事を作って待ってくれているのだ。


「……着いたか」


　到着した時は、夏と言うこともありまだ外は明るい。

　すぐ目の前にある屋敷を見ても、明かりは決まった箇所にしか灯っていない。イツキが、実は異世界からの渡航者と言う真実は……ごく限られた人間しか知らない。

　その存在だからか、彼女は魔法を得意としない。もともと、それすらない文化の出身者。だから、明かりを使用する場を自然と限定してしまうらしい。魔法ではなく、火を使って。

　もったいないからと、使用する場所だけにしか灯していない。俺と結婚してからは、屋敷を任せる人間になったので……少しずつ練習はしているそうだが。

　それでも、まだまだ乏しい。そんな健気さも愛おしいが。

　とりあえず……俺は馬を厩に入れるのに、一旦降りた。

　この屋敷には、基本的に使用人がいない。

　互いに身支度などが出来るので、俺とイツキの二人きりが普通だが……あと少しで、それも終わってしまう。

　何故なら、イツキは今、俺達の子どもを身ごもっているのだ。それで、結婚をするきっかけになった。

　しかし、安定期を過ぎるまでの悪阻なども……命を宿した以降は特に悪化はしていない。なので、料理炊事などの家事仕事は彼女の担当だ。

　だから、基本的には使用人がいない。

　とは言っても、臨月間近はそうもいかないので……今は俺の実家が選別をしてくれているところだ。出産したら、乳母は雇わずに自分で育てたいと言っているが。

　それでも、炊事などはそうもいかない。

　あと少し……も惜しいとは思うが。

　俺との子どもを囲んだ生活も出来るのだ。悪いことばかりではない。

　馬をしっかりと厩に入れ、荷物などを持って玄関に向かえば。

　すぐに、扉が開いた。


「おかえりなさい、アーネストさん」

「……ただいま、イツキ」


　満面の笑みで、イツキが出迎えてくれる。これが嬉しくて、ついいつも軽いキスを贈ってしまうのだ。まだ慣れない習慣に顔を赤らめる彼女も愛らしい。

　積もる話が多いので、ひとまず屋敷に入って食堂に行くことにした。