上 下
369 / 782
騎士のまかない㉔

第1話『美味しくないアボカドフリットの原因』

しおりを挟む
 やってしまった。

 言ってしまった……こんな真っ昼間から。

 とは言え、日も傾いてきたのだ。そろそろ、予約してある宿に行くべきか。


(いやいや……まだ早い)


 イツキに言ってしまったとは言え、同意を受け取ったわけではないのだ。拒否はされていないが……だからって、『では、しよう』と言うことに繋がるわけではない。

 少し前に嬉しくなって口づけをしたが……それだけでも、盛大に照れてしまったイツキだ。とこに行けばどうなってしまうか……想像するだけで、可愛らしいだろう。

 なら、もうひとつの方法で彼女を先に落ち着かせよう。

 そう思っていたら。


「……アボカドのフリット」


 市場の並びを横切ろうとしていたら、イツキが少し興奮気味でそのようなつぶやきをこぼした。


「アボカド? 以前イツキが用途を広めてくれた」

「あ、はい。今……フリットと一緒に匂いが」

「そう言えば……」


 実家の公爵家を経由して、いくつか知らせがあった。妹のアイシスがアボカドを使ってサンドイッチを作ったりもしたが……市井しせいの方でも、イツキが生産ギルドにレシピを登録させたことで、用途が広まった。

 その中でも、俺はフリットは好きだった。素揚げではなく、衣と言うものをまとわせて油で揚げたあれは塩だけでも十分に美味いのだ。

 食べたいのか、と聞くとイツキは首を左右に振った。


「揚げ油が気になって。ここでも匂うくらい酸化しているので」

「……さんか? とは?」

「揚げ油もですが、食材は時間が経てば腐敗するのはわかりますよね?」

「ああ、何と無くは」

「それを幾度も使い過ぎる……油ではそれが多いんです。こまめに油を変えないと……体に影響を及ぼす食事を作るだけになります」


 それに、味にも影響が及ぼす可能性が。

 と、イツキが言うので、それはいけないと匂いの根源である屋台に行けば。

 ひとりの女性の店員が、楽しそうに調理しているところだった。


「あら、いらっしゃい」

「いきなりですみません。さしでがましいことを申しますが」

「? はい?」

「こちらで調理している商品……最近、あまり売れていないのでは?」

「え、ええ!? なんでそれを!?」


 やはり、イツキは素晴らしい。

 特級料理人と言う技能スキルがあるお陰もあるだろうが、以前いた場所での経験もあるからだろう。

 店員は調理の手を止めて、あわあわとし出した。


「改善は出来ます。揚げ油を定期的に変えればいいんですよ」

「油を?」

「揚げ油は使い込めば、使うだけさまざまな食材の一部が溶け込んで……味だけでなく、色や匂いも変わります。お姉さんのお店だとなにを揚げていますか?」

「えっと……アボカドのフリット、以外は特に」

「じゃあ、なおさら質のいい油にすべく、頻繁に変えましょう。それだけで、味も全然違います」

「ほえ~? お姉さん、すごいねぇ? 料理人? にしては、食べてないのに詳しいけど」

「えっと……ちょっと、働いている関係で」


 まさか、特級料理人で……ワルシュ料理長の養女むすめとは言いにくいだろう。

 それと、味見を兼ねて一度店員が作ったアボカドのフリットを口にしたが。

 たしかに、おかしな風味が口の中に広がった。
しおりを挟む
感想 319

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

【完結】ガラクタゴミしか召喚出来ないへっぽこ聖女、ゴミを糧にする大精霊達とのんびりスローライフを送る〜追放した王族なんて知らんぷりです!〜

櫛田こころ
ファンタジー
お前なんか、ガラクタ当然だ。 はじめの頃は……依頼者の望み通りのものを召喚出来た、召喚魔法を得意とする聖女・ミラジェーンは……ついに王族から追放を命じられた。 役立たずの聖女の代わりなど、いくらでもいると。 ミラジェーンの召喚魔法では、いつからか依頼の品どころか本当にガラクタもだが『ゴミ』しか召喚出来なくなってしまった。 なので、大人しく城から立ち去る時に……一匹の精霊と出会った。餌を与えようにも、相変わらずゴミしか召喚出来ずに泣いてしまうと……その精霊は、なんとゴミを『食べて』しまった。 美味しい美味しいと絶賛してくれた精霊は……ただの精霊ではなく、精霊王に次ぐ強力な大精霊だとわかり。ミラジェーンを精霊の里に来て欲しいと頼んできたのだ。 追放された聖女の召喚魔法は、実は精霊達には美味しい美味しいご飯だとわかり、のんびり楽しく過ごしていくスローライフストーリーを目指します!!

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。