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騎士のまかない㉓

第4話『抹茶でわらび餅』

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「材料、ありがとうございます」


 イツキは他所行きの服の上から……エマに借りた大きめのエプロンを身につけた。

 エマのサイズの関係で、少しぶかっとしていたが……それがまた良い!

 鼻血を出しそうになったが、なんとか耐えた。


「このオマッチャでどう作るのん?」

「途中までは、材料の違い以外は普通のわらび餅と同じ作り方です。お湯で溶かした抹茶をここに入れて」


 少し離れたところで見ていた俺だが……イツキが楽しそうで何よりだ。

 今日の本来の目的もだが……イツキには終始笑顔でいてほしい。本番を迎えたらどうなるかわからないが……今は、あれでいい。

 せっかくの休暇なのに、彼女をずっと緊張させ続けるのも良くないと思ったからだ。


「あんら? 綺麗な緑色ねん?」

「あとは、練ったら冷やすのも同じです」

「材料ひとつでこうも違うのねぇ?」

「仕上げにも抹茶は使います」

「苦くない?」

大豆ソイルとお砂糖を混ぜるので、そこまでは」


 すぐに出来るらしく、俺も少しわくわくしていた。

 ここでのワラビモチもたしかに美味かったが……イツキが手がけたものはどれほど美味くなっているのか。気になって気になって仕方がない。

 うずうずしていると、マントを踏んだのか引っ張る感覚があったが。


「……歓喜、見える」


 いつのまにか、隠密部隊のスイードが……部隊の服装そのままで、俺の横に立っていた!?


「な、何故!?」

「? 誘導、来た」

「誘導?」

「外……今は、大丈夫」


 と言うことは、何か情報で引っ掻き回したのか……ほとぼりが冷めたのだろうか?

 彼女に続いて、外が見える窓に近づくと……人通りは相変わらずだが騒いだいるようには見えなかった。


「…………たしかに、これなら」


 出歩いても問題がないようだが。本当に、隠密部隊にまで気を遣わせてしまうとは。陛下直属であるのに……陛下にもお気を遣わせてしまった。

 陛下にも、今回の泊まりがけの休暇を知られているとしたら……きっと、同情されるだろう。とりあえず、難はひとつ去った!!


「じゃ、これで」


 と言って、スイードはまた風のように消えてしまった。

 本当に言伝だけ言いに来たのだろう。律儀というか、なんというか……。


「お待たせしました! 抹茶を使ったわらび餅です!!」


 そうしている間に、まったくこちらの様子に気づいていなかったイツキらの調理が終わったようで。

 俺に見せてくれると……先にあの透明なワラビモチを食べていなければ、食べ物に見えなかった。緑色のスライム……ボックススライムかと思った。

 しかしながら……イツキが手がけたものなので、実際いただくと砂糖の優しい甘さも相まって、物凄く美味かった!!

 苦味も多少あるが、それがかえって味わいを引き立てているようだったからだ!!
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