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隊長のまかない⑨

第4話『紫じゃがいもポテチ』

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 ショリ……ショリ。



『スライサー』と、イツキがハクト殿に製作をお願いされた調理道具。

 それは、ピーラー同様に食材を薄く切ることの出来る器具でした。刃には注意しなければいけませんが……あと少し、で分厚くなる箇所は押さえがあるようです。押さえる部分に棘があり、じゃがいもを刺して最後まで薄切り出来る優れものでした。これも、イツキがハクト殿に説明したのでしょう。


「……イツキはん? これも……薄切り、するん?」

「……これも、芋か?」


 レクサス達が困惑したような物言いとなったので、僕も顔を上げましたが……たしかに、驚く出来事がありました。


「…………それは、じゃがいもですか??」


 毒でもありそうな、亜種とも見える……真紫のじゃがいも。

 文献では……何度か目にしたような、と思い出しました。薬草学で、薬の材料には使える紫の根菜……『エディト』だったはず。


「はい? 薬にも扱えるようですが、食用でもありますよ? 火を通すとさらに鮮やかで、塩味だけでも病みつき間違いなしです!」


 と言うことは、イツキとリュシアーノ様がいらっしゃった世界では、通常に扱われていた食材なのでしょう。そう言えば、ワルシュ料理長に伺いましたが……イツキは浄化した魔物肉などの臓物も口に出来ることに成功したと。なら、特級料理人のスキルもあり……そのようなことが出来るのですね。


「食べてみたいわ!」


 リュシアーノ様は、ご存知でいらっしゃるからか無邪気な笑顔でいらっしゃいました。

 せっかくだから、とイツキがささっとスライサーで薄切りにし……既に熱していた油鍋の中に丁寧に、エディトの薄切りを入れていきました。


「一度に入れると、重なった部分がうまく揚げられないんです。丁寧にゆっくり火を通して……カリカリになったら出来上がりです!」


 東方大陸では食器として有名な、長い箸を使い一枚ずつイツキは網の上にエディトの薄揚げを載せていきました。平らだったのが、湾曲に曲ったりと様々な形になりましたが……色が、さらに鮮やかな紫となり、塩をかけても食欲が湧きませんでした。

 アーネストとレクサスも同じようですが……おひとり、リュシアーノ様だけは目を爛々と輝かせ、イツキに許可をもらってから少し冷めたポテチとやらを手にして……お口に入れられました!?



 ぱりん、ぽりん。




「おいひい!!」


 軽快とも言える、心地良い音の後に……リュシアーノ様がご自分の頬を両手で覆いました。余程……美味だと言うことでしょう。

 なので、引いているレクサス達を置いておいて、僕もひとつ……口に入れてみました。

 音は同じですが……。


「これは!?」


 カリカリとした食感。

 塩気ももちろんですが、薬材で使うエディトのイメージとはかけ離れ……じゃがいも特有の甘味をきちんと感じ取れます!!

 本当に軽い食感なので、ひと口噛んで味を楽しんでから喉の奥に入れる感覚が……イツキがお得意のフライドポテトと少し似ている気がしました。考えれば、あれも形態は違えどじゃがいもを油で揚げている料理ですしね?


「「隊長……そんなに??」」

「はい。これはツマミにも最適ですよ」


 イツキが陛下にお教えした、冷えたエールとの相性が良いと思います。

 僕が頷いてから、ふたりもポテチを手に取り……しばらく待って口に入れると、僕ら以上に病みつきとなりどんどん口に放り込んでいきました。


「ポテチは塩もいいですが……単純な塩だけでなく、岩塩もいいんですよね?」

「あとはあとは?」

「ヘルミーナ様方へお出しした、ピザぽい味付けも」

「わーい!!」


 羨ましいくらい、イツキはリュシアーノ様から輝く笑顔を簡単に引き出しますが。そこは同郷の者同士ゆえ仕方がありません。


「……なあ、隊長」


 レクサスがいつのまにか僕の隣に立って、質問をしてきました。


「はい?」

「あの素振り……まさか、殿下もイツキはんと似た方なん?」

「と言いますと?」


 気づいたのなら、僕は否定をしません。


「渡航者はあり得へんし……けど、まさか……転生?」

「極秘ですよ?」

「いつからなん?」

「記憶を甦らせて、まだ一年ほどです」

「……なんでなん?」

「僕が原因ですから」


 陛下の前で一度目の告白をしたことを伝えれば……レクサスはその場でひっくり返り、ちょうど近づいていたアーネストの顎にヒットしてしまいました。
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