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全員のまかない
第9話 ギルドマスターのまかない
しおりを挟む「キリー!! ちょっとごめんなさぁい!!」
本日も、生産ギルドのマスターとして執務などに明け暮れていると……ジェイシリアいちの仕立て屋を経営している、エマと言う女性が婚約者の男性の首根っこを掴みながら、いきなり部屋に入ってきた。
「エマ? クラウドもいったい何を?」
昔馴染みなので、今更突撃されてもこう言うのは慣れっこだ。
「キリー? あんた、イツキちゃんへの婚礼祝いとか決めてる?」
「……あ」
仕事が忙し過ぎて……その重大なことを、すっかり頭から抜け落ちていた!!?
「まだのようでよかったわん!」
「え?」
逆に好都合とはどう言うことだろうか?
「こっちのクラウドが、イツキちゃんの提供してくれたレシピで……一緒に作ろうって持ちかけてくれたのよん!!」
と言って、クラウドから奪うように見せてきたのは……『バウムクーヘン』と言うお菓子だった。
「そのお菓子……を?」
「あたし達だけじゃなく、ハーツも誘って合同で作りましょうよん!!」
「呼んだかー?」
ちょうど、副ギルマスのハーツも戻ってきたのだが。
仕事がまだあると口にしようとしたら、エマから今度は私の首根っこを掴まれて、厨房に引きずられたー!?
「ちょ!? エマ!!?」
「仕事の息抜きにも良いわよん!! 時間かかるし、早速!!」
「面白そうじゃねぇか? おい、後じゃ頼んだ」
「「「はーい!」」」
と、ハーツもやる気で職員達も協力してくれることになり……。
「ほう? 祝い事には特に喜ばれるケーキか?」
厨房に来ると、ハーツはクラウドから受け取ったレシピを見て、そう言った。登録の際に、サッとは目を通すものの……ひとつひとつ内容は覚えきれないので、私達も正確には覚えていないのだ。
私も観念して、レシピを覗いてみると……イツキさんに書いていただいた挿し絵を見て、少し驚いた。
「ケーキ?」
その割には……とても、シンプル。
木の切り株のようにも見えたお菓子だった。注釈には、確かにハーツが言ったように……発祥の地では、特別なケーキだと書かれていた。
特に、下の方には。
『夫婦がふたりで年月を重ねていく』。
と書かれていたので、たしかにイツキさん達へ贈るお菓子としては相応しい!!
失敗は付き物だが、今回はクラウドもいるので……彼を中心に手分けして、それぞれの魔法も使いながら出来上がった『バウムクーヘン』と言うのは。
切る前は、どう見ても木材のような出来上がりにしか見えなかった。
「「出来たな……??」」
「出来たわねん?」
「……これを? 切れば??」
芯に使っていた、棒を抜き。
味見も兼ねて、皆で食べようと切り分けてみれば。
たしかに……イツキさんの挿し絵通りの出来栄えだった!!
(……喜んでいただけるだろうか?)
報酬金とかはあまり喜ばれていないようだったし、この方がいいかもしれない。
結婚式まではもう少し後だが、亜空間収納に入れておけば大丈夫。
ギルマスの仕事もひと段落ついたら、ハーツを連れてイージアス城に行こうと決めた。
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