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料理長のまかない⑦

第4話『どでかいカキフライ』

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「お酒でも牛乳でもいいんですけど……カキの毒消しにはこれが最適ですね?」


 ぷりぷりとした身はそのままだが、だんだんと大根イエルのペーストが……ドス黒くなってきやがった!? これが……汚れ落とし……毒消しと言うのか?

 たしかに、これを知ると無闇に生で食おうと言う考えが出来なくなってきた。


「……生でも食えると聞いていたが」

「あ。大丈夫だと思いますよ? このカキは加熱用と生食用の両方とも大丈夫そうですし。今回の毒消しは、念のためです」

「……そうか」


 基準は素人なのでよくわからねぇが、イツキが言うのなら大丈夫だろう。異界からの渡航者な上、俺以上の特級料理人だからな?

 イツキは、しっかり揉み込んだカキを……次に、洗浄クリアの生活魔法でよく水洗いして、大根イエルを洗い落としてから鞄に入れてた乾いた布でカキの身をひとつひとつ丁寧に拭いていく。

 こう言う手間が、いつものまかないで作ってくれる美味い飯に通じるんだろうなあ?


「うーん……パン粉足りますかね? ここまで大きいのは予想外ですし」

「人手は多い方がいい。野郎どもに手伝わせるか?」

「呼んだかー?」


 ゲイリッシュの作業が終わったのか、ちょうどいいところに来た。事情を話せば、『美味いもんが食えるなら!』と手作業でも出来るパン粉作業をイツキが伝えてから、奴は野郎どものとこに行った。


「……とりあえず、試作しますか?」

「だな」


 俺はタルタルソース作り。

 イツキはカキフライの仕上げだ。

 カキフライは、他のフライと同じようにコロモをまとわせるようだが……身が大きい分、イツキでも少し手こずっていた。しかし、油鍋の中に入れると……揚げもん特有の音に聞き入りそうになった。


「……念のため、片面二分……いや、五分かな?」


 生で食えると言えど、揚げもんでも生焼けは美味くない。素揚げだけの頃はあんま気にしていなかったが、イツキが伝えてくれたコロモはそれが違うとこいつが教えてくれた。

 実際、最初失敗したときに試しに食ったが……あんま食えたもんじゃなかった。中身もコロモも半生状態じゃうまくねぇって。

 だから、イツキの料理への勘を俺は馬鹿にしない。

 しばらくして……イツキから『よし』の声が聞こえたので、トングで崩さないように皿に乗せるのを手伝い……俺が作ったタルタルソースをかければ。


「……美味そうだな?」


 イツキのフライを知っているから、言える言葉だが。


「お? 出来たのか?」


 ちょうど、ゲイリッシュが追加のパン粉を出来たのか持ってきたところだった。


「はい! ゲイリッシュさんも一緒に試食お願いしていいですか?」

「いいのか?…………それが、カキなのか??」

「こいつの料理はめちゃくちゃ美味いぞ?」

「ほー? んじゃ」


 イツキが、あのジジイがこしらえた自分だけの包丁で切り分けてくれたが……中身を知ってなきゃ、臓物かと勘違いしそうになった。つか、このカキってたしか貝の類か?

 さらに食べやすい大きさに切ってくれたカキフライをイツキから皿ごと受け取り……フォークで刺してからタルタルソースをたっぷりつけて口に入れてみる。


「「ほふ!?」」


 ゲイリッシュと同時に声を上げてしまった。

 だが、これは。

 このフライの……美味さは!!


「「うんめぇ!?」」


 コロモは相変わらず、サクサクと……だが、しつこくない軽い食感。

 中は……貝にしてはクリーミーな上に、味が濃い!?

 そこにタルタルソースが加わると、その濃さをまろやかに包んでくれる。噛めば噛むほど……味が口いっぱいに広がって、もっと食いたいと欲望が高まる!!

 こいつはいいモンだ!?


「うーん! やっぱり、カキはフライも美味しいです!!」


 イツキも大満足なのか、いつも以上に笑顔になっていた。


「スッゲェぞ、嬢ちゃん! こいつぁ、生とか浜焼き以上のもんだ!! パンコとやら以外でどう作るんだ!!?」

「そこまで難しくはないですよ?」


 料理を作り、他人に喜んでくれるのももちろんだが……他人に技術を惜しみなく伝えるのもイツキの良さだ。

 んでもって、人柄がいいから相手はすぐに絆されてしまう。城では、アーネストのぼんが婚約者だからっつーのと……もう手を出された事実はだいぶ知られているから、大丈夫だとは思うが。

 他所では大丈夫なのか、いくらか心配になってはいる。


(……これが、父親の心境か?)


 とは言えど、マジの自分のガキをすぐにこさえるかどうかは別問題。サーシャへの負担は、冒険者稼業を考えると色々考えさせられる。


「料理長ー! 皆さんの分も揚げましょう?」

「……おう」


 とりあえずは、かりそめでもこの養女むすめとのやり取りを、こいつが嫁ぐまでは続けたかった。
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