王宮まかない料理番は偉大 見習いですが、とっておきのレシピで心もお腹も満たします

櫛田こころ

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料理長のまかない⑦

第1話 フライの可能性

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 年を新しく迎える時期が近づいてきた。

 俺がサーシャと婚姻を結んでそこそこ経つが。

 今日は、養女むすめのリクエストもあり……とある海岸に来ていた。無茶苦茶寒いがな!?


「……さび」


 防寒具は着込んでいるが、風が強く吹き荒れて顔に叩きつけてくんのが痛いくらいだ。なのに、イツキは全然平気だと俺の隣を歩いていた。


「楽しみですね~!」


 これから出会う予定の食材に、期待しかしていない嬉々とした表情だった。


「……嬉しそうだな?」

「だって、『カキ』ですよ!!」

「……カキねぇ」


 これから出会うのは、海産物だが……一応魔物だ。性質上おとなしいことで有名だが、魔物は魔物。

 俺が魔物肉を広めた後に、地元のやつらが食えるんじゃないかと採取してからは食うようになった食材だそうだ。

 なんと、焼くのもいいが生でも食えるやつらしい。魔素の影響もほぼないときた。

 イツキのいた世界でもあるらしいが、魔物ではなく普通の海産物として扱ってたそうだ。んで、ある料理をしたいと俺に聞いてきて、久しぶりの親子での遠出だと転移方陣を使って遠方に出てきたのだ。冬の海辺がめっちゃくちゃ寒いのを忘れていたが。

 俺は……暑いのも得意じゃないが、寒さにはてんでダメな方だ。


「ホイル焼き、シチュー、レモン和えもいいですけど……やっぱり、カキフライですね!!」

「……そんな美味いのか?」


 フライはイツキがイージアス城に広めてくれた、異界の料理のひとつ。今じゃ食堂でも定番だが、カキがフライになるのが予想しにくかった。


「美味しいですよー? ウスターソースでもいいんですけど、タルタルソースとの相性も抜群です!」

「……マジか」


 タルタルソースもイツキが最初に教えてくれたソースだが……魚のフライには大抵合う。あれは、一度ハンバーガーで魚のフライにしてみたら……すぐに、俺の大好物になった。一度で済まずに、何度も試した。サーシャとの新居であいつにも作ってやったら相当喜んだしな?

 それが……カキともめちゃくちゃ合うだと??


「日本人はフライの可能性を余すとこなく追及するのもですが、フライの技術が他国と比較しても違うんですよ? 脂っこいより、軽い食感が独特ですね?」

「……たしかに、お前さんの教えてくれたもんは軽い食感が特徴的だな?」

「恐縮です」


 これまでの素揚げしたもんしかなかった、俺達の世界での技術と段違いだ。

 サクッとした食感もだが、コロモがあっても食べた後にそこまで胃が重たく感じない。

 部下らの最近気に入りはポテトチップスだが、あれは素揚げなのに……芋が薄いせいか、基本的に軽い。おまけに、味も色々試したい放題だ。イツキのいた世界じゃ、各国で味付けが全然違うらしい。


「お? あそこだ」


 目的の海岸脇に着くと、すでに作業していたのか……海岸には似つかわしくない、剣戟の音が響き渡っていた。


「…………え?」


 イツキも、その場所が見えるとこに立つと。

 カキが人間とぶつかり合いしているのに驚いてしまった。
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